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TwitterのAIに「右派推し」のバイアス その対策とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

ツイッターのAIアルゴリズムが、右派の政治家やメディアを左派よりも強く「推す」ことが、社内調査でわかった。その対策とは――。

ツイッターは21日、日本を含む7カ国を対象とした、社内チームによる研究結果を公表した。

ツイッターでは、フォロー先からのツイートを時系列で表示することに加えて、AIのアルゴリズムが選んだおすすめツイートを優先表示している。

このアルゴリズムに政治的なバイアス(偏り)はないのか。

ツイッターの調査では、アルゴリズムは右派(保守派)政党の政治家のツイートを、左派(リベラル派)政党よりも多くのユーザーに表示する傾向があり、カナダではその割合は4倍にも上っていた、という。

アルゴリズムに「右派推し」の政治的なバイアスがあったということだ。この傾向は政治家のツイートだけでなく、メディアのニュースでも確認されたという。

今のところバイアスの原因はわかっていないと言い、その影響についても触れられていない。

ソーシャルメディアのアルゴリズムのバイアスは、長くその問題点が指摘されてきた。フェイスブックの元社員による内部告発でも、アルゴリズムが「怒りの声」を悪化させていることが、明らかにされている。

ツイッターはどのような対策を取るのか? 小さな動きはあるようだ。

●アルゴリズムの政治的バイアスはある

7カ国中でドイツ以外の6カ国では、政党単位で見ると、政治的右派のアカウントが投稿したツイートは、政治的左派よりも、アルゴリズムによって増幅されている。

同社ソフトウェアエンジニアリングディレクター、ラマン・チャウドリー氏と、機械学習リサーチャー、ルカ・ベリィ氏は21日、ツイッターの公式ブログで、そう述べている。ブログでは、さらにこんな結果も示している。

右派系のニュースメディアは、ツイッター上で左派系のニュースメディアよりもアルゴリズムによって増幅されている。

公式ブログが紹介しているのは、ツイッターの社内チームがまとめた、同社のAIアルゴリズムの政治的バイアスについての研究結果だ。

その結論は、右派の政治家とメディアのコンテンツを強く「推す」、つまりより多くのユーザーに優先的に表示していることが明らかになった、ということだ。

ツイッターは、ユーザーがフォローしたアカウントの投稿を、リアルタイムで、時系列の逆順(最新の投稿が最上位)に表示するのが基本的な仕組みだ。

だが2016年から「ホーム」タブのタイムラインでは、ユーザーの利用履歴や他のユーザーとのエンゲージメントなどのデータをAIのアルゴリズムが分析、興味を引きそうなコンテンツ「トップツイート(おすすめツイート)」を選んでランキング付けし、時系列に関係なく優先的に上位に表示する機能を導入した。現在、これがデフォルトになっている。

今回の社内調査は、自社の持つ膨大なデータを基に、そのアルゴリズムのバイアスを明らかにしたものだ。

●右派政党は左派の4倍にも

調査は、2020年4月から8月までの期間で、全ツイッターユーザーの5%を対象に実施した。調査時期にあたる同年第2四半期の「収益可能な1日あたりのアクティブユーザー(mDAU)」は1億8,600万人だったため、調査対象のユーザーは930万人という規模になる(※最新の2021年第2四半期のmDAUは2億600万人)。

このうち2割はアルゴリズムによる「トップツイート」が表示されず、「最新のツイート」が時系列で表示されるだけのグループで、残る8割のグループは「トップツイート」が優先的に表示された。

この時系列表示とアルゴリズム表示での、右派と左派のツイートの表示度合いを比較することで、アルゴリズムによるバイアスを検証。時系列表示に対し、アルゴリズム表示で表示度合いに変化がなければ0%、倍増していれば100%、などとしてまとめた。

政党の調査で分析したのは、カナダ、フランス、ドイツ、日本、スペイン、英国、米国の7カ国、3,634人の連邦議会・国会議員のツイッターアカウントによるツイートだ。

日本では当時の衆院議員が対象になっており、政党別では右派から左派への並びで自由民主党、公明党、国民民主党、立憲民主党、共産党が挙げられている(※欧州各国については「2019年版チャペルヒル専門家調査」に基づくとされているが、日本の政党の左右分類が何に基づいているかは明示されていない)。

