ベビーパウダーが発がん性のために販売中止?その背景とは?
昨日(2022年8月12日)、『がん性訴訟のベビーパウダー、23年に世界中で販売停止 J&J』という報道がありました[1]。
このニュースの発端は、すこし前にさかのぼります。
2020年6月に、J&J社のベビーパウダーが卵巣がんの原因になった可能性があるとして、賠償金2200億円の支払いが命じられたという事例があり、その時期にJ&J社は、タルクを原料としたベビーパウダーを米国とカナダで販売中止したのです[2]。
さらに2020年10月には、『米ベビーパウダー訴訟で和解 J&J、百億円超支払い』という報道ヘ繋がりました[3]。
そして今回、世界でタルクを原料としたベビーパウダーの販売が2023年には中止になることにつながったということです。
この一連の報道をみて、『ベビーパウダーは危ないのかな』『使ってしまった、大丈夫だろうか』と心配される方もいらっしゃるかもしれないと思い、簡単に経緯を解説してみたいと思います。
ベビーパウダーの原材料のひとつ、タルクとは?
タルクとは滑石ともいう鉱物の一種です。
滑石は鉱物のなかでも爪よりもやわらかく、チョークやベビーパウダーなどの原料になります。
そして、タルクに不純物としてアスベストが含まれる場合があります。
そのアスベストが中皮腫という、たとえば卵巣がんなどのリスクになるのではないかという裁判がおこったのです。
日本で使われている『ベビーパウダー』は、1906年に『シッカロール』という商品名で販売がはじまりました。しかし、現在の日本におけるベビーパウダーは、タルクを使用した製品は少なくなっています。そして、コーンスターチというトウモロコシでん粉を原材料として使われる製品が多くなりました。
すなわち、多くのベビーパウダーは、今回の『ベビーパウダー訴訟』とは関係のない物質が原材料ということです。
しかし、一部の製品にはまだタルクが含有されていますので、ご心配な方は、念のため原材料を確認したほうがいいでしょう。
ただし、最近おこなわれた検討では市販のタルクを原料とした製品にアスベストはほぼ含まれていないことがわかっています[4]。
また最近、米国における25万人以上の女性に関するデータからの研究報告もあり、ベビーパウダーを長期・頻回使用しても、卵巣がんの発症リスクに関連しなかったという結果となっています[5]。
これらの結果から、現状では、過度な心配は不要と思われます。
おむつかぶれ予防には別の方法がある
ベビーパウダーは、昔、おむつかぶれの予防によく使用されていました。
しかし、最近はほぼ使われなくなっており、むしろベビーパウダーはおむつかぶれを発症させやすくなるかもという報告すらあります[6]。
