野宮真貴×渡辺満里奈 27年ぶりのレコーディングを、”美しく働く女性”の素顔を、大いに語る
”渋谷系スタンダード化計画”を掲げ、渋谷系の名曲を歌い続ける野宮真貴が、ニューアルバム『野宮真貴、ヴァカンス渋谷系を歌う。~Wonderful Summer~』を5月3日に発売する。アルバムコンセプトは「このアルバムを聴けば、都会でもヴァカンスのような素敵な時間が流れる」――夏を感じさせてくれる渋谷系の邦楽・洋楽の名曲をセレクト。小西康陽、大滝詠一、松本隆&細野晴臣、山下達郎らの名曲の数々を、軽やかに爽やかに、そして艶やかにカバー。中でも、小沢健二と小山田圭吾が「DOUBLE KNOCKOUT CORPORATION」名義で渡辺満里奈に提供した名曲「大好きなシャツ(1990旅行大作戦)」を、渡辺本人とデュエットしていて、注目を集めている。今年デビュー30周年を迎える渡辺は、今回27年ぶりのレコーディングで、野宮とは初デュエットだが、実は渡辺が1987年に発表したアルバム『CHRISTMAS TALE』の中で野宮がコーラスで参加していたり、野宮が在籍していたピチカート・ファイヴの1991年のアルバム『女性上位時代』の中で渡辺がコーラスで参加していたり、以前から”縁”がある二人だ。そんな二人の初の対談が実現。「大好きなシャツ」のレコーディング秘話、そして母であり妻であり、”美しく働く”女性という共通点がある二人の生活ぶりを聞いてみた。
「最初は歌うなんて絶対無理と思っていました」(渡辺)
――今回は野宮さんのニューアルバム『野宮真貴、ヴァカンス渋谷系を歌う。~Wonderful Summer~』に収録されている「大好きなシャツ」で、渡辺満里奈さんとデュエットしていますが、この曲をアルバムに入れようと思った時に、すぐに渡辺さんと歌おうと思ったのですか?
野宮 そうですね。やっていただけるかわかりませんでしたが、お声がけしてみようとプロデューサーと話をしました。
――渡辺さんは話が来た時は、どう思いましたか?
渡辺 最初は、レコーディングももう何十年もやっていませんでしたし、全然無理です、歌を歌うなんてとんでもないですという気持ちでした(笑)。今年デビュー30周年で、でもライヴとかも特に考えていませんでしたので、せっかく歌のお話をいただいて、いい節目でもあるので、頑張ってやらせていただこうと思いました。
――久々のレコーディングという事で、かなり練習はしたのでしょうか?
渡辺 レコーディングの日まであまり時間がなく、スタジオには入らずに、家で久しぶりに「大好きなシャツ」を聴いて、とりあえず声を出しておこうと思い、家族がいない時に家で大きな声で歌いました。練習という練習はそれくらいです(笑)。
――普段からご家族でカラオケには行ったりはしているんですか?
渡辺 カラオケには行きませんが、子供たちが歌う事が大好きなので、たまに家で「Wii U」のカラオケをやったり。
――時々自分の曲を聴いたりはしていたのですか?
渡辺 聴いていませんでした(笑)。幼稚園の謝恩会で「じゃあね」(おニャン子クラブ)を歌うくらいです(笑)。
――それもレアですね。
渡辺 他のお母さん達と「じゃあね」をやりましょうという話になって、そこで、いやいややめましょうよっていうのも、盛り上がらなくなってしまうので(笑)。
「満里奈さんは歌い方も声質も、当時と全然変わっていなくて驚きました」(野宮)
――実際レコーディングはどんな雰囲気だったのでしょうか?
渡辺 当日は緊張しすぎて、色々考えていたら朝から憂鬱になってしまいましたが、いざ歌い始めると楽しくて。
野宮 久しぶりだから、緊張しますよね。でも普通何十年も現場から離れていたら、あんなには歌えないと思いますが、全然ブランクを感じさせないボーカルで、声もイメージと同じく若々しくて。私もオリジナルを何回も聴いて、歌わせていただきましたが、満里奈さんは歌い方も声質も当時と全然変わっていなくて、驚きました。
渡辺 そうやって皆さんがスタジオで持ち上げてくれて、すごく気持ちよくさせてくれて、じゃあがんばっちゃおうかなと(笑)。
――スタジオでマイクに向かうのは何年ぶりだったんですか?
渡辺 「太陽と鼻歌」(1997年)以来だと思います。恥ずかしさもありましたし、野宮さんのボーカルは聴いていましたので、音程がずれていたらどうしよう、野宮さんの邪魔をしたらどうしようとか、色々考えてしまいましたが、歌ってみるとやっぱり素敵な曲ですし、すごく楽しかったです。
「歌の癖は変わらないと思った。当時の歌に寄せようとしている自分がいました」(渡辺)
――当時の事を思い出しましたか?
