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記者会見で目立つ姿勢や歩き方はどう改善する?指導歴31年のプロが解説 木原官房副長官の場合

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
筆者撮影

記者会見では、必ずといっていいほどカメラが入場シーンから撮影しています。ドアを開けた瞬間から、目線、表情、歩き方から登壇者の心理を推し量る観察が始まっているのです。今回は、指導歴31年、延べ1万人以上の歩き方を改善してきたスマートアクト・ディレクターの鷹松香奈子さんに姿勢や歩き方の極意をお聞きします。

木原官房副長官の姿勢と歩き方

石川:鷹松さんのスタジオで初めて歩き方レッスンを受けたのは、2015年の1月。奥深さにすっかり魅了され、以来ずっと私は通い続けて7年経ちました。歩き方レッスンは記者会見トレーニングでとても役立っています。最近私の中で気になっているのが、岸田政権の軍師と言われている木原誠二官房副長官。この方の姿勢や歩き方はどう見ていますか?

鷹松:木原さんは、筋肉質で体格がいいから背中が丸いのか、猫背だから背中に贅肉が着いてしまったのか、どちらにせよかなり姿勢は悪いと思います。猫背の人特有の体勢、頭が下がって、顔が下を向いてしまう。そうすると、暗い、自信が無いというマイナスイメージになりやすいので要注意です。もう少し歩幅を広くするようにする事で、胸が上がり顔も上がります。姿勢も良く見えるようになります。

石川:私が気になっているのは上目づかい。顎を引きすぎているため下から見上げるようなシーンが多くなっています。卑屈な印象を与えてしまいます。記者とのコミュニケーションはキャッチボールができているだけに残念です。直った癖もあります。2年前のプレスセンターでの木原さんによる講演の際は、手でひっきりなしに顎を触ったり、手でペンをいじる動きがあり、落ち着きがありませんでしたが、今はありません。よかった、よかった。

鷹松:癖を直すことは可能です。癖は無意識にやっていることなので、まず自分で気付く。その気付きがあって初めてやめようという意識が働きます。

石川:鷹松さんと一緒に100人以上の記者会見を解説してきましたが、今まで見てきた著名人の中で姿勢と歩き方がよかった方はいますか。トヨタ自動車の豊田章男社長とか?

鷹松:うーん、章男社長の場合、プレゼンテーションウォークはうまいのですがちょっと猫背でして姿勢がいいとは言えないのです。姿勢と歩き方でびっくりするほどよかったのが、菅政権の加藤官房長官です。官邸の記者会見室に入ったときのお辞儀、演台までの歩き方、そして記者の方たちとの対面の仕方がよかった。背筋がピンと伸びて、歩く足も伸びて、記者を指名する手も伸びていました。

石川:それにしても、日本人のリーダーはつくづく猫背の方は多いと感じます。鷹松さんはこれまで歩き方を改善してきていますが、どのような悩みがありましたか。

日常の動きが歪みの原因、見た目も悪くなる

鷹松:一番多いのは猫背とO脚です。猫背にもO脚にも原因があるのでその原因を見つけることから始めます。印象に残る人でいえば、もともとボクシングを趣味でやっていて30歳ぐらいまで頑張っていた。初めて来た時は全くもってボクサーの体、爪先重心で猫背。肩は前に回り込んで首は前に出ている状態。歩き方を改善したい理由をお聞きしたら、「いい人からいい男にしてください。あなたはいい人ねとよく言われても、いい男ね、と言われたことは一度もないから」と。彼はもう10年以上になりますけれどいまだにレッスンに来ています。

石川:結果としていい男になったからずっと通っているんですね。(笑)

鷹松:歩き方を学ぶきっかけとしては、親に言われたとか友達に言われたとか。人から指摘されてそれを直したいから、と来られる方が多い。言ってくれる友人や家族がいるということは幸せなことなのかもしれないですね。

石川:知らないままずっと一生を終えちゃう人もいるかもしれない。言える関係ができている。周りの人といい関係を築いている証しだと思います。

歪みは癖のある動きが原因

鷹松:その他よくある歩く時の癖としては、突進して歩く、左右に揺れる、内股で歩く、片方だけ内股になる、下を見て歩く、肩甲骨が全く動かない、といったケースです。癖は放置すると歪みにつながり、見た目も悪くなります。歪みは体だけではありませんが。

