世界トレンド1位を成し遂げた「TOBE」東京ドーム公演は、日本のライブの「常識」を変えるか
滝沢秀明さんが立ち上げた事務所「TOBE」の所属アーティストが出演する東京ドーム公演「to HEROes」の最終公演が、Prime Videoで世界独占配信され、SNS上でも大きな話題となっていました。
その話題の大きさは、「#TOBE0317世界へ」という専用のハッシュタグが、長時間にわたってXの世界トレンド1位に入っていたことが象徴していると言えます。
通常、日曜日の夕方というのは地上波のテレビ局の番組のハッシュタグが上位に並ぶのが普通の時間帯です。
しかし、今回「#TOBE0317世界へ」のハッシュタグは、17時半のライブ配信開始からほどなく世界1位になり、その後ライブ配信終了まで3時間近く1位の座を守りつづけていたようです。
なにしろXのトレンドに表示されるデータによると「#TOBE0317世界へ」というハッシュタグがついた投稿だけでも、30万件近く投稿されたようです。
Prime VideoはYouTubeのように同時視聴者数が表示されませんので、どれぐらいの人数がライブ配信を視聴していたかは分かりませんが、視聴率で安定して10%前後を叩き出す番組のハッシュタグである「#鉄腕DASH」などを、ライブ配信番組が上回ったのは歴史的な結果と言えます。
特にここで注目したいのは、こうした驚異的な数の投稿が、日本のアーティストには珍しい「ライブ中の動画撮影OK」という対応によって生み出されたと考えられる点です。
ライブ会場でのファンによる動画撮影をOKに
今回の「TOBE」による東京ドーム公演は、3月14日から17日の4日間にかけて開催され、最終日の17日がPrime Videoで世界配信という立て付けでした。
初日となる3月14日の段階で東京ドームに来場したファンに対して、前半のプログラムでは動画撮影OKというアナウンスがされてファンの間に大きな驚きが広がったそうです。
その結果、連日のようにXのトレンドには「TOBE」の東京ドーム公演の様子がランクインする結果になっていたわけです。
ある意味、この最初の3日間が最終日に向けての練習や地ならしとなり、17日に参加したファンの方々も、思う存分ファンのアップしたライブの動画や写真の拡散に協力できて、今回の記録につながったと言えるでしょう。
ファンによるSNS投稿の「常識」をリードするTOBE
これまでも、「TOBE」は公式アカウントやアーティストがSNSに投稿した写真や動画については、「ファンが個人のSNSに投稿することに対して著作権侵害を主張しない」という画期的なSNSガイドラインを発表するなど、肖像権や著作権の扱いについて寛容な姿勢を示してきました。
その結果、TOBEが展開するYouTube番組の「とべばん」でも、たくさんの切り抜き動画や写真がSNSに投稿される展開を生んでいます。
参考:TOBEの看板番組「とべばん」は、YouTubeとテレビ番組の境界線が消えた象徴になるはず
「TOBE」の所属アーティストは、旧ジャニーズ事務所出身のアーティストが多数を占めます。
旧ジャニーズ事務所は数年前まで、ネット上にタレントの写真を一切使わせない厳しいポリシーを貫いていることで有名でしたので、ファンの間でもまだまだこの大幅なポリシー変更に慣れていない方も少なくないようです。
ただ、ここで重要なのは「#TOBE0317世界へ」のハッシュタグにあるように、TOBEが目指しているのが、世界展開である点です。
海外ではライブでの撮影は許容されるケースが増加
日本のアーティストのライブにおいては、まだまだファンによる撮影は禁止というのが「常識」というイメージが強くありますが、実は、海外ではアーティストのライブにおけるスマホでの撮影は許容されているケースが増えています。
象徴的なのは、先日来日したテイラー・スウィフトさんの東京ドーム公演でもスマホ撮影が禁止されておらず、たくさんのファンによる動画がアップされていることでしょう。
また、BTSがARMYと呼ばれるファンによるSNS投稿や動画編集によってアメリカにもファンを増やしたことは有名な話ですが、K-POPのアーティストのライブにおいても多くの場合はスマホでの撮影はOKというのが、韓国のファンの間での「常識」です。
その関係で最近は日本でもK-POP系アーティストのライブは韓国同様に撮影OKになるケースが増えており、例えばXGの日本でのライブの際は、明確に撮影がOKになっていたようです。
参考:Information Regarding the “XG ‘NEW DNA’ SHOWCASE in JAPAN” Event
これまで日本においては、ライブの映像がファンによって撮影されSNSで拡散してしまうことを「リスク」と捉える事務所やレーベルが多かったように思いますが、世界的にはライブの映像がファンによって拡散される方が「メリット」になると考えが変わってきているわけです。
日本でも変わり始めるライブ撮影の「常識」
そうした影響を受けて、日本でも「TOBE」から「IMP. 」が出演した「D.U.N.K. Showcase」では最後のダンスサイファーにおいて動画撮影がOKされるなど、徐々にスマホでの撮影を許容するライブが増えている状況なのです。
また、旧ジャニーズ事務所においても、一部のライブではアンコールにおける動画撮影を許容しており、従来の撮影に対する厳しいポリシーを変化させてきています。
特に年末に実施されたSnow Manのライブ配信においては、ファンによる積極的なキャプチャ画像や動画の拡散がみられ、それによって133万人という日本記録更新を成し遂げたことが象徴と言えるでしょう。
参考:紅白歌合戦の裏で、Snow Manが133万人超えライブ配信の日本記録更新が意味すること
そうした中で、今回の「TOBE」の東京ドーム公演が、前半部分を撮影OKにするという決断をして世界トレンド1位獲得の成功を収めたことは、当然BMSGやSTARTO ENTERTAINMENTなどの他の事務所やレーベルに波及する可能性があります。
特に4月と5月に開催されるSTARTO ENTERTAINMENTのドーム公演において、一部動画撮影が許可されるようなことがあれば、今後の日本のアーティストのライブの「常識」が大きく変わる可能性があるわけです。
ファンを信じ、ファンとともに世界へ
もちろん、実際に、こうしたライブの撮影やSNSの拡散に寛容なポリシーを他の事務所が選択するかどうかはまだ分かりません。
ただ、世界のトレンドが変わっている以上、アーティストや事務所が本気で世界展開を目指すのであれば、ある程度SNS時代に適応した撮影ポリシーやSNSのガイドラインを整備することが重要であることを、今回の「TOBE」のライブの成功が示してくれたことは間違いありません。
ある意味では、アーティストや事務所が、こうしたファンによる動画の撮影や拡散に寛容なポリシーを取れるかどうかというのは、ファンによる拡散の力を信じることができているかどうかの象徴でもあります。
TOBEは、今回の東京ドーム公演の際に公開した「Be on Your side」という楽曲の利益を能登半島地震の被災地支援に使うことを発表していますが、その楽曲の説明には「聴くだけで、だれかの力になれる。そんな支援のかたちが広がることで、一人でも多くのひとと、一緒に未来を守りたい」と綴られているのが印象的です。
参考:TOBEが能登半島地震の被災地支援プロジェクト始動、所属アーティストが歌うチャリティソング配信へ
こうした取り組みも、「TOBE」の滝沢秀明さんや所属アーティスト達が、自分達の音楽の力と、それを拡げてくれるファンの力を信じているからこそできることではないかと感じます。
今後「TOBE」の所属アーティストの活動が、ファンの力とともに世界に広がっていくのを楽しみに見守りたいと思います。