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カメラが乱交パーティに潜入する映画「愛の渦」

清藤秀人映画ライター/コメンテーター

人気劇作家がチャレンジする禁断の世界

ベストセラー小説やTVドラマがネタ元のいわゆるアドバンテージありきの映画製作が主流の日本映画界に、1人のチャレンジャーが現れた。劇作家で映画監督でもある三浦大輔だ。彼の最新監督作「愛の渦」は、三浦が自ら主宰する演劇ユニット、ポツドールを率いて2006年に発表した同名舞台劇の映画化だから、これもやっぱりアドバンテージありきに違いないのだが、注目すべきはそのテーマだ。画面いっぱいに描かれるのはずばり、乱交パーティ。端的に言って愛とか恋とかが喉ごしよく語られる小説やドラマの映画化とは、明確に一線を画す禁断の世界である。

乱交パーティは本性丸出しの戦場へと化す!

物語はいたってシンプルだ。大都会のマンションの一室に集まったバスタオル一枚の男女各4名が、まずは恐る恐る周囲を値踏みし始める。メンツは、すでに興奮した下半身を抑えながらキャッシュディスペンサーで参加費用の2万円を下ろしてきたニートの青年、女房がいるのに助平なことがしたい営業マン、遊び人風のフリーター、贅肉たっぷりの童貞男の男性チームVS、見かけによらず人一倍性欲が強い女子大生、自虐ネタも厭わない保育士、相手を上目遣いで見る一応美人OL、パーティの常連らしいパンク女の女性チーム。(これに興味本位のカップル男女各1名が途中参加)。やがて、フリーターがOLを誘ってプレイルームに姿を消したのを合図に、パーティはそのネーミングとは裏腹な、欲望と嫌悪と侮蔑と格差と、少しの好意が錯綜する本性丸出しの戦場へと変貌していく。

観た後、誰かとは語り合えない痛みが

男女を問わず、人間は性欲だけで誰とでもセックスできるわけではないし、割り切ったはずがイノセントな感情に突き動かされることもある。見た目で選んだ相手の意外な欠点が寝てみて判明したり、見た目全然イケてない相手の前向きな姿勢に絆されたり、等々、服を纏った関係では経験不可能な、この痛々しくもコミカルな時間を、三浦大輔は意図的に構築した空間に活写する。登場人物の何気ない行動やセリフに我が身を置き換え、たとえ人知れず傷つくことがあっても、終映後、それを同伴の誰かと突っ込んで話せないという事後状況も、その他多くの語り合える日本映画とは明らかに違う。

女子大生(門脇麦)とニート(池松壮亮)
女子大生(門脇麦)とニート(池松壮亮)

勿論、テーマがテーマなだけに映画化は難航を極めたとか。しかし、ニート役に人気急上昇の池松壮亮を得たことで事態は急展開。製作を大手の東映が請け負い、舞台化から7年、映画の製作開始から2年を経て、ようやく「愛の渦」は市場に放たれることとなった。三浦監督は筆者のインタビューでこう言っている。「舞台ファンの間では知られていたこの作品を、映画化することでもっと多くの人に知ってもらいたい」と。確かに、「愛の渦」はデートムービーには不向きかも知れないけれど、たまにはアドバンテージなしの映画初体験にチャレンジするのも悪くないと思う。因みに、同じ三浦演出の舞台劇「恋の渦」(こちらは渋谷系男女9人の"部屋コン"がテーマ)も、昨年、「モテキ」の大根仁監督によって映画化され、自主映画としては異例のロングランを記録。機会があれば2作を見比べてみてはいかがだろうか。風合いこそ違え、どっちもけっこう痛いです!!

  • 「恋の渦」と「愛の渦」が一気に観られるオールナイトイベント開催

http://www.ttcg.jp/theatre_shinjuku/topics/detail/28486

「愛の渦」2014年3月1日(土) テアトル新宿他にて公開

(C)2014映画「愛の渦」製作委員会

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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