石川:私も経験あります。テレビ出演した際の録画で自分の口の歪みを発見した時には結構落ち込んでしまいました。父が歪んでいたので遺伝かもしれないと思いましたが、若い頃は歪んでいなかったので遺伝ではないだろうと。自分の動きの癖を観察したら噛み癖でした。左ばかり使っているから左の口角が上がってしまったのです。ほうれい線も左だけできるしいいことなし。今は努力して右で噛むようにしたらだいぶ直りました。口が曲がっていると性格が歪んでいるように見えてしまうので損をしますから。案外諦めている人は多いと思います。メディアトレーニングでも口の歪み相談は頻繁にあります。

鷹松:利き目があって利き手があって利き足があってと必ずあるので歪んでいない人は世の中にいません。私自身も背が高いことは子どもの頃コンプレックスだったので実を言うとすごく背中、背骨が歪んでいました。左右対称に体を使っていくことによってその歪みは解消していきました。O脚や猫背は放置すると病気につながる、体の健康に害を及ぼしてしまう可能性が高いので、できるだけ日常の動きの中で直していったほうがよいでしょう。

石川:病気の原因が実は歪みだったりしますか。

鷹松:要は姿勢が悪いと内臓をつぶしている状態なので体の中の血流が悪くなります。血流が悪くなると当然それはいろんな病気につながっていく。X脚、O脚というのは膝の関節がきれいに整っていない状態なのでどっちかが片寄って膝の関節がぶつかり合うことによって痛みが出てきたりとかすると膝関節症だったりとか股関節脱臼になります。若いうちは筋力があるからいい何とか持ちますが、60代、70代になって、筋力が落ちてくると、O脚がひし形みたいな形になります。そこまで行くともう直しようがない。痛みと一生付き合っていかなくちゃいけない。筋力のある若いうちから本当は直すのが一番理想。

石川:知識がない、気づかないリスクは大きいといえます。私が歩き方改革を始めた動機は、外見リスク研究のためですが、実は自分の姿勢や歩き方に自信がなかったから。特に後ろ姿の自分の写真にがく然としたことがきっかけでした。反り腰もいいのかわからなかったので。

鷹松:女性の腰痛はすごく多くて、原因は反り腰です。反り腰は胸が開いてお尻がぽこっと出るので膝もぐっと入る。一見すごく姿勢を正しているように見えるんだけれど実を言うと腰や膝に負担がかかってしまい、長い年月の間に歪みや痛みに変わっていく。股関節にも負担がかかってしまいます。

石川:ハイヒールもありますかね。基本の歩き方ができていないと膝は曲がる、腰は曲がる。私の周りでも腰を痛めている人は結構多いです。私も反り腰だったのを気が付いたから直してなるべく腹筋を使うように動きを変えました。歩き方の癖を直すことによるメリットはすごく多いけれどもそのメリットは知られていない。

鷹松:カイロプラクティックの治療院を経営されている男性の先生が私のスタジオに通っています。患者さんのためです。女性の腰痛がすごく多いからその原因は、それはハイヒールを履いているからではないかと予測し、腰痛の原因と改善策を研究するため練習に来ました。わざわざ歌舞伎町まで行って27センチのパンプスを買ってスタジオに持ち込んでヒールを履いて歩き方を練習。すごく研究熱心な先生。履いてみて、こりゃ腰痛にはなると納得。どこに負担がかかっているか確認して治療に役立てているようです。彼としては、女性にハイヒール履くなとは言えませんから、治療の後に歩き方についてワンポイントアドバイスで教えてあげたいとのことでした。

石川:自分の体を守るためにも。一生の問題です。50歳ぐらいになるとあっちこっち病気になるというのはもしかしたら歪みとか歩き方に原因があったりするということも。

鷹松:そうですね。腰痛、肩凝りとかそういったものを全て含めてですね。

歩き方を変えると表現が豊かに、個性的に

鷹松:歩くという動作に関して言えば私たちは健康体で生まれていれば歩かない日はないので、確実に時間をかければきちんと歩くことはできるし姿勢を正すことも美しい動きをすることもできます。ただ、人によって時間のかかり方は違うし、同じことを教えても歩き方による個性が皆異なります。

