石川さゆり 半生を振り返るセッションで見せた歌への愛、50年歌い続けてきたシンガーの矜持
石川さゆりが『Sound Inn S』(BS-TBS)の1時間SPに登場。“日本を代表する女性シンガー”の矜持を感じさせてくれるパフォーマンスに注目
2023年に歌手デビュー50周年を迎えた石川さゆり。昭和、平成、令和と変わりゆく時代の中で自身も進化を続け、時代に寄り添いながら様々な歌を届けてきた日本を代表する女性ボーカリストだ。そんな石川が、大編成のバンドで生演奏にこだわり、上質な音楽を作り続けるライヴ番組『Sound Inn S』(BS-TBS)の1時間スペシャルに登場(12月22日(日)19:00~)。キャリアを振り返るセッションで、名曲の数々をこの日限りのスペシャルアレンジで披露した。50年歌い続けてきたシンガーの矜持を感じさせてくれる感動の1時間だ。
名曲「津軽海峡・冬景色」を坂本昌之のアレンジで披露
石川といえばなんといっても1977年の発売以来、まさに時代を超え愛されてきたスタンダードナンバー「津軽海峡・冬景色」だ。この日は坂本昌之のアレンジで披露。携帯電話もない時代、聴き手の想像力をくすぐる歌詞とメロディが昭和の歌謡曲、演歌だ。この曲も旅人の目に映る風景と心情を想像させてくれるが、ストリングス、ホーンセクション、ハープを擁するバンドの音が重なると、せつない旅情が薫ってくる。坂本は誰もが知るこの曲の世界観をさらに深いものにすべく、クライマックスのサビに向かう高揚感を、さらに掻き立てるアレンジを作り上げ、歌によりドラマティックな光を当てている。
石川は1973年「かくれんぼ」で歌手デビュー。15枚目のシングル「津軽海峡・冬景色」がヒットするまでの4年間は、大きなヒットに恵まれなかった。「津軽海峡・冬景色」も1976年に発表したアルバム『365日恋もよう』の中の一曲だった。この曲を劇場公演のラストで歌うと評判となり、シングル化を望む声が大きくなり、1977年1月1日にシングルカットされた。石川が19歳の時だった。この曲でそれまでの景色が一変したという石川は「盆と正月が一緒に来るってこういうことなんだろうなと思った」と当時を懐かしんでいた。2025年は「昭和100年」。先日、令和の現在もカラオケで愛されている昭和の名曲を「昭和カラオケランキング」(JOYSOUND/エクシング)として発表され、「津軽海峡・冬景色」は総合3位にランクインしている。
デビュー曲「かくれんぼ」は、40周年の時に作詞家・山上路夫に“今の石川さゆりに合う歌詞をお願いして”加えてもらった、特別バージョンを披露
この日はデビュー曲「かくれんぼ」も船山基紀のアレンジで披露した。郷愁感を感じるメロディを船山がダイナミックかつ優しさ溢れるアレンジで彩り、大編成のバンドが奏でる豊かな音が石川の歌を真っすぐ届ける。この日は石川が40周年を迎えた際、同曲を作詞した山上路夫さんに「無理を言って、今の石川さゆりに合う歌詞をお願いしました」という特別バージョンを披露。2番の歌詞に「決して派手な歌の道を歩いてきたわけではないですが、一歩ずつよく頑張ったねと山上先生に言っていただけているような」言葉が散りばめられ、ひと言ひと言を大切そうに、慈しむように歌っていた。
石川は1981年、23歳の時に結婚しその後も次々とヒット曲を生み出している。当時、女性歌手は結婚すると引退するケースが多かったが、石川は「歌が大好きなのに、結婚したらなぜ引退しなければいけないのか」と疑問に思っていたという。だから歌手としても、妻としても母としても「手を抜きたくない」と「歌を自分の中心に据えた人生」を選び、歌い続けてきた。
「天城越え」で手に入れた、新たな表現方法
「津軽海峡・冬景色」と並んで石川の代名詞になっている「天城越え」も坂本昌之のアレンジで披露した。ストリングスとホーンを含むバンドが見事なアンサンブルを生み、そこに鼓と大皮、和楽器の響きが加わり、女性の情念を描いた世界観を、色濃く浮かび上がらせる。繊細さと迫力を感じさせてくれる石川の歌が“ドラマ”を生み出す。石川はこの曲でまた違う歌の世界を手に入れたと語る。「この曲をいただいた時、作詞家の吉岡治先生にこんな激しい女性の歌、私には歌えません、どう表現していいかわかりませんと言いました。でも先生は『好きに歌っていいから』と。戸惑いながらスタジオに入ったことを覚えています」と、当時のエピソードを教えてくれた。そして「歌というのはその時の自分の感情で歌うという歌もあるけれど、演じてみるという表現もあるんだ、私なりに『天城越え』の女を演じてみよう」という思いに至り、名曲が生まれた。
