岸田総理の迷走ばかりが目に付く臨時国会の始まりで来年夏の参院選は波乱を呼ぶか
フーテン老人世直を巡るし録(622)
極月某日
自民党の党首と立憲民主党の党首が交代して初の国会が開かれたら、わずか数日しか経たないのに目に付くのは岸田総理の迷走ぶりである。10月の総選挙で絶対安定多数を確保した自民党は、勝利と思ったのもつかの間、この状況が続けば来年の参院選で野党に過半数の議席を奪われかねない。
参議院で過半数の議席を奪われれば「衆参ねじれ」が生じ、政権運営は極めて難しくなる。岸田総理は敗北の責任を取って退陣せざるを得ず、後継総理を巡って自民党に内紛が起こる可能性もあるが、誰が総理になっても厳しい政治が待ち受ける。そして自公政権は次の総選挙で勝てる保証がなくなる。
いったん遠のいたかに見えた政権交代が再び視野に入って来た。ただしそれには前提がある。野党がバラバラにならないことが絶対条件だ。野党がバラバラになれば20年以上の年月をかけて構築された自公連立体制を崩すことはできない。
これからの日本政治の焦点は野党がまとまれるか否かにかかっている。フーテンはまとまれると楽観視しているわけではない。右から左まで幅広い考えを包摂する自公連立体制に比べ、野党陣営の特徴はそれぞれの自己主張の強さにあり、それが権力を奪って国家を経営する意欲を上回る。
しかし野党の使命の第一は与党から権力を奪うことだ。与党を批判攻撃することでも自己の正義を訴える事でもない。どれほど野党が与党を批判攻撃しても、自己の正義を訴えても、与党は権力を奪われぬ限り本気で反省することはない。
政治に緊張感がもたらされるのは政権交代が現実味を帯びた時だけなのだ。国会が始まって数日しか経たないのに、岸田総理の迷走と自民党政治の古い体質、さらには自公連立体制の軋みを見せつけられると、野党陣営にはそれを批判攻撃するだけでなく、政権の受け皿としての覚悟と準備に着手すべきではないかと考える。
今国会の代表質問で論戦の主なテーマになったのは、18歳以下への10万円支給問題と国会議員に支給される「文書通信交通滞在費」の問題だった。いずれも総選挙で議席を増やし勢いに乗る日本維新の会が力を入れるテーマである。
公明党が選挙公約にした18歳以下への10万円支給を巡っては、自民党が公明党の言いなりにならず、支給対象に所得制限を設けることと、10万円のうち現金は5万円で、もう5万円分はクーポンにして来年春に配るという制限を設けた。
そのやり方が通常とは異なっていたので、フーテンは11月11日に「公明党の選挙公約を与党内調整ではなく公開で修正させた岸田政権の政治手法」というブログを書き、岸田政権と公明党との間に軋みが生じるのではないかと指摘した。
その後、クーポンにすると900億円を超える事務費がかかることが分かり、日本維新の会共同代表の松井一郎大阪市長をはじめ地方自治体の首長から「現金支給」を求める声が相次いだ。野党第一党代表として国会で質問に立った泉健太立憲民主党代表も「現金給付を認めるべき」と質すと、岸田総理は「地方自治体の実情に応じて現金も可能」と柔軟姿勢を見せた。
ところが原則はあくまでも現金とクーポンの2本立てで、時期もクーポン分は来年の参院選前に配る選挙対策目的であることが分かってきた。公明党が選挙公約にした「未来応援投資」という看板は国民を欺く羊頭狗肉の類であることがはっきりした。
その間、岸田総理は国会で柔軟な対応を見せるが、松野官房長官は原則論に固執し、そもそもこの支給が何を意味するのか分からなくなる。そうなればコロナ禍で困窮する国民を助けることに使った方が良いのではという声も高まる。
第一に支給された現金を国民が貯蓄に回さぬようクーポンで配るという考えは、いかにも国民を愚民と見ている官僚的発想で、岸田政権の本質は菅前政権とは真逆で官僚の言いなりにしかなれない政権という気がしてきた。
もう1つの「文書通信交通滞在費」の問題に火をつけたのは、初当選した日本維新の会の議員で、当選したその日に何も仕事をしていないのに月額100万円が配られたことへの疑問から始まった。当然の疑問なのだがこれまでの与野党はそれを頬被りしてきた。
自民党と立憲民主党の国対委員長は「日割り」にすることで合意したが、しかしそれは問題の本質とは異なる。活動経費であるなら領収書を添付して使途を明らかにし、使わなかった分は返納するのが世間一般で行われているやり方だ。昔から指摘されてはいたが、与野党は手を握って国民の目をごまかしてきた。
それがクローズアップされたのだから良いことだ。昔の自民党と社会党の癒着ぶりを知るフーテンには積年の思いがある。激しく自民党を攻める社会党議員ほど裏で利権を漁っていた。それを国民に分からせないために激しく攻める。だからフーテンには激しく攻める野党議員を見ると、反射的に裏での癒着を勘繰る癖までついてしまった。
かつて国民は自民党と社会党が激しく対立するのを見て民主主義は健全だと思わされてきたがとんでもない間違いだ。激しい対立は裏側での互いの利益の分け合いを見せなくするための演出だ。だから政権交代のない万年与党と万年野党の役割分担が続いてきた。
本気で政権交代を狙う野党になるなら、世間に説明のつかない仕組みを変えて、透明性を取り入れることだ。立憲民主党と日本維新の会と国民民主党が法案を共同提案するところまで行けば、大きな意味合いが出てくるとフーテンは思う。
何が経費か定義が定かでないという後ろ向きの発言もあるが、使途を公開さえすれば国民がチェックして妥当かどうかを判断し、不適当な経費は返金させれば良い。その仕組みができれば国会議員たちは国民の理解が得られる使途にのみ経費を使うことになる。定義など国会議員に決めさせなくとも良い。
代表質問では立憲民主党の泉代表が少し触れただけだったが、岸田総理の迷走が最も著しかったのはオミクロン株を巡る入国制限だ。岸田総理は11月29日にオミクロン株に対する水際対策として「全面的な外国人の入国禁止」に踏み切った。
そして日本着国際線の新規予約を停止するよう航空会社に要請した。その際、「批判は私がすべて負う覚悟」と大見えを切った。ところが在外の日本人も帰国できなくなったことを知るや、12月2日に「一部に混乱があった」として停止要請を撤回した。
最終的には国土交通省航空局が官邸にも知らせず暴走したためだとして、斎藤国土交通大臣が謝罪したが、そんなことを額面通り信ずる気にはなれない。官僚が勝手に暴走することなどあるはずはないからだ。
ただ官僚は絶対に政治家の責任にしない。責任はすべて官僚が負うことにする。おそらく岸田総理はコロナ対策で前のどの政権より厳しいポーズを見せるため、「全面的な入国禁止」に踏み切り国民から喝采を浴びようとしたのだろう。
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