【阪神】“小ブラゼル”がオトナになって帰ってきた! 森田一成氏がタイガースアカデミーのコーチに就任
■タイガースアカデミーのコーチに就く
阪神タイガースアカデミー・ベースボールスクールのコーチに新加入した森田一成氏は、岡山県の関西高校から2007年高校生ドラフト3巡目でタイガースに入団。長打力が魅力で、プロ初打席初安打が本塁打だった。これは球団史上初の快挙だ。
2014年に引退したあとは、紆余曲折あって2021年に開校された同スクール岡山校のコーチを務めていた。厳密には同校は「姉妹校のような形で、業務提携みたいなもの」だったといい、諸事情により3月いっぱいで締めることになった。
そんなおり、球団から「帰ってくるか」と声をかけてもらい、「ありがたいお話だった」と、二つ返事で同スクール“本隊”のコーチを引き受けた。住まいも関西に移し、春から指導に当たる。
「やっぱね、こっち(関西)は熱量が違うんよ、阪神への。テレビをつけても、街中や飲食店での会話も…。そういう熱量に応えたいなっていう気持ちがある」。
森田氏自身も両親の影響で、幼いころから生粋のタイガースファンだった。「俺も虎キチやったけど、やっぱ岡山の虎キチと関西の虎キチは違うからなぁ」と関西のタイガースファンに対して、畏敬の念を持つ。
タテジマに袖を通して将来ある子どもたちと向き合い、自身の経験も踏まえながらいろいろなことを教えていきたい―。森田氏は目を輝かせながら、さまざまな思いを語った。
■平田勝男ファーム監督
現役時代を振り返り、口にしたのは当時の指導者たちへの深い感謝の気持ちで、まずは平田勝男ファーム監督(現1軍ヘッドコーチ)の名前を挙げた。当時は非常に厳しかったと懐かしむ。「怒られた経験しかないけどね(笑)。ほんま怖かった」。たしかに、叱責されている場面を数多く目にした。
「でもね、それでも試合に出してくれたから。出んと話にならんからね、プロは。ほんま厳しかったけど、試合に使ってくれたことに感謝しかない。根気強く、愛情をもって接してくれてたっていうのは、よくわかっている」。
若かった当時、すべてを咀嚼して呑み込めていたわけではない。が、大人になった今、どんな思いで叱ってくれたのかは、痛いほどわかるのだ。
■筒井壮コーチ
愛情深かったのは筒井壮コーチ(現1軍外野守備走塁コーチ)もだ。
「ほんと俺も子どもだったからね。高卒でプロに入って、世の中をナメとるところがあったと思う。よくフテて(不貞腐れて)…。でも、そんなときでも壮さんは、本当に根気よく向き合ってくれた。愛情をもってね。今になって、フテるのとかダメだなって思うけど、そのころはね…」。
精神的にも未熟だったという反省の気持ちから、照れくさそうに苦笑する。
森田氏も現役引退後、サラリーマンとして会社勤めも経験した。野球教室も自分で運営し、経営者としての苦労も知った。「ほんま世の中に出てはじめて、社会ってこんな厳しいんじゃってわかった」と骨身に沁みたという。
「とくに2人にしてもらったことは忘れていないし、自分がしてもらってよかったことは、これから子どもたちにしていきたいと思う」。
それこそが恩返しになると、うなずく。
■中村豊コーチ
中村豊コーチ(現中日ドラゴンズ二軍外野守備走塁コーチ)についても、「引退されてコーチになった年に自分がルーキーで入って…。普段は優しいけど、めっちゃ叱ってくれた」と思い出を語る。
「豊さんは守備走塁の技術だけじゃなくて、行動とかも根気よく注意してくれたかな。ランナーコーチってバッティングのいいときと悪いときがよくわかるから、『こうなってるで』とかコッソリ言ってくれたり、ダメなときはダメってめっちゃ叱ってくれたりもあった」。
平田監督と中村、筒井両コーチは「やっぱ明治(大学)だからね、厳しい(笑)。けど、本気で叱ってくれた」と頭を下げる。
■指導者陣に感謝
そのほか、バッティングを教えてくれた片岡篤史コーチ(現中日ドラゴンズ1軍ヘッドコーチ)、内野守備を教えてくれた風岡尚幸コーチ(現オリックス・バファローズ野手総合コーチ)にも「本当によくしていただいた」と感謝の念が尽きない。
「今から思えば、ほんまに恵まれとったね。だって、コーチも何も言わんかったら楽だし、クビにしたら終わり。だけど、それを一生懸命言ってくれるわけ。本当に感謝、感謝しかない」。
大人になった今だからこそ、そのありがたみを痛感するのだ。
■指導は根気と愛情
現役時代の指導者陣から得たことは「指導は根気と愛情」だという。
「だって諦めたら怒らんでええから。チャラチャラ仲よくしとけば子どもも好いてくれるし楽やろうけど、それじゃダメだと思う。その子のことを考えたらね」。
自身が受けた愛情は、そのままスクールの生徒たちに還してあげたいと考え、それが指導のベースになっている。
昨年12月には「NPB12球団ジュニアトーナメント」に出場するタイガースジュニアのコーチも経験した。アカデミーとは違い、日本一を目指すチームだ。勝負に勝つために厳しさも必要となる。
「昔の俺を知っとる人は『お前がなに厳しく言っとんだ』って思ったかもしれんけど(笑)。当時のちゃらんぽらんな高卒の俺を見とる人はね(笑)」。
しかし今の森田氏は違うのだ。社会での酸いも甘いも知っている。子どもたちのことを思えば、厳しさも必要だと考える。
■本当の楽しさとは
その姿勢はアカデミーでも変わらない。アカデミーは勝負の世界ではないが、「うまくなるために」とオンオフのスイッチングはしっかり教えたいという。
「もちろん厳しいだけじゃなく、楽しくもやるけど。でもその楽しさって、一生懸命やってうまくなることでの楽しさだから」。
チャラチャラふざけて楽しいのではなく、真剣に野球と向き合い、上達することで楽しさを覚えてほしいと願っているのだ。そのため、必要なことは繰り返し、口酸っぱく言っていくつもりだ。
■未来ある子どもたちを育てる
これまでのコーチ業で「子どもたちの性格を把握するのが難しい。いろんな性格がおるからね。その子に寄り添った指導をって思うし、性格によって伝え方も違うから」と苦労を語る一方で、喜びも口にする。
「やっぱり打てん子が打てるようになったり、『試合でホームランを打ちました』とか『ノーヒットノーランしてきました』とか、そういう報告が嬉しい。俺が教えたからできたわけじゃないけど、そうやって伝えてきてくれるのが、ほんと嬉しいねぇ。野球が好きって感じるね」。
そんなふうにやりがいを口にしたときの顔は、18歳で入団したころとまったく変わらない、目尻の下がった愛くるしい笑顔だ。
現役時代、そのパワフルなバッティングから「小ブラゼル」との愛称で人気を博した森田氏が、今後どのような選手を育てるのか非常に楽しみである。もしかすると「小サトテル」が誕生するかも!?
(撮影:筆者)