Yahoo!ニュース

大谷翔平選手が飼っている犬種が過剰人気 珍しい犬の無理な繁殖は遺伝病を生み出す可能性が

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
MLB Japanの公式Xより

大谷翔平選手が、最優秀選手(MVP)発表の番組に出演した際、横に座っていた犬が一躍注目を集めました。「犬種は何だろう」などと話題となり、各メディアが取材して犬種は「コーイケルホンディエ」と判明しています。

日本では珍しい犬で「一般社団法人 ジャパンケネルクラブ」での登録数は、「155頭」と比較的少ないのです。

このような珍しい犬が人気になると、遺伝病を生み可能性もあります。その辺りを見ていきましょう。

血統を生み出すことは近親交配すること

犬にはチワワからセントバーナードまで多様な種類がいます。

新しい血統を生み出すためには、その特徴がより出るように交配する必要があります。いわゆる近親交配に近いことを繰り返していき、ようやく新しい血統を生み出します。

そのため血統書つきの犬や猫の場合、他の生物と比べて非常に血が濃くなっています。すると、病気の遺伝子も色濃く受け継いでしまうのです。そのため遺伝病が出てきます。

遺伝病とは

遺伝病とは、遺伝子に変異が起きて引き起こされる病気のことです。変異した遺伝子は、親から子へ引き継がれるために病気も引き継がれていく可能性もあるのです。

純血種の動物では、限られた地域の中で、同じ品種の動物の繁殖を繰り返すことにより近親交配が進みます。数の少ない動物は変異した遺伝子が固定され、その種類の発症しやすい遺伝病ができます。

筆者は、ウェルシュ・コーギーの変性性脊髄症(Degenerative Myelopathy(DM)in Welsh Corgi、いわゆるDM)という遺伝病の治療をしています。

DMとは、脊髄の病気ですが、痛みを伴わず約3年かけてゆっくり進行します。症状として、はじめは後ろ足から出現し踏ん張りが悪く足がもつれたように歩きます。そして前足にも同様な症状が現れます。さらに進行すると病変は首の脊髄にも広がり、最終的には呼吸器にまで麻痺が及んで死にいたる病気です。

残念ながら現時点でDMを治す治療法はありません。遺伝病はこのように治療法がないことが多いのです。

コーイケルホンディエに遺伝病が増える可能性が

犬籍登録、血統証明書の発行などを行う「一般社団法人 ジャパンケネルクラブ」には、17日に約50件を超える問い合わせがあり、担当者は「過去に例のない多さでした」と明かすとFull-Countは伝えています。

コーイケルホンディエが急に日本で人気になったからといって、工場をフル回転させたら、子犬が多量にできるものではありません。

犬なので、雌犬と雄犬がいて交配して約2カ月の妊娠期間を経て子犬が産まれます。そしてさらにその後、2カ月を経て新しい飼い主の元にやってくるのです。

そう簡単に、コーイケルホンディエの子犬を手に入れることはできないのです。

一番の問題が、日本に約150頭しかいないということです。ザックリと計算してその中で75頭が雌犬で、残りが雄犬です。子犬が産めるということは、不妊去勢をしていないということ、それに加えて雌犬は6歳未満ということも必要です。

そう考えると今、日本で子犬を産める雌犬は30頭以内でしょう。雄犬もそれぐらいなので、近親交配になりやすくなります。近親交配になると遺伝病が増えるのです。

コーイケルホンディエをほしがるのをやめませんか

大谷選手は、犬が好きでコーイケルホンディエを飼っています。

大谷選手が小学生の頃に飼っていたゴーkルデンレトリバーは、大型犬なのに15歳(大型犬の平均寿命は10歳前後)まで生きていました。犬を大切にして、その犬の特徴をよく理解していないと犬は長生きができないのです。

そんな大谷選手は、この日本でのコーイケルホンディエがほしいという熱狂ぶりを見て驚いているかもしれません。大谷選手の犬種が人気になり、数年後に遺伝病が増えるようなことはよくないですね。

そのうえ、数が少ない犬なので、雌犬は無理な交配を強いられて命が脅かされます。子犬を産むことは、エネルギーがいることなのに犬の場合は1年に2回発情があるので、体を休めず妊娠させられると体がボロボロになり危険な状態です。

大谷選手を尊敬しているのなら冷静になり、大谷選手とコーイケルホンディエがハイタッチしている動画を見ているだけで心が満たされると思います。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

石井万寿美の最近の記事