俳優の露出度が高く、人種が入り乱れる。『ブリジャートン家』が衝撃的な理由
去年の12月25日から配信がスタートするや、たった28日間で全世界の6300万世帯が視聴したという『ブリジャートン家』。この数字はシリーズ開始時としてはNetflix史上5位の記録だという。Netflixは常に新作映画、ドラマの話題作を配信し続けているが、中でも『ブリジャートン家』の面白さは格別。1話が1時間弱の物語を1シーズン8話まで完走するという視聴スタイルに慣れていない人も、今からでも遅くない。思い切ってトライすることをお勧めする。
何しろ、設定と展開と描写が異色なのだ。物語は、1813年のロンドン社交界で、名門貴族のブリジャートン家に住まう8人兄弟の長女、ダフネ(フィービー・ディネヴァー)が、いかにして幸せな結婚を手に入れるか?そこに主軸が置かれている。いつか見た景色である。このテーマは、同じ時代にイングランドの地方に住む中流社会の娘が、紆余曲折を経て結婚に至るまでを綴ったジェーン・オースティンの『分別と多感』(映画版『いつか晴れた日に』)や、『高慢と偏見』(同じく『プライドと偏見』)に近いが、中身は大きく違う。女性は生まれ持った家柄と資産と美貌がなければ幸せな結婚は望めない19世紀の貴族社会にあって、ダフネは公爵のサイモン(レジ=ジーン・ペイジ)と交際するふりをして、周囲の注意を引くことを思いつく。そうすれば常に選ぶ立場にある男たちを刺激して優位に振る舞えるし、一方、独身主義者のサイモンは自由の身でいられるというわけだ。
まるで男性優位社会を手玉に取るようなダフネの策略と破綻。サイモンが独身主義を貫く本当の理由。日常生活で垣間見られる階級社会の厳しい現実。結婚したことで露わになる当時の性教育の問題点、等々。エピソードが進む先々で用意された衝撃の展開は、勿論、視聴者の興味を繋ぐ上で絶妙な効果をあげている。中でも、重要なテーマの一つであるセックス描写に於いて(レイティングはR15+)、男たちがけっこう大胆に脱ぎまくるのが新鮮だ。それも半端な脱ぎ方ではない。イギリスの日刊紙”ガーディアン”はそれについて、「ブリジャートン子爵(一家の長兄・ジョナサン・ベイリー)が服を着ているのを見慣れるまでに少々時間がかかる」とやや大袈裟にコメントしている。だがサイモン公爵の着衣率の低さはその比ではない。
もう一つは人種問題だ。貴族社会の頂点に立つゴシップ好き(物語は終始ゴシップ記事の謎の著者、レディ・ホイッスルダウン(声・ジュリー・アンドリュース)のモノローグによって進んでいく)のシャーロット王妃(ゴルダ・ロシューヴェル)はアフリカ系である。これについて、原作者のジュリア・クインは英国メディアの取材に対して、歴史上信じられていることだと答えている。実際、シャーロット王妃はポーランドの王家出身でドイツ生まれ。ヴィクトリア女王の祖母に当たる実在の人物だ。彼女のルーツにはムーア人(北西アフリカに住むイスラム教徒の呼称)がいると言われている。つまり、黒人の王妃はありえないことではないというのが原作者の言い分だ。他にも、気になるサイモン公爵や、ブリジャートン家と対比する形で描かれるフェザリントン家の親戚で、キーパーソンの1人であるマリーナ(ルビー・バーカー)等、物語にはアフリカ系のキャラクターが数多く登場する。それが、ダイバーシティという今日的なテーマを意識したものであり、200年後の今に通じる英国王室とメーガン妃の関係を連想させるという意見もあるほどだ。
しかし、このシリーズで最も大胆でチャレンジングなのは、毎回場面を盛り上げる衣装の数々だ。それらは目まぐるしく入れ替わり、気まぐれな視聴者の目を画面に釘付けにしてしまうのだ。これまでも時代劇の衣装は気鋭のデザイナーたちの手によって時代毎にアレンジされてきたが、『ブリジャートン家』で一気にアップデートされた気がする。
デザインを担当したエレン・マイロニック(『マレフィセント2』『グレイテスト・ショーマン』『恋するリベラーチェ』等)は、”ジェーン・オースティンとは正反対の衣装を作りたかった”との意図に則り、背景になるイギリス摂政時代(国王ジョージ3世に代わって息子のジョージ摂政王太子が統治した時代)を象徴するエンパイアシルエット(バスト下で切り替えて裾に向けて直線的に広がるシルエット。オースティン原作の『Emmaエマ』での衣装が象徴的)を少しだけアレンジ。全体的なシルエットをよりスリムに、胸元のカットを心持ち深くすることで、バストを強調する戦術に出ている。結果、ダフネの勝負服は勿論、女性たちの胸元は意識的に露出度がアップ。それらセクシーな衣装が時代劇のハードルを下げる役目を果たしている。ネックラインの開放性が作品のテーマを代弁していることは言うまでもない。
ブリジャートン家とフェザリントン家を、服の色と素材の違いで区別している点にも注目してほしい。洗練されたブリジャートン家はダフネを筆頭にパステルブルー&ピンクがハウスカラーとして用いられ、それらはダフネの成長と共により深く、豊かに変化していく。一方、娘たちを嫁がせることで一族の安泰を図りたいフェザリントン家は、柑橘系の色が過度に溢れ返っている。グリーン、オレンジ、イエローが配置されたプリントのドレス類は、本シリーズが打ち出した衣装のイメージを象徴するものだ。他にも、華やかなフリル、ラインストーンが散りばめられたパフスリーブ、王妃と側近たちが被るマリー・アントワネットも霞むボリューミーなウィッグ等、気になるアイテムが次々登場する。
また、女性たちがこの時代の人気アイテムであるボンネットを被っておらず、代わりに、全員が頭に宝石や羽毛を付けて、何とかしてライバルたちを出し抜こうと必死になっている。ヘアアクセサリーの分野でも本作のアイディアは画期的だ。
映画サイトの”SCREENRAT”では『ブリジャートン家』の衣装ベスト10を発表していて、それによると、いつになく髪を下ろしたダフネがサイモンと対面するシーンで着るネットと刺繍が豪華なパウダーブルーのドレスを1位に選出。これ程衣装がフィーチャーされるのは珍しい。
本日1月20日のニュースによると、シリーズの基になるジュリア・クインの原作『デュークと私』が、遂にニューヨークタイムズのベストセラーリストのトップに躍り出たとか。原作と配信(映像)が相乗効果となって話題を盛り上げる。そんな今や懐かしい現象も巻き起こっている『ブリジャートン家』。早くも製作が決定したシーズン2では、ブリジャートン子爵、アンソニーがキーパーソンになって物語を牽引していくことになる。パンデミックがさらに過酷さを増すであろうこの時期に、半端なく明るく、ワクワクさせてくれることは間違いない。
Netflixオリジナルシリーズ『ブリジャートン家』独占配信中