大相撲の意義が刻まれた八角理事長の協会挨拶 異例の無観客場所への思い
無観客での開催に踏み切った大相撲春場所。昨日、注目の初日を迎えた。客席には座布団もなく、想像以上の静けさが会場を包んでいた。NHKのアナウンサーは、普段の取組の進行に加えて、会場の様子や検温・アルコール消毒の徹底といった協会の対応についても教えてくれる。淡々と進む取組。異例の事態ゆえ、いつも以上に多くの人が中継を見守ったのではないだろうか。
個人的にも注目していた「音」。当然だが、普段よりも土俵上での音が鮮明に聞こえる。呼出しの呼び上げや拍子木の乾いた音はもちろん、行司の「時間です」「まだまだ」という声や、横綱土俵入りの際の「しーっ」という声(警蹕)。力士たちがまわしをたたく音や、足が土俵の砂を擦る音、取組中の息遣いも、いつも以上に大きく響く。最後の弓取り式においては、弓が空を切る音さえも聞こえてきて驚いた。
また、多くのファンにとって特に印象に残ったのは、八角理事長からの協会挨拶ではないだろうか。通常であれば、十両最後の三番前に行われる協会挨拶。今回は、幕内と横綱土俵入りが終わり、賜杯・優勝旗の返還式の直後に行われた。普段は三役力士が理事長とともに土俵に上がるが、土俵に上がったのは八角理事長のみ。そして、幕内力士の全員が土俵下を囲んだ。その光景は荘厳で、大相撲が神事であることを改めて認識させるものだった。
マイクに向かった八角理事長は、昨今の状況を鑑み、無観客での開催を決定したことを改めて伝えた上で、次のように語った。
「古くから、四股は邪悪なものを地面の中に押し込め、横綱土俵入りは邪気を払い、五穀豊穣を祈るものといわれてきました。力士の体は健康の象徴ともいわれます。床山が髪を結い、呼出しが木を打ち、行事が土俵を裁いて、力士が四股を踏む。こういった大相撲のもつ力が、人々に勇気や感動を届け、世の中に平安を呼び戻すことができるよう、15日間全力で努力していく所存です」
本来であれば中止したほうがよかったのではないかという意見も、もちろんある。けれど私は、この心に響く八角理事長の言葉をまっすぐに受け止め、本場所の開催を素直に喜び、国技が国技たるゆえんや神事としての大相撲の意義を、改めて胸に刻もうと思った。
力士はもちろん、行司や呼出し、親方衆など、大相撲に関わる全ての人が、戸惑いながらも全力で戦っている。全国の小中学校の休校や、企業における在宅ワークの広がりなどもあり、これまで以上に多くの人や子どもたちが、大相撲の中継を見てくれていると願いたい。ピンチをチャンスと捉え、春場所が盛り上がりますように。
※八角理事長による協会挨拶全文を読まれたい方は、こちらをご参照ください。