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TOBEの看板番組「とべばん」は、YouTubeとテレビ番組の境界線が消えた象徴になるはず

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:TOBE公式YouTube)

滝沢秀明さん率いるTOBEが新たに開始した番組「とべばん」が、大きな注目を集めています。

これは、TOBEの所属アーティストが全員集合する形で実施された公式番組なのですが、YouTubeライブで配信されているのがポイントです。

通常、アーティストによるYouTubeライブというと、新曲の発表や周年記念などを主にファン向けにカジュアルに配信するものを想像する人が多いでしょう。

しかし、今回のTOBEの「とべばん」は、生配信のスタジオと収録されたロケの映像を組み合わせる形で、全編1時間40分以上と、地上波テレビのバラエティ番組の特番を思わせる構成になっていました。

さらに、今回の「とべばん」で非常に興味深いのが、初回からKOSEとスシローが公式スポンサーとして協賛し、大企業との本気のコラボが実施されている点です。

(出典:TOBE公式YouTube)
(出典:TOBE公式YouTube)

この取り組みは、すでに境界があいまいになりつつあった、YouTubeと地上波テレビの境界線を完全にかき消してしまった事例として、後から振り返ることになる可能性があります。

テレビ番組化がすすむYouTube番組

これまでも、YouTubeからテレビ番組のようなクオリティの動画を配信する取り組みは、様々な事業者が様々な挑戦をしてきています。

成功事例として象徴的なのは、朝倉未来さんが成功させた格闘技番組の「BreakingDown」や、高橋弘樹さんが成功させた「日経テレ東大学」と「ReHacQ」などがあげられるでしょう。

参考:YouTubeにテレビ並みの番組がやたら増えた理由

また、バラエティ番組としては、オリエンタルラジオの中田さんが、宮迫博之さんと一緒にはじめた「Win Win Wiiin」が一つのシンボルと言えます。

ただ、これまでのYouTube発の番組は、どちらかというと、地上波のテレビでは難しい番組であったり、地上波の番組に出演できなくなった芸能人が取り組んだりするものという印象を持つ人が少なくありませんでした。

そのため、どちらかというとスポンサーも、ネット系などの新興企業が多かった印象です。

今回のTOBEの「とべばん」も、TOBEの所属アーティストが、旧ジャニーズ事務所を退所したことで、短期的に地上波テレビに出演しにくい状況になっていた面が影響しているとは思います。

ただ、そこを逆手にとって、KOSEやスシロー規模の大企業がスポンサーをする規模の番組を作ってきたという点で、このTOBEの「とべばん」は、時代の大きな転換点になる可能性があります。

地上波番組と同時間帯でも世界のトレンド1位に

今回の「とべばん」は初回にもかかわらず、YouTubeライブでの同時視聴者数は30万を超えていましたし、そのままアーカイブされた番組の視聴数はすでに130万回を超えています。

さらに注目されるのは、番組のハッシュタグである「#TOBE_とべばん」が、土曜日19時〜21時という地上波テレビのライバルが多い時間帯にもかかわらず、なんとXのトレンドで世界1位になっていたことです。

実際に、番組配信中のポスト数のグラフを見ると、大量の投稿がされているのが分かります。

(出典:Yahoo!リアルタイム検索「#TOBE_とべばん」投稿数推移)
(出典:Yahoo!リアルタイム検索「#TOBE_とべばん」投稿数推移)

もちろん、同時視聴数30万人という数字は、テレビの視聴率から考えるとまだまだ小さな数字です。

ただ、今回協賛をしたKOSEやスシローの社名もトレンド入りしていたことを考えると、そのインパクトは非常に大きかったと言えます。

なにしろ、スシローは来年からコラボすしの販売を予定しているようですから、その事前の期待の大きさがうかがえます。

当然、このTOBEのファンの熱量の強さに注目する企業は、今後も増えるでしょう。

先月、「ワンピース」がYouTube上で24時間全話ライブ配信を開始し、ある意味で「ワンピース」テレビ局がYouTube上に開局した状態になっていますが、今回のTOBEの「とべばん」もある意味、TOBEとしてテレビ局を開設したに近い状態です。

