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野宮真貴 ”ヴァカンス渋谷系”は「”ロンバケ”のように夏感をずっと感じ、存在感ある作品を目指した」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
5月3日ビルボードライヴ東京
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野宮真貴が“野宮真貴、渋谷系を歌う”というコンセプトで、90年代に流行っていたピチカート・ファイヴ、フリッパーズ・ギター、オリジナル・ラヴ等のいわゆる“渋谷系”のヒット曲と、バート・バカラック、ロジャー・ニコルズ、はっぴいえんど、大滝詠一、山下達郎などの渋谷系のルーツミュージックを歌い始めたのが2012年。スタンダードナンバーとして次世代に残すべく、これまでにシリーズアルバムを2作品リリースし、ビルボードライヴでライヴを続けて5年が経った。これまでは、毎年秋にアルバムを出して、ライヴというサイクルだったが、今回の『野宮真貴、ヴァカンス渋谷系を歌うWonderful Summer~』は「ファッションシーンでも、春夏コレクションと秋冬コレクションがあるように、音楽でも季節にこだわった夏のアルバム、ひと足早い夏を楽しむ明るいアルバムを作りたかった」と本人が言うように、陽ざしの強さや、空気の匂いに夏を感じるようになる5月に発売した。そんな夏を先取りした、タイトル通り“夏のヴァカンスの名曲群”をカバーしたアルバムを作り上げた野宮真貴にインタビューした。

かまやつひろしがGS時代に作った夏曲が、”ヴァカンス渋谷系”のポイントに

『野宮真貴、ヴァカンス渋谷系を歌う。~Wonderful Summer~』
『野宮真貴、ヴァカンス渋谷系を歌う。~Wonderful Summer~』

「渋谷系って夏の曲が多いんですよ」――野宮の言葉通り確かにフリッパーズ・ギターの「Summer Beauty 1990」を始め、夏がキーワードになっている楽曲が多い。野宮と共に、膨大な数の作品の中から選曲をした、“野宮真貴、渋谷系を歌う”のプロデューサーでもある坂口修氏は「日本の夏っぽい曲のルーツを遡ってみると、グループサウンズのザ・タイガース「シーサイド・バウンド」(1967年)がまず思い浮かび、この年は他にも渡辺貞夫さんが作って「ユキとヒデ」が歌った、「白い波」という和製ボサノヴァの名曲が発売されたり、夏を感じさせてくれる曲が色々生まれた年でした。“歌謡曲”から“ポップス”への夜明けがこの年だったと感じています。でもその前年、1966年にザ・スパイダースが「サマー・ガール」という曲を出していて、かまやつひろしさんが作った作品で、これだ!と思いました」と、このアルバムのポイントになる一曲として、まずは「サマー・ガール」を選んだという。

今年3月他界してしまった、ムッシュことかまやつひろしと野宮も親交が深かった。「2015年のライヴにかまやつさんが飛び入り参加して下さって、ユーミンの「中央フリーウェイ」を一緒に歌いました。その時のかまやつさんのコーラスが素敵で忘れられなく、今回もコーラスで参加をお願いしていましたが、レコーディングの時期は体調がすぐれずに、実現しませんでした。是非一緒に歌いたかったです」(野宮)。日本のサマーソングのさきがけともいえるこの曲は、荒井由実も以前テレビ番組でカバーし、その際、ティン・パン・アレイがコーラスを務めたという事で、渋谷系のルーツミュージックとして、野宮は想いを込めて歌っている。

「夏を感じる名曲達が、サラッと聴き流されるものではなく、歌がしっかり聴こえる夏アルバムにしたかった」(野宮)

このアルバムを貫く太いコンセプトのひとつは「ボッサとかレゲエアレンジとか、カフェミュージックにありがちな夏向きのカバーアルバムではない」(坂口)という事だ。それは「渋谷系の名曲といわれている曲に共通しているのは、歌詞がいいという事。そこも選曲の重要なポイントになっていて、今回も、気持ちいい夏の曲として、サラッと聴き流されるものではなく、歌がしっかりと聴こえて、ポップスとして成立するものを選びました」と野宮が言うように、有名無名問わず二人が“夏を感じる名曲”と認める、歌が“立っている”楽曲が、7曲パッケージされている。

野宮と渡辺満里奈
野宮と渡辺満里奈

収録順に紹介していくと、まず野宮の雰囲気や声の温度感にマッチしたロビン・ワードの隠れた名曲「Wonderful Summer」は、ムーディーでどこまでもオシャレ。「大好きなシャツ(1990旅行大作戦)」は、1990年に小沢健二・小山田圭吾の二人が“DOUBLE KNOCKOUT CORPORATION”名義で、渡辺満里奈に提供した名曲。この曲では渡辺満里奈が20年ぶりにレコーディングに参加し、野宮とデュエットしている。「「大好きなシャツ」は歌ってみたら、アレンジ、メロディラインも含めて、自分のボーカルスタイルに合っていると思いました。満里奈さんの声が当時と全然変わっていなくて、ビックリしました」(野宮)と、レコーディングの時の印象を教えてくれた。