石川:私自身は歩き方を変える訓練で体のコントロールができるようになりました。歩くときだけではなく、ポージングの際の手や首のちょっとした動きでさまざまな表現ができるとわかったのは大きな発見です。

鷹松:おっしゃる通り、私はモデル出身なので、ポージング、コートをスマートに脱ぐ、着る、美しいバッグの持ち方、お辞儀の仕方、そういった一連の見せる所作もレッスンの中に組み込んでいっているので人間の持つ非言語表現力は身に着くと思います。記者会見を見ていると、原稿しか読んでいない、下しか見ていなくてちっとも美しくない。その姿をさらしたことによって逆にマイナスイメージになっていました。

姿勢はおへその下から

石川:フランスの家庭では歩き方を教えていると以前鷹松さんから聞いたことがあります。

鷹松:フランスのエリート教育系幼稚園だったと思います。歩き方が確立される前にきちんと歩き方を教えるそうです。家庭内で教えるのは洋服のコーディネート、色の合わせ方とか。日本人みたいにブランド品を着ればいいという考え方は彼らには全然なくて、例えばその辺で売っている安いポロシャツでもTシャツでもシャツをどう組み合わせたら格好いいかとか重ね着の文化みたいなのがすごくあって同じポロシャツを色違いで2枚重ねて着るとか。彼らはそういうおしゃれをするんですよ。

石川:さすがフランス。ブランドに頼るのではなく、色や組み合わせを楽しむとは高度です。

鷹松:歩くということは健康体でいれば一生付き合う動きですからダンスはしたことがないという人はいても歩いたことがないという人はいないと思うので、すごく大事な動き。幼稚園とか小学校低学年できちんと教えてあげるということが、その怖さも含めて教えるということは必要なんじゃないのかなと思います。

石川:最後にワンポイントレッスンを何かお願いできますか。特に今テレワークが多くて座っている時間が多く、相当腰に負担があるんじゃないかなと。

鷹松:座るときは背もたれに寄りかからないのが基本。そして、立っているときも座っているときもおへその下から胸に向かってバストアップするように引き上げます。胸がふっと上に上がる感じ、そうすると自然と頑張らなくても胸が開くんですよ。胸が開いてくると深い呼吸ができます。猫背だと肺がつぶれているので呼吸が浅くなります。しっかりバストアップするようにして胸を開いてもらってゆっくり呼吸を深くするという癖をつけていくと姿勢がよくなります。バストアップしつつ力を抜く。肩に力を入れないということが一つのポイントです。

石川:私が調査した「外見がビジネスに及ぼす影響」研究では、女性の8割が姿勢重視でした。危機管理広報においても向き合う姿勢は最重要です。心と体を一致させるためにも姿勢コントロールは欠かせません。まずはおへその下からですね。本日はありがとうございました。

<石川慶子MTチャンネル>MTはメディアトレーニングの略

言語・非言語の表現リスクを解説する番組です。

歩き方NG集

https://youtu.be/NAWEq0oqZvQ

スマートな歩き方

https://www.youtube.com/watch?v=6POPo8xY7JE

【鷹松香奈子(たかまつ・かなこ)氏 プロフィール】

スマートアクト・ディレクター

合同会社ティーケープラス代表 

20歳でモデルデビューし、エルメス、シャネル、ディオール、イッセイミヤケなど東京コレクション・パリコレクション他、国内外のコレクションに出演。モデルの経験を活かし、ウォーキングディレクターとして、スクール運営、企業研修やイベントでのトークショー、経営者向けウォーキングプレゼンテーションなど各方面で約1万人以上に対し指導してきた。スマートアクトとは、周りからどう見えているかを意識し、自分の思いや考えを効果的に伝えるため、身体の動き全体をバランス良く使っていくこと。現在「スマートアクト・ディレクター」として、非言語の表現方法として、魅せる動きに特化し、個々の演出拘り、全体像をグレードアップさせるために活動。https://www.tk-plus.net/

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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