北朝鮮女子サッカーはなぜ強い?「平壌現地取材」で女子代表監督が教えてくれた“秘訣”
杭州アジア大会の女子サッカー決勝で、朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮)は日本代表に1-4で敗れて銀メダルとなった。先日の男子サッカー準々決勝でも北朝鮮は日本に敗れたわけだが、リベンジとはならなかった。
男子の試合では審判への抗議やラフプレーが大きく取り上げられ、女子の日朝戦はどうなるのかと懸念されていたが、終始、クリーンな試合展開で荒いプレーは目立つことなく、両国の特徴が表れた決勝戦にふさわしい試合だった。
それに試合後に北朝鮮のリ・ユイル監督も日本の印象について「すばらしいプレーをしていた。日本の選手は自分の強みを生かして、いい態度で試合に挑んだ。今後も日本と対戦する可能性があるかもしれない。この試合の経験を生かして、もっといいプレーができればと思う」と話していたという。
少ないチャンスを確実に決めた日本が一枚上手だったと言わざるを得ないが、驚いたのは北朝鮮選手の能力の高さだ。全体的な試合の印象としては、試合のペースを握ったのは北朝鮮だった。特筆すべきはフィジカルとスピードで、ボールを持てば常に前を向いてパスをつなぎ、日本のゴールに何度も迫っていた。何度も決定機を作りつつも、最後まで日本の厚い守備を崩せずに敗れたわけだが、点差ほどの実力差はなかったと感じる。今回のスコアが逆になってもおかしくなかった試合展開だった。
それほど北朝鮮女子サッカーのレベルが、アジアではトップクラスであることを証明するには十分な試合だった。それに日本戦でゴールを決めた21歳のFWキム・キョンヨンは今大会12得点と爆発。彼女は2018年開催のU-17 W杯とU-20W杯にも出場した北朝鮮期待の逸材で、改めてその才能を確認できた。
元々アジアでは強豪国の北朝鮮女子
元々、サッカー女子北朝鮮代表はアジアでは強豪国と知られている。AFC女子アジアカップ、アジア競技大会、E-1サッカー選手権をいずれも過去3度制し、育成年代でも2016年U-17ワールドカップ(W杯)決勝では日本を下して優勝し、同年のU-20W杯でも決勝でフランスを下して大会を制覇するなど、世界大会でも結果を残している。
コロナ禍で長らく国際大会に出ていなかったことから、現在のFIFAランキングは“圏外”となっているが、2022年12月に集計された同ランキングではアジアで最も高い「10位」だった。現在、同ランキング8位の日本がアジアトップだが、北朝鮮は同じくらいのレベルにあると見ていいのかもしれない。
今大会で北朝鮮は自分たちが国際大会でどれほど戦えるのかを確認できたことは、大きな収穫になったはずだ。というのも来年開催のパリ五輪出場2枠をかけたアジア2次予選(10月26~11月1日)と来年2月には最終予選が控えている。
北朝鮮にとっては日本が最大のライバルとなるわけだが、今回の敗因を分析して、パリ五輪予選では様々な対策を講じてくるだろう。
それにしても、なぜ北朝鮮の女子サッカーは強いのか。その一端が知れる話を6年前の2017年11月に平壌現地で聞いたことがある。
17年に東京で開催された「E-1選手権」で来日するチームの事前取材のため、中継を担当したフジテレビからの仕事依頼で、平壌入りしたわけだが、15万人を収容するメーデースタジアム(5・1競技場)で北朝鮮女子代表が練習するというので現場に向かった。
北朝鮮女子は男子と同じメニューのトレーニング!?
当時、フル代表の指揮官は元北朝鮮代表のキム・グァンミン監督。2005年から女子監督に就任したが、現在も指揮官なのかの情報は得られていない。現役時代は1992年に広島で開催されたアジアカップで、カズやラモスがいた日本と対戦(1-1)しゴールを決めた人物でもある。
キム監督に「優れた選手を育てる秘訣」について聞くと、こんな答えが返ってきた。「男子と違い、女子の場合は細かい部分で指導法が変わってきますが、基本的には男子と同じトレーニングメニューをこなすようにしています」。
フィジカルやスピードに優れているのは、男子並みのハードワークを普段から行っているからなのだとか。さらにこんな話もしていた。
「女子選手は男子選手よりも当然、体力的に劣る部分があるので、最初はついていくだけで精いっぱいです。練習がハードなときは、とても辛いはずです。ただ、それについて来られるようにならないと世界の頂点は見えてきません。これは私が監督なってから一貫して変えていないことです」
あくまでも目標に見据えているのは世界の頂点。ワールドカップで優勝することを目標に日々鍛錬しているということだが、厳しい練習についてこれないようであれば、世界では勝てないというのを若い世代は徹底的に叩きこまれているようだった。
アジアの女子サッカーを牽引する日本とこれから台頭するであろう北朝鮮には、これからもよきライバルとして切磋琢磨してもらいたいものだ。