野宮の盟友、元ピチカート・ファイヴの小西康陽が、吉村由美(from PUFFY)のソロデビュー・シングルとして提供した「V・A・C・A・T・I・O・N」(1997年) は、メロディも言葉も“小西節”が炸裂しているアップテンポなナンバー。“渋谷系”に計り知れない影響を与えた、シュガー・ベイブ、山下達郎の作品の中から今回は竹内まりや「夏の恋人」(1978年)が選ばれた。この曲は山下が竹内まりやのデビューアルバム『BIGINNING』の中で、彼女のために初めて書き下ろした作品。山下が他人への提供曲で作詞まで手がけたものは数曲しかない。野宮の優しい歌と、スウィートさとクールさ両方を感じさせてくれるアレンジが印象的な一曲。「「V・A・C・A・T・I・O・N」は小西さんの曲で、彼が書く詞、曲のメロディラインは10年間歌っていて染み付いているので、すんなり入ってきました。一番苦戦したのが「夏の恋人」で、本当にいい曲ですが、歌が持つ透明感と切なさを歌で伝えることが難しかった。でも仕上がりは、自分にもまだこういう引き出しがあったんだ、こういう歌も歌えるんだという新しい発見があって、このアルバムの中でも、すごく気持ちがいい一曲です」と、名曲を発掘しながらも、ギャリア36年となるボーカリストとしての新しい面も気づかせてくれるこのシリーズを、楽しんで歌っている。

「”ロンバケ”のようにアルバムとしてしっかり存在感を放ち、かつリゾート感、夏感を、ジャケットも含めて感じられる作品を目指した」(野宮)

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「サマー・ガール」はどこかアンニュイな野宮のボーカルと、Smooth Aceの清涼感たっぷりのコーラスとが相まって、リゾート感を感じさせてくれる。「真夏の昼の夢」は、大滝詠一が1977年に発表したアルバム『ナイアガラ・カレンダー』に収録されていた作品。大滝といえば1981年に発表した、日本の音楽史に残る名盤『A LONG VACATION』が有名だが、このアルバムこそが、今回、野宮と坂口氏が目指している、夏をイメージさせる理想の一枚でもある。「ロンバケは81年の3月に発売されていますが、あの年はロンバケを聴いていたおかげで夏を長く感じました。夏が早く始まったイメージで、今回のアルバムもそんな存在になって欲しい」(坂口)と言うように、当時は「ウォークマン」の登場や、カーステレオの普及で音楽が持ち運びでき、どこでも楽しめるようになり、3月に発売されたロンバケは、一年中夏気分を味わせてくれる良質のポップスアルバムとして、幅広い層から圧倒的な支持を得た。「ロンバケのように、アルバムとしてしっかり存在感を放ち、かつリゾート感、夏感を感じさせるものが最近少ないと思いました。ジャケットも含めて、夏のアルバムという打ち出し方をしているものが減っている気がして。今回も“渋谷系”にはなくてはならない存在の、信藤三雄さんにデザインしていただきました。音とデザインを含めて、トータルで“渋谷系”です」(野宮)。

「七夕の夜、君に逢いたい」(1999年)は、作詞松本隆、作曲細野晴臣という豪華コンビが作り、chappie(覆面歌手)が歌った作品。「細野さんの1975年のアルバム『トロピカル・ダンディー』に収録されている「ハリケーン・ドロシー」とどちらにしようか迷いました。でも1999年に細野さんが作った「七夕~」を、1975年にティン・パン・アレイが演奏したらどうなるかをイメージして作ってみました」(坂口)。リズムマシーンやキーボードを当時のものにこだわり、“成熟した都会的なトロピカルサウンド”を作り上げ、そこに乗る、野宮の涼し気なボーカルが心地いい。

「夏サウンドというとビーチボーイズのイメージが強いので、コーラスとギターが欠かせない」(坂口)と、Smooth Aceの強力なコーラスと野宮の軽やかで、爽やか、そして艶やかなボーカルとが融合し、都会のオシャレな夏を感じさせてくれる一枚に仕上がっている。「海ではなく、都会にいてバカンス気分を味わえるというか、ちょっと涼しくなるというか、そんなアルバムだと思います。聴いていて気持ちがいいので、自分の作品ではありますが、いつも以上に家でもよく聴いています。これからの季節はもっと気持ちよく聴いていただけると思います」という本人の言葉通り、上質な時間が流れる事を約束してくれるアルバムだ。なおボーナストラックとしてCRAZY KEN BAND横山剣、GLIM SPANKEY松尾レミとのデュエットの、レアライヴ音源などが収録されている。

「野宮真貴、渋谷系を歌う」は、今回の「ヴァカンス渋谷系」に続いて、秋の「ホリディ渋谷系」の発売が予定されている。5月3日からビルボード大阪、東京、ブルーノート名古屋で行われたライヴツアーでは、「還暦までライヴをする」、そして「2020年の東京オリンピックの会場で歌う」と宣言した野宮。“渋谷系スタンダード化計画”の旅はまだまだ続きそうだ。

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<Profile>

「ピチカート・ファイヴ」3代目ヴォーカリストとして、90年代に一斉を風靡した「渋谷系」ムーブメントを国内外で巻き起こし、音楽・ファッションアイコンとなる。2010年に「AMPP認定メディカル・フィトテラピスト(植物療法士)」の資格を取得。 2016年にはデビュー35周年を迎え、音楽活動に加え、ファッションやヘルス&ビューティーのプロデュース、エッセイストとしてなど、多方面で活躍中。5月3日にアルバム『野宮真貴、ヴァカンス渋谷系を歌う。~Wonderful Summer~』を発売。

野宮真貴オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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