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シングルマザーとレズビアンカップルにも人工授精が可能に

プラド夏樹パリ在住ライター
毎年、約3500カップルが精子・卵子提供を求めてウェイティングリストに名を連ねる(写真:アフロ)

現在、フランスでは、第三者からの精子・卵子提供による人工授精は、不妊症に悩むヘテロセクシャルカップルだけに許可されている。

しかし、今年秋、第三者からの精子提供による人工授精をシングルマザーとレズビアンカップルにも許可するかどうかが議会で討論される予定である。昨年9月のIfopの統計では64%の国民が賛成しているということだが、メディア上では賛成派と反対派が、新年早々、激しい討論を繰り広げている。

しかし、昨年末、国立生命医療局は、精子と卵子の提供数の不足を発表した。

毎年、約3500カップルが精子と卵子の提供を求めてウェイティングリストに名を連ねる一方、2015年、ドナーとなった人はわずか795人(男性255人、女性540人)だ。(Le Monde 紙2017年11月4日)

精子提供を受けるカップルは平均して13ヶ月から2年間、待たなければならない。また、多民族国家であることもあり、できるだけ、両親の髪や肌の色に近いドナーが必要になる。今、特に不足しているのは、アジア系、インド系の提供者だ。

そのため、「シングルマザーとレズビアンカップルにも人工授精を」と言っても、実際に許可された場合、精子提供を受けるためのウェイティングリストはさらに長くなることが懸念されている。

世界で最も厳しい生命倫理法

それならば、スペインやデンマークのように有償にすれば?という意見も、もちろんある。

しかし、フランスは世界で最も厳しい生命倫理法をとっている国の一つだ。精子・卵子から臓器にいたるまでが「人格を持った人間」の一部として考えられており、有償を固く禁止している。第三者から提供される精子と卵子を使用する人工授精も含めた不妊治療は国民保険で全額カバーされるというメリットもある反面、「精子・卵子提供は無償」を絶対条件にしている。

ところで代理母出産はといえば、1994年に定められた生命倫理法で、有償・無償に関わらず禁止されている。そのため、外国へ行って代理母出産を依頼するカップルも増えている。ホモセクシャル・レズビアン団体(APGL)やシングルマザー団体(ADFH)の調べによると、2017年には約500人の赤ちゃんが、外国、特にアメリカ、カナダ、ウクライナ、ロシア、ギリシャで代理母出産によって生まれたそうだ。

費用はウクライナで30万ユーロ(約4020万円)から60万ユーロ(約8040万円)、アメリカでは10万ユーロ(約1340万円)から170万ユーロ(2億2780万円)にものぼる。それに加えて代理母に会いに行くための飛行機代やホテル代を加算すれば、莫大な金額になる。(M Le magazine du Monde,2017年12月30日)

では借りるか?といっても、銀行融資を受けるためには、目的を明確にしなければならない。「代理母出産依頼のため」と言っては審査を通ることができない。無事、赤ちゃんが生まれたとしても、出生届を提出する際に、国内での出産ではないから代理母出産ではないかという疑いがかけられた場合、弁護士も必要になってくる。

マクロン大統領は、経済的に余裕のある人々だけが人工授精を外国で受けることができるのは「不平等」という立場から、シングルマザーとレズビアンカップルにも国民保険での人工授精を可能にと考えているらしい。しかし、本当に、平等・不平等だけが問題ならば、代理母出産も許可すべきだろう。ビジネス化するのが「身体を賃貸する」ことにつながるのならば、無償にすることもできるのではないだろうか?

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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