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「こんなに捨てています・・」コンビニオーナーたちの苦悩

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
廃棄の実態を告白してくれたコンビニ(2017年7月、筆者撮影)

毎日大量に廃棄されているコンビニのおにぎりやお弁当。全国のコンビニで、一日あたり384〜604トンの食品が廃棄されているとみられている。スーパーマーケットや個人の商店では、売れ残って廃棄となる前に値段を下げて販売(見切り販売)しているのをよく見かけるが、コンビニで目にすることはあまりない。なぜ見切り販売しないのか?2014年に最高裁で本部による見切り販売の妨害は「違法」とする判決が確定したが、本部は見切り販売について、どのように考え指導しているのだろうか。今回、大手コンビニチェーン店のオーナー3人が、実態を証言した。

▼3人のオーナーが実態を証言

今回、取材に応じてくれたのは、西日本でコンビニエンスストアを営むPさん、Qさん、Rさんの3人。フランチャイズ契約を結び、加盟店となっている。

Rさんはこう語る。「どうして見切り販売をする店が増えないと思いますか?仲間のコンビニオーナーによると、担当の社員が、長い目でみてお店のためにならない、近隣のお店に迷惑というような指導や誘導をしてくるんだそうです。見切り販売をするな、とは言えないので、証拠を集めるのは難しいですが、巧妙な言い回しで、させないように誘導する。私は事務的に契約更新をしているので私自身が言われたことはないですが、仲間のオーナーからは、契約更新などの重大なポイントでは、本部にとっての不利益な事象である見切り販売は、やめることが条件、といったようなもっていき方をされる、ということを聞きました」

コンビニで毎日廃棄されている食べ物の一例(Pさん・Rさん提供写真)
コンビニで毎日廃棄されている食べ物の一例(Pさん・Rさん提供写真)

Pさんは「新商品が出れば、本部から“多く入れてください”と依頼が来る。過剰発注が常態化している」と言う。笑い話にもならないが、季節商品の恵方巻きやうな重などは、その日にしか販売できないのに、過剰なほど発注せざるを得ないため、川に流れていたこともあるそうだ(川に流して処分したと見られる)。予約商品に関しては、必ず「前年超え」が基本。出店数でさえ、前年超えを目指す。「過剰出店、過剰発注、過剰廃棄」が常態化しているのがコンビニエンスストア業界といえる。「オーナーたちを過剰発注に誘導することで、本部の売上がMAXになるから」(Rさん)。

商品棚の商品が売り切れれば、本部に、売り切れた時刻が通達される。そして、長い時間、売り切れが続くと、本部から督促が来るという。

Qさんも、「コンビニオーナーになる前は、食べ物を捨てることに関して一般市民と同じ感覚を持っていた」が、コンビニを始めてから感覚が麻痺したという。「本部が、ロスを出しても、一定金額(数十万円)を超えれば、半分負担してくれ、“ロスを気にせずどんどん売れ”と指示される」。企業によって、あるいは販売金額によって、本部の負担率は違うそうだが、廃棄ロスのうち、ある一定の割合(15%、50%など)は、本部が負担してくれるそうだ。

▼1週間で112kg捨てていたのが3分の1に? 独自に見切り販売の効果を調査

彼らは、自分たちの店で、どれだけの食品を廃棄しているのか、また、見切り販売をした場合としない場合とでどれだけ廃棄量に差があるのかを独自に調査した。

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調査の対象となったのは、6店舗のコンビニエンスストアである。見切り販売をしなかった3店舗は、7日間の廃棄量の平均は112kgにも達した。

対して、見切り販売をおこなった別の3店舗の7日間の廃棄量平均値は33kg(それぞれ37kg、7.8kg、55kg)。平均値を比べてみると3倍以上の開きがあり、最も多かった店舗と最も少なかった店舗の差は、なんと3ケタ、125kgに及ぶ。体重60kgの成人2人分の重量だ。見切り販売をおこなった店舗の中でも、3割引をおこなった2店舗の廃棄量(それぞれ37kg、55kg)と比べて、5割引にした店舗の廃棄量は1ケタ台の7kg台と、圧倒的に少なかった。

調査の結果、見切り販売した方が、圧倒的に廃棄量を減らせることがわかった。しかし、実際には、見切り販売が難しい現状がある。

▼「コンビニ会計」独自の商慣習は未だに続いている

見切り販売がしづらい背景には、コンビニ独自の会計システムである「コンビニ会計」がある(あるいは「ロスチャージ会計」とも言われる)。

コンビニ会計の仕組み(参議院議員/日本共産党 たつみコータロー氏制作)

たとえば、1個100円で販売するおにぎりがあると仮定する。原価は70円。これを10個仕入れるとする。

一般的な会計はこうだ。フランチャイズオーナーが、原価70円のおにぎりを10個仕入れると、原価は700円。10個販売して、8個売れて、2個売れ残ったら、売上は100円×8個=800円。原価との差額である利益が100円となる。

参議院議員/日本共産党 たつみコータロー氏制作の資料より抜粋(事務所承諾済)
参議院議員/日本共産党 たつみコータロー氏制作の資料より抜粋(事務所承諾済)

フランチャイズオーナーは、本社とフランチャイズ契約を結んでいるので、この利益を40:60で分け合う。利益は、フランチャイズオーナー:本部=40円:60円となる。(企業や契約年数により比率は異なる)