様々なアーティストがカバーしている「ウイスキーが、お好きでしょ」(1991年)も石川を語る上では欠かせない一曲だ。ウイスキーのCMソングとしてSAYURI名義で発売され、当初はそこまで注目を集めることはなかったが、2000年代に入りリバイバルヒット。番組では石川がこの曲を歌っている91年当時の貴重映像を観ることができる。
歌を愛し、様々な歌を歌い、進化を続けてきた50年
歌手・石川さゆりの50年は、その時の風を感じ、進化を続けてきた“生き生きとした”50年だ。カバーアルバム『二十世紀の名曲たち』シリーズや、日本の伝統を歌い継ぐことをコンセプトにしたアルバム『童~Warashi~』『民~Tami~』『粋~Iki~』など、ジャンルを超えて様々な歌と向き合ってきた。その極めつけが、2012年からスタートした「いい出会いがあれば、いい歌が生まれる」という思いを形にした、様々なアーティストとコラボした『X -Cross-』シリーズだ。それまで猪俣公章や吉岡治、阿久悠、三木たかし等昭和の大作家が手がける楽曲を歌ってきた石川だが、作家陣が次々と鬼籍に入り「これから何を歌っていいのか」途方に暮れた。
そんな時吉岡治夫人から「自分で出会いを見つけて、自分で歌を作って歌っていく時期なのでは」と、かけられた言葉が心に突き刺さったという。『X -Cross-』シリーズは、それぞれの分野で強い世界観を持つ、あらゆる世代のアーティストと交わることで新しい歌を生み出し、現在までに4作続いている。コラボする際アーティストに石川からは「石川さゆりに寄せて作ろうとしないでください」とリクエストしている。
「名うての泥棒猫」では水曜日のカンパネラ・詩羽とデュエット
椎名林檎プロデュースの「名うての泥棒猫」(2014年)も、石川が椎名に「不条理な世界観を」とリクエストし完成した楽曲だ。この日はオリジナルのアレンジも手がけている斎藤ネコのアレンジで、石川が今一番注目しているアーティスト、水曜日のカンパネラの詩羽とデュエット。二人はユニゾン、ハモリで感性をぶつけ合い、融合させ、ダイナミックなアレンジがさらに“勢い”と妖艶さを増幅させる。ちなみに斎藤は先述した「ウイスキーが、お好きでしょ」を始め石川の数々の楽曲のアレンジを手がけており、この日披露した最新曲「とこしえの旅」(2024年)のアレンジも作り上げた。
最新曲「とこしえの旅」は、能登半島地震の被災者に寄り添う温かな曲
「とこしえの旅」は作詞松井五郎、作曲加藤登紀子という豪華な作家陣が手がけた、旅情を感じさせてくれる、淋しさと切なさに寄り添う温かな楽曲だ。石川はこの曲に能登半島地震で被災した人々への思いも込めた。去年12月、クリスマスディナーショーも能登で開催し、その後震災に見舞われ、言葉を失ったという。大ヒット曲「能登半島」(1977)年を歌い、何度も能登を訪れたこともあり、コンサートでの募金や支援活動も積極的に行なっている。「誰も一人でなんて生きていない。寄り添えたら」と「とこしえの旅」も能登の人々に思いを馳せ、歌っている。そんな石川の真摯な思い汲んだこの日のアレンジも優しさに溢れ、心温まる歌が感動を運んでくる。
映画『PERFECT DAYS』の中で披露した「朝日楼」は、まさに“石川さゆり劇場”
「とこしえの旅」のカップリング曲の「朝日楼」も披露した。「カンヌ国際映画祭」で役所広司が主演男優賞を受賞した映画『PERFECT DAYS』(ヴィム・ヴェンダース監督)の劇中で、石川演じる居酒屋の女将が歌っている楽曲だ。ギターの音色と弦とピアノ、ウッドベースの物悲しい音色に途中から管も加わり、石川の圧巻の表現力の歌と重なり、物語が完成しその世界に引き込まれる。まさに石川さゆり劇場だ。
「その時々で吹いている風を感じる感覚、何をやりたいというよりもその時何を感じるのかということを大事にしたい」
全てのパフォーマンスを終え、50年歌い続けてきて“その先”を聞かれた石川は「その時々で吹いている風を感じる感覚、何をやりたいというよりもその時何を感じるのかということを大事にしたい」と力強く語っていた。どんなにキャリアを積んでも、歌を心から愛する稀代のシンガーは、また新しい風をキャッチして、歌うべき歌を歌い人々の心に寄り添っていく。
石川さゆりのパフォーマンスが楽しめる『Sound Inn S』は、12月22 日(日)BS-TBS(19時~)で放送される。またTVerでは未公開部分を追加した特別バージョンが見逃し配信される【2024/12/23(月)12:00~2025/01/18(土)18:29】。