渡辺 当時の雰囲気、空気感みたいなものは、やっぱり思い出しました。それと歌ってみて、歌の癖みたいなものは変わらないんだなと思いました。当時の歌に寄せようとしている自分がいて(笑)。レコーディングでは2~3回しか歌っていないのですが、やっぱり体が覚えているというか、歌が染みついているんだなと改めて思いました。
――実際に歌ってみると、先程も出ましたが、ライヴをやってみたいという思いは出てきましたか?
渡辺 歌う事から離れすぎていて、衣装を着て歌うという事が、恥ずかしくてできないと思います(笑)。やればきっと面白いのだとは思いますが、そこに踏み切るまでの勇気が……。
野宮 オシャレなカフェとか似合いそうだから、そういう場所でカジュアルな感じで歌うのもいいかもしれませんね。
――踏み切るタイミングは、まさに今じゃないですか。
渡辺 今回のレコーディングは、最初は私には無理と思っていましたが、色々なタイミングが合い、久々に歌って楽しかったですし、気持ちよかったですが、ライヴとなると何をしていいのかわからない、そんな感じです。
――「大好きなシャツ」もそうですが、渡辺さんの作品は、錚々たるミュージシャンが手がけている名曲が多く、聴きたがっている人は多いと思います。
渡辺 ライヴ会場はたぶん身内で埋まるとは思いますが……(笑)。
野宮 ちょっと歌い込んだら、ライヴ全然大丈夫だと思う。音程がすごくいいので、あとは勘が戻れば。
――野宮さんも渡辺さんも、色あせない音楽を残しています。
野宮 すごい財産だと思います。
――名うてのミュージシャンが参加していて、音作りがしっかりしているので、アレンジも含めて今聴いても全く古くないんですよね。
渡辺 よくそう言っていただくのですが、当時は全然わかりませんでした。ただ、おニャン子の曲のような路線ではなくて、カレッジポップみたいなものをやりたいんだよねと、大人が話してるのを聞いて(笑)。デビュー当時の竹内まりやさんや須藤薫さんのような感じでいきたいというのは、よく聞かされていました。
――野宮さんが“渋谷系スタンダード化計画”と題して、渋谷系の名曲を次代に残そうという企画をやっているので、渡辺さんも錚々たるミュージシャンが渡辺さんのために書き下ろした名曲の数々を、次代に残すために、ライヴでも歌って欲しいです。
野宮 私は自分の曲も他の人の曲も歌っていますが、満里奈さんは全部自分の曲なので、絶対歌い継いでいった方がいいと思う。
――改めて、渡辺さんは今年デビュー30周年ですが、盛大に何かやる予定は?
渡辺 こそっとやりたいです。えっやってるの?という感じがいいです(笑)。
「野宮さんのような生き方に憧れています」(渡辺)
――野宮さんと渡辺さんは女性が憧れる女性という点が共通していると思いますが、子育てをしながら“美しく働く”女性というイメージがあります。
渡辺 結婚した時に、それまでのように働かなくてもいいかな、ちょっと休もうかなと思っていた時期があって。でもいざ出産すると、子供がかわいすぎて仕事ができないなと思うようになって(笑)。それでも仕事を辞めるという選択肢は全然なくて、自分のペースでやっていければいいと思っていたし、そういう時期を経て、もうちょっと仕事がしたいなと思えるようになって、今はバランスがすごくいいと思います。
――オーガニックの子供服のブランドも立ち上げていますが、やはりお子さんが生まれて、自分ができること、やりたいことの幅が広がってきましたか?
渡辺 それまでとは違った全く違う世界が目の前に広がり、こういうのがあったらいいなとか、そういう思いが強くでるようになりました。でも野宮さんの本「赤い口紅があればいい」に書かれているように、美しく生きるという事にもすごく憧れます。私は今は子育てに集中していますが、自分の10年後を考えた時に、野宮さんのような生き方に憧れますし、美を保つ方法も気になります。10年後の自分は、野宮さんのようにきれいで、スタイルよくいられるかなって。
野宮 満里奈さん、全然変わらないですよ。
渡辺 そんな事ないのですが、今日の野宮さんのように、ピンクをかわいく着こなしたり、そういう華やかさとか、美しさを忘れないで生活していきたいです。
「満里奈さんは自分の意見がしっかりあって、子育ても含め全ての事を自然体で、無理なくやっている」(野宮)
――野宮さんに渡辺さんは、どういう女性に映っていますか?