参考:「ワンピース」の24時間全話ライブ配信の衝撃から考える、誰もがテレビ局になれる時代

KOSEもスシローも、その新しいTOBEの挑戦にテレビCMとは違う可能性を感じていると言えるわけです。

ファンによるSNS投稿を推進するTOBE

特に、TOBEのファンのSNS投稿で印象的なのが、YouTubeライブのキャプチャ写真はもちろん、動画のアップロードも多数見ることができる点です。

参考:#TOBE_とべばんの投稿の検索結果

TOBEの所属アーティストが、元ジャニーズ事務所所属であって、これまでは写真キャプチャすら厳しく禁止されていた印象があることを考えると、この現象に驚かれる方は少なくないはずです。

実は、TOBEは9月の段階で、TOBEやアーティストが発信した画像や動画を、ファンが個人のSNSに投稿することに対して著作権侵害を主張しないということを明確に宣言しています。

参考:TOBEおよびアーティスト個人が発信する画像や動画を、応援のために使用する際のルールに関して

これは、「IMP.」のデビュー曲「CRUISIN'」リリース後に、ファンからの質問を受ける形で公開されたものと考えられますが、かなり先進的な内容になっています。

特に最も象徴的なのは、「YouTubeパートナープログラム」に参加すれば、TOBEの所属アーティストの切り抜き動画で収益化することも可能という、切り抜き動画で有名な、ひろゆきさんばりのオープンな方針を取っていることでしょう。

参考:ひろゆき 人気の理由を自己分析「YouTubeの切り抜き動画がうまくいったことと、コロナ禍の2つじゃないかなと」

ある意味、旧ジャニーズ事務所時代の厳しいネット上の写真利用禁止のルールから考えると、180度転換とでも言うべき宣言をしていることになるわけです。

こうしたファンのSNS投稿を許容する姿勢は、BTSのARMY(ファン)の成功で広く知られるようになり、日本でもBE:FIRSTが所属するBMSG代表のSKY-HIさんが、ファンの投稿を許容する姿勢を宣言するなど、徐々に日本でも広がりつつありました。

参考:BE:FIRSTは日本の音楽業界のSNS活用に革命を起こすかもしれない

それが、ここに来て過去にジャニーズ事務所に所属していたメンバーによって構成されるTOBEが、オープンな方針に転換したことには大きな意味があると言えます。

TOBEのファンの方々の中には、ジャニーズ事務所時代から応援しているアーティストが、TOBEに移って急にSNSでの応援が解禁された関係で、SNSで応援する方法をファン同士でお互いに教え合ったりするなどして、SNSでの投稿の仕方を学んでいる方も少なくないとか。

その結果、KOSEやスシローのような企業側からすると、「とべばん」は、YouTubeの同時視聴数や再生数以上に、ファンによる切り抜き動画や写真でさらに自社商品が拡散するという効果も期待できる構造になっているわけです。

今後、テレビ局とのコラボもありえるか

なお、次回の「とべばん」は、12月24日午後7時に、TOBEメンバーがハワイに行った際に収録した内容を放送することになるようです。

(出典:TOBE公式YouTube)
(出典:TOBE公式YouTube)

おそらく、今回の放送よりもさらにテレビのバラエティ番組的な構成になることが想像されます。

そうなると今後気になるのが、はたしてこの「とべばん」がどこかのテレビ局とコラボする展開はありえるかという点です。

従来、アーティストのテレビ番組というと、お昼の時間帯や深夜の時間帯に番組を作り、それが人気になればゴールデンタイムに移るというルートが多かったように思います。

しかし、最近では、SKY-HIさんが、日本テレビと一緒に実施したオーディション番組「THE FIRST」をYouTubeでも配信したり、「D.U.N.K.」という音楽番組を深夜枠とYouTubeの組み合わせで配信したりするなど、YouTubeの存在を軸にテレビ番組を組み立てるケースが増えてきています。

また、「ジャにのちゃんねる」のYouTubeチャンネルの人気が高まった結果、「ジャにのちゃんねる」がコラボする形で、24時間テレビの軸になったこともあります。

参考:ジャにのちゃんねると24時間テレビのコラボは、テレビとYouTubeの融合のシンボルになるか

今回のTOBEの「とべばん」の評判が高まれば、当然テレビ局からTOBEにコラボ放送のオファーが来る可能性は高いと考えられますし、その前提でYouTubeで先行して番組を開始している可能性も考えられます。

実は、韓国や中国では既にテレビ番組をYouTubeでも放送するのが普通になっているようですし、日本も同じように常識が変化していく可能性もあるでしょう。

いずれにしても、今回のTOBEの挑戦が、業界に大きな一石を投じたことは間違いありません。

まずは、今後のTOBEと「とべばん」のさらなる展開に注目したいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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