【落合博満の視点vol.37】大谷翔平が本塁打を量産できる理由とは
野球における現状分析の際、原則論から解を導き出す落合博満は、日本代表が東京五輪で金メダルを獲得するための条件のひとつに、第1戦の先発投手を挙げた。
そんな落合は、メジャー・リーグで2004年に松井秀喜がマークしたシーズン31本塁打の日本人記録を、7月7日(現地時間)のボストン・レッドソックス戦で更新した大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)の活躍にも入団時から太鼓判を押していたが、その理由のひとつが実に興味深い。
「大谷の身長は193cmか。ならば、メジャーの環境に慣れれば打者としての数字(成績)は残せる。それほど身長は、打者にとって大きなものなんだ」
落合は、自身が三冠王を3度も獲得できた要因のひとつに、178cmという身長を挙げている。
「私たちの時代は、180cm台から恵まれた体格と言われた。実際に、野球では180cmあれば天性の素質でロングヒットを打つことができた。だから、170cm台の選手は、大柄なヤツには負けたくないと猛練習したものだ。日本の本塁打ベスト3は170cm台の王 貞治さん、野村克也さん、門田博光さんでしょう。私も180cm以上だったら、その体格に頼って努力を怠り、野球界で名を残すことはできなかったかもしれない」
身長によって投球の見え方は変わる
170cm台と180cm台の間にある壁とは何か。落合は「投球の見え方」だという。投手は小高いマウンドに立ってボールを投げ込んでくるため、打者の視線はどうしても斜め上を見る形になる。
「例えば、剣道のように相手を正面から両目で見られれば、竹刀を狙った位置に振り下ろせるはずだけど、打者は首を横に捻って斜め上から来るボールを見る。そのボールも速度や軌道が多様だ。要するに、打撃の確実性を高めるには、いかに投球の視覚的誤差を小さくするかにかかっている。だから、身長が高ければ高低の誤差には対応力が上がるだろう」
そうして、188cmの松井が31本塁打をマークできれば、193cmの大谷はそれを超えられることになる。だが、投球には緩急による時間的な誤差などもあるわけで、それらに対応する技術も高めなければならない。
大谷の場合で言えば、始動の際に右肩がホーム寄りに入り過ぎることを落合は心配していた。それも、視覚的な誤差を生むからだが、ある程度まで解消されてきたと見ている。そのほかにも成長途上の部分はあるとしながらも、今季はほぼ常時、試合に出場することで環境に慣れ、実戦力も高められているようだ。
落合は、大谷がプロ入りして二刀流を目指すと公言した際に賛意を示した。しかし、春季キャンプ中に笑顔でインタビューに答えている姿を見ると、こう指摘した。
「本気で二刀流をやっていくなら、他の選手の最低でも倍は練習しなければならない。そうしたら、練習後はバタンキューになるはずで、インタビューに答えられるとは練習量が足りないな」
落合らしい見方と言えるが、現在の大谷は技術面でも体力的にも、落合が懸念した壁を突破してしまったようだ。落合が大成したのは、180cmないことをバネに猛練習し、ハンデを克服したから。しかし、体格に恵まれた選手が落合らと同じような努力をすれば、「それはもう、私たちには届かないところまで行ってしまう」のである。大谷の今後が、より楽しみになってきた。