Yahoo!ニュース

西野ジャパンが快進撃を続ける中、1本のサッカー・ドキュメント映画が描くサッカーとサポーターの関係

清藤秀人映画ライター/コメンテーター

サムライ・ジャパンの快進撃が続く2018年FIFAワールドカップ ロシア。名だたるトップチームやプレイヤーたちが、さながら命がけの戦いを繰り広げる中、1本のサッカー・ドキュメント映画が緊急公開される。ほんの2年前の秋、南米の森にサッカー選手や関係者、計71名の尊い命が散っていったチャーター機墜落事故の真実に迫った「わがチーム、墜落事故からの復活」だ。

 犠牲になったのはブラジル・セリエA所属のシャペコエンセの主力選手や首脳陣等で、彼らは南米大陸選手権、コパ・スダメリカーナの決勝ファーストレグに向かう途中、敵地コロンビアのメデジン郊外で、予期せぬ事故に遭遇する。墜落の原因は、チャーターしていたラミア航空機の燃料切れだったという。

 亡くなった人の中には、Jリーグ・セレッソ大阪やジェフユナイテッド市原・千葉でプレーしたケンペス、元柏レイソルのクレーベル・サンタナ、ヴィッセル神戸を率いた名匠、カイオ・ジュニオール監督等、日本のサッカーファンにも馴染み深い顔も含まれていた。

 海外の映画批評サイトでも高評価を得ているドキュメント(ロッテントマトで92%、IMDBで8.6ポイント)は、事故に遭いながら奇跡の生還を果たしたゴールキーパーのジャクソン・フォルマン(事故で右脚を切断)、サイドバックのアラン・ルシュウ(2017年に試合復帰)、センターバックのエリオ・ネト(2018年の復帰を目指す)等、サバイバーの視点を盛り込みつつ、猛スピードで再生を急ぐチームの内情を鋭く抉り出す。再起を目指してメンバーを一新するクラブ経営陣のビジネス優先主義、勝利を義務付けられた新監督、ヴァグネル・マンシーニの若干暴走気味の采配、事故を免れた3選手の新チームに対する戸惑い、チームのシンボルを演じさせられることへの違和感、等々。しかし、問題はそれだけではない。

事故後、松葉杖をつくネト(中央)
事故後、松葉杖をつくネト(中央)

 ラミア航空の倒産で遅々として進まない賠償問題、それを受け容れる遺族と拒絶する遺族との間に生じる溝、若くして育ち盛りの子供を託された夫を亡くした妻たちの底知れぬ不安。。

 しかし、そんな諸問題を大きな力で支えるのが、シャペコエンセの地元サポーターたちだ。そもそも、シャペコエンセの本拠地、シャペコはブラジル南部サンタカタリア州にある人口20万の小都市。1973年に地元を活気づかせる目的で市民たちが資金を出し合い、誕生したのがシャペコエンセだった。つまり、Jリーグが目指す地域密着型スポーツのロールモデルだったのだ。事故はそんな"我が町の息子たち"が南米クラブ選手権で初の決勝進出を果たし、ブラジルのメディアが"歴史的快挙"と騒いだ直後に起きた。

 事故後、再生を急ぐあまりに迷走を続けたシャペコエンセが、やがて、本来のあるべき姿に立ち返り、再び、あの日、叶わなかったコロンビアでの決戦に臨むまでの約1年間のドラマは、巨大ビジネスと化したサッカーが、今後さらにどれだけ巨大化しようとも、サッカーを愛する人々の希望の象徴であることに、何の変わりもないことを教えてくれる。

サッカーの熱狂
サッカーの熱狂

 人々の熱狂に包まれながら、ネトが呟く言葉にすべてが集約されている。曰く、「人を幸せにするのは成功じゃなくて、やっぱり人との繋がりなんだ」。

 サッカー界のみならず、スポーツ界最大のイベントに世界の目が集中する時、これは、観ておきべき1本なのではないだろうか?

わがチーム、墜落事故からの復活

7月6日(金) 新宿ピカデリーほかで緊急公開

公式ホームページ:http://our-team.jp

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

清藤秀人の最近の記事