その結果、最も大きな違いが見られたカナダでは自由党が増幅率43%に対して、保守党は167%と、左右の格差が4倍近くにもなった。次いで格差の大きかった英国では、労働党が112%に対して保守党は176%と1.5倍ほどの格差があった。

ドイツでは、主要政党である中道左派の社会民主党が中道のキリスト教民主・社会同盟をやや上回っており、調査対象7カ国の中では唯一の例外(いずれも200%超)。

日本は、他の6カ国に比べて増幅率は全般的に低く、ドイツの主要政党の半分以下だ。個別の数値は示されていないが、国内で増幅率が最も大きかった自由民主党が約100%に対して、立憲民主党は70%程度となっている。

このように、主要政党で比較すると、ドイツ以外はすべて右派政党の連邦議会・国会議員のツイートのアルゴリズムによる増幅率が、左派政党の議員のツイートの増幅率を上回っていた。

この傾向は、与野党関係なく見られた一方、個々の議員の単位で見ていくと、左右で増幅率にはほとんど違いは見られなかった、という。

●ニュースメディアの増幅

メディアの調査では、左右に分類された米国のニュースメディアを対象に、その政治ニュースのリンクを含むツイートが、アルゴリズムで増幅される割合の比較を行った。

ニュースメディアの左右の分類については、「オールサイドス」と「アド・フォンテス・メディア」という2つの独立機関による5段階チャート(左派、左派寄り、中道、右派寄り、右派)を使用している。

やはり2020年4月から8月までの期間で、「オールサイドス」<A>のメディア分類では約1億件のツイートから626万件の記事、「アド・フォンテス・メディア」<B>のメディア分類では8,882万件のツイートから510万件の記事を対象に分析を行った。

この中にはニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト(いずれも左派寄り<A>・中道<B>分類)、FOXニュース(右派寄り<ABとも>)などの主要メディアから、デイリービースト(左派<ABとも>)、ブライトバート(右派<ABとも>)などのウェブメディアまでを網羅している。

その結果、「オールサイドス」「アド・フォンテス・メディア」のいずれも、右派が左派の増幅率を上回っていた。ただ、その差は数%であり、その間の3段階(左派寄り、中道、右派寄り)はほぼ同程度だった。また、各分類の増幅率も、10%前後から15%前後の範囲にとどまっていた。

●「保守言論を抑圧」主張と現実

米国では、プラットフォームによるフェイクニュース対策強化の中で、共和党陣営から「保守言論の抑圧」との主張が根強くあった。

特にその主張が勢いを増したのが、2021年1月に起きた米連邦議会議事堂乱入事件を巡って、ツイッターやフェイスブックなどプラットフォーム各社がトランプ前大統領のアカウントを一斉に停止するという措置だった。

※参照:FacebookとTwitterが一転、トランプ氏アカウント停止の行方は?(01/08/2021 新聞紙学的

※参照:Facebook,Google,Twitterを訴えるトランプ氏の思惑(07/09/2021 新聞紙学的

ただこれに対して同年2月、ニューヨーク大学スターン経営大学院ビジネス・人権センター副所長で非常勤教授のポール・バレット氏らがまとめた報告書では、フェイスブックを中心に、トランプ前大統領など保守派アカウントのエンゲージメントが、リベラル派を圧倒していたことが明らかにされていた。

バレット氏らの調査によると、2020年米大統領選投開票日までの2カ月間のフェイスブックページのエンゲージメントをトランプ前大統領とバイデン現大統領で比較すると、その割合は87%対13%。トランプ氏のページの存在感が、バイデン氏を大きく上回っていた。

また2020年の年初から大統領選投開票日までで、フェイスブックにおけるニュースメディアの投稿のエンゲージメントを比較すると、FOXニュースが4億4,800万件とトップ、次いでブライトバートが2億9,500万件と保守系メディアが上位を占め、リベラル系に分類される3位のCNN(1億9,100万件)を大きく引き離していた。

むしろ、フェイスブックにおいては、トランプ氏を中心とした保守系アカウントが席捲していたことになる。

●保守派は中間層に届きやすい

ツイッター上では、保守派のツイートの方がリベラル派よりも中間層に届きやすい――ツイッターの社内調査公表に先立つ10月4日、学術誌「サイエンティフィック・リポーツ」に東京大学教授の鳥海不二夫氏らの研究チームが、日本における保守派とリベラル派のツイート拡散状況を比較した調査結果を掲載している。