野宮 ちゃんと自分の意見があって、しっかりした方で、子育てもきっとすごくちゃんとやっていらっしゃると思っています。でもそれを自然体で無理なくやっている感じがします。レコーディングで久しぶりにお会いして、プライベートの話とか、子供の話をしました。色々と子育ての本も出していて、教育熱心で、尊敬しています。私は活動が本当に忙しい時に子供産んで、ピチカート・ファイヴの世界ツアーで1か月間家を空けたり、いない事も多かった。母や旦那の協力で乗り切りましたが、他のお母さんと比べると育児に割く時間は限られていたと思います。でもやっぱり子供はかわいいですし、全力で愛情は注いできたつもりです。母親になると、どうしても子供中心の生活になって、自分が脇役のようになってしまいがちですが、母親にも仕事があり、自分の人生というものもあります。私の場合は自分が好きな仕事を楽しそうに、なおかつ一生懸命やっている姿を見せられれば、それが子供の教育にも良い影響があるはずって思っていました。ですから育児に割く時間がないことを過度に引け目に思わずに、自分の人生も大切にしながら、子育ても楽しむという感じでしたね。もちろん周囲のサポートがあったことには感謝しています。あと何と言っても子ども自身が家の状況を理解する必要がありますから、意外と自立心が芽生える。もちろん寂しい思いをさせたとも思いますが、愛情をしっかり伝えていれば、子供はたくましく育つものです。親として子供にできる事は、この子には何が適正なのかを見極めるサポートをする事で、彼は小さい時から勉強が好きで、私と全然似ていなくて(笑)。可能性を色々と提示してあげる事が大切なのかもしれませんね。でも教育はもっぱら旦那の担当で、私がやっていたのはお弁当作りです。
渡辺 それが一番大変だと思います。
野宮 私は若い時から音楽しかやっていなかったので、勉強は苦手で(笑)、お弁当やご飯を作る事くらいしかできませんでした。6年間毎日お弁当を作って、解放された時は嬉しかったですけど、今となってはちょっと寂しくもありますね。
渡辺 昔、台湾本とかスイーツ本とかを一緒に作った出版社のスタッフが「これからはお弁当が注目を集めるから、お弁当本作りましょう」と言っていて、でもうちの子供達はまだ給食なので、まだピンとこなくて(笑)。
――渡辺さんのお子さんはまだ小さいですが、教育に関しても熱心だとお伺いしました
渡辺 普通に、勉強しなさいとは言います。なんでも好きなことをやっていいよという感じではないですね。選択肢を用意していても、それを選択できる能力がなければ話にならないので、まずは勉強をして、好きな事をやらせるのはそれからという感じです。
――渡辺さんは小さい時、親から勉強しなさいと言われていたほうですか?
渡辺 言われたことがなかったですし、だから今自分が子供達に言っているのかもしれません。もっとこういう風にしてくれればよかったのにとか、そういう思いがどこかにあったり、こういう学校に行かせてくれればよかったのにとか、色々思うところがあるので、子供には自分が経験していないけれど、でもいいと思う事をやってあげたいと思います。
――自分の人生も大切にしていきたいというお話も先ほど出ましたが、やはり忙しい毎日の中でも自分の時間というものをきちんと確保し、楽しんでいるのでしょうか?
野宮 もちろん自分の時間はすごく大切だと思うし、ないと息が詰まってしまうと思います。私の場合、幸いなことに15歳の時からやっているこの仕事が、自分がやりたい事でもあり、子育ても周りの協力を仰ぎながらやってきました。そういう環境にも恵まれていましたが、いいバランスでやってこれていると思います。
――渡辺さんは旦那さんとの二人の時間を大切にしていますか?
渡辺 そうですね。夫は本当に友達が少なくて(笑)。家が一番好きなので、仕事が終わったらすぐに帰ってくるんです。休みの日もずっと家にいるんですよ。だから必然的に2人の時間が多くなってきます。
――では家をいかに居心地いい空間にするかに気を遣っているのですか?
渡辺 いえ、あまり頑張っていないです。私掃除が苦手で(笑)。
野宮 私も苦手です(笑)。
<Profile>野宮真貴/「ピチカート・ファイヴ」3代目ヴォーカリストとして、90年代に一斉を風靡した「渋谷系」ムーブメントを国内外で巻き起こし、音楽・ファッションアイコンとなる。2010年に「AMPP認定メディカル・フィトテラピスト(植物療法士)」の資格を取得。
2016年はデビュー35周年を迎え、音楽活動に加え、ファッションやヘルス&ビューティーのプロデュース、エッセイストとしてなど、多方面で活躍中。5月3日にアルバム『野宮真貴、ヴァカンス渋谷系を歌う。~Wonderful Summer~』を発売し、同日からライブツアーがビルボードライブ大阪を皮切りに、4日名古屋ブルーノート、6日ビルボードライブ東京で開催される。
渡辺満里奈/1970年11月18日生まれ、東京都出身。1986年デビュー<おニャン子クラブ会員 No.36>。清潔感あふれる明るいキャラクターでテレビ・CM・雑誌などに出演。オリジナルブランドをプロデュースするなどさまざまなジャンルで活躍。絵本の読み聞かせコンサートやDVDなどにも出演。ナチュラルなライフスタイルを綴る書籍の評価も高い。2005年、名倉潤氏と結婚。一男一女の母。今年デビュー30周年を迎える。