しかし、「コンビニ会計」では、違う計算方式を使う。2個売れ残って廃棄したおにぎりの原価(70円×2個=140円)は、原価計算に含めてはいけないというルールがあるのだ。したがって、下記のようになる。

参議院議員/日本共産党 たつみコータロー氏制作の資料より抜粋(事務所承諾済)
参議院議員/日本共産党 たつみコータロー氏制作の資料より抜粋(事務所承諾済)

コンビニ会計

売上 100円×8個=800円

原価 70円×8個(10個から売れ残り分2個を除く)=560円

利益(売上−原価の差額)240円

参議院議員/日本共産党 たつみコータロー氏制作の資料より抜粋(事務所承諾済)
参議院議員/日本共産党 たつみコータロー氏制作の資料より抜粋(事務所承諾済)

コンビニオーナー:本部=96円:144円

コンビニオーナーの利益96円マイナス廃棄した2個(140円)=マイナス44円

オーナーは赤字になってしまうので、「だったら、赤字にならないよう、半額に下げて見切り販売しよう」と考える。

見切り販売会計

売上=100円×8個+50円×2個=900円

原価=70円×10個=700円

利益 200円

コンビニオーナー:本部=80円:120円

コンビニ会計と比べると、本部の取り分が減ってしまう。なので、本部は、「見切り販売ではなく、廃棄してほしい」と指導するのだ。

参議院議員/日本共産党 たつみコータロー氏制作の資料より抜粋(事務所承諾済)
参議院議員/日本共産党 たつみコータロー氏制作の資料より抜粋(事務所承諾済)

▼最高裁は「値引き販売の妨害は違法」とする判断

2009年6月22日、公正取引委員会は、セブン‐イレブン・ジャパンに対し、独占禁止法第20条第1項に基づき、排除措置命令を出した。商品価格を値引いて売り切る「見切り販売」を制限したことが、「優越的地位の濫用」規定に抵触するとした。

排除措置命令を根拠に、同年9月には「セブン-イレブン・ジャパン」の加盟店経営者が、「見切り販売」を制限され利益が減ったとして、同社に損害賠償を求めて、東京高裁に集団提訴している。この裁判は、2014年10月、最高裁が「見切り販売の妨害は違法」とする高裁判決を確定させた。

▼本部側の言い分は

今回、オーナー側が証言したことを本部はどう思うのか。PさんとRさんが加盟するA社の広報担当者に話を聞いたところ、以下の見解だった。

─「値引き(見切り)販売を容認」と言ってしまうと、”フリー” ”どうぞ”という感覚になってしまう。記事でそう書かれてしまうと、ちょっと…。我々が、加盟店に対して、値引き(見切り)販売を制限することはない。最終価格は、加盟店が決めるものだから。ただ、むやみな値下げをしてしまうのも困る。

コンビニというのは、お客さまが欲しいときに欲しいものがそろっているもの。価格に対しても信用してもらいたい。販売する上で、値下げを前提ということは良くなくて、売り切る努力をしてほしい。値下げを、積極的に勧めているわけではない。適正な売価で売るということ(が大事)。お客さまに、価格に対する不信感を持たせるのはよくない。」

また、Qさんが加盟するB社の広報担当者にも取材した。

─「コンビニ各社そうだと思いますが、本社から、値引き(見切り)販売をしてはいけない、と伝えてはいけないので、そこは各オーナーさんの判断になっています。本部としては、(値引き販売を)推奨もしていないし、禁止もしていません。ただ、結局、コンビニの特性として、(値引き販売するスーパーと違って)フレッシュなものや値引きしていないものを置いており、近くて便利、というのがあります。値引きしている、商品棚が空いている、ガラガラになっていると、お客さんとしては不便を感じてしまいます。逆に言うと、(値引き販売しないのは)コンビニの良さでもあります。

それを含めて、オーナーさんに理解していただいています。」

 

▼消費者はこの問題をどうとらえるべきか

コンビニオーナーになるためには、現状、コンビニ会計が加盟店契約の中に含まれているため、コンビニ会計自体を了承せざるを得ない。双方納得の上で契約をするので、オーナーになった後にやめてほしい、と言い出すのはとても難しい状況にある。一方で、売れ残った商品を値引きして見切り販売すること自体は自由にできるはずだ。しかし、コンビニ本部側の取材を踏まえると、「見切り販売してほしくない」という思惑が透けて見える。裁判で見切り販売の制限は違法という結論がでても、なかなか商慣習が変わるところまで至っていない。

オーナーの中には、「収入源とオーナーの地位を死守するためには、たとえ理不尽で納得いかないことでも変えられない」から「本部の指示には黙って従う」という人もいる。強い権力者が刀を振り回し、利権に無意識で無関心な消費者も、意識せずともそこに加担している社会構造がそこにある。消費者は、「常に新鮮で、新商品が棚にびっしり詰まって並んでいるのがコンビニ」という意識を変えることからはじめるべきではないだろうか。消費期限の手前で棚から撤去し、新しいものと入れ替え、棚にびっしり詰めておくためのコストは、実は消費者自身が払っているのだから。

そして、課題意識を共有できたなら、自分の持っているオウンドメディア(ホームページ、メールマガジン)やソーシャルメディア(Twitter、Facebook、ブログなど)で発信してもらいたいと思う。コンビニ会計を知らなかった人が、この問題を知ることができれば、少しずつ世界を変えることにつながるだろう。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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