研究チームは2019年2月から2020年10月までの20カ月の期間で、安倍晋三元首相を指す「安倍」「アベ」という言葉を含む1億2,963万件のツイートを収集し、分析。安倍政権に好意的な保守派アカウント(8万8,709件)と批判的なリベラル派アカウント(13万4,855件)のツイートが、それ以外の穏健な中間層にどれぐらいリツイートされているかを比較した。

すると、中間層によるリツイートの割合は、保守派が23.23%、リベラル派が6.46%と約3.6倍の開きがあった、という。その要因の一つとして、アカウントがフォローされた際にフォローし返す割合が、保守派の61.8%に対してリベラル派が51.0%と低調であることが、保守派のメッセージの届きやすさにつながっている、と指摘している。

ツイッターの社内調査では、アルゴリズムそのものに右派(保守派)コンテンツ増幅のバイアスがあることが明らかにされたが、鳥海氏らの研究では、ユーザー側にも保守派コンテンツ拡散の傾向があることが示されたことになる。

●ツイッターの対策とは

いったん人気の出たコンテンツがさらに雪だるま式に人気を獲得していく傾向は「人気バイアス」と呼ばれる。

インディアナ大学教授でソーシャルメディア観測所所長を務めるフィリッポ・メンツァー氏は、アルゴリズムがエンゲージメントのようなデータで駆動される場合、「人気バイアスが意図しない有害な結果をもたらす可能性がある」とも警告している。

アルゴリズムとユーザーの相互作用が、マイナスのフィードバックループを引き起こす危険性の指摘だ。

※参照:フェイクニュースを自動で「おすすめ」 月間1億人が見せられる(10/18/2021 新聞紙学的

※参照:「いいね」が多いとついデマでも拡散してしまう、それはなぜ?(08/10/2020 新聞紙学的

フェイスブックの元プロダクトマネージャー、フランシス・ホーゲン氏による内部告発によると、同社のエンゲージメント駆動型のアルゴリズムによって、「怒りの声」が増幅されていたことを社内文書が指摘。「再共有されるものには、誤った情報や毒性、暴力的コンテンツが過剰に含まれている」と注意を促したが、十分な対策は取られなかった、という。

今回の研究は、アルゴリズムのシステムと、プラットフォームを使うユーザーとの複雑な相互作用を浮き彫りにした。アルゴリズムの増幅効果そのものは問題ではない。すべてのアルゴリズムには増幅効果がある。アルゴリズムが問題になるのは、ユーザーの操作に対する優先措置が機能として組み込まれている場合だ。もし「ホーム」タイムラインのアルゴリズムの悪影響を軽減する必要があるなら、その判断にはさらなる原因の究明をしなければならない。

今回のツイッターの社内調査について、公式ブログではそう述べている。具体的な影響の評価や対策については、なお時間がかかりそうだ。

AIアルゴリズムを巡っては、ツイッターはすでに5月、投稿写真から自動でサムネイル(縮小)画像を切り出す際に、黒人よりも白人、男性よりも女性を優先するバイアスが確認された、との社内調査結果を公表している。

そして、トリミングをしないでサムネイル表示が可能な、縦型サムネイルを導入した。

※参照:Twitterが「AIの差別」を認めた理由とは(05/22/2021 新聞紙学的

今回、ツイッターが取り組むことは何か?

現在、ツイッターで、アルゴリズムを使った「トップツイート優先」表示と「最新のツイート」表示を切り替えるには、「ホーム」タブの画面右上にある「三ツ星」アイコンをタップ(クリック)して、表示切り替えのリンクをもう一度タップ(クリック)することになる。

ツイッターは社内調査発表の前週の10月13日、切り替え操作をスワイプ(指を画面上で滑らせる操作)だけで可能にする新機能の試験導入を一部のiOSで行っている、と明らかにしている。

2回のタップが必要な表示切り替え操作が、1度のスワイプで済む、という小さな改修だ。

この改修が、アルゴリズム・バイアスへの対策の第一歩なのかどうかは、よくわからないが、無関係でもなさそうだ。

(※2021年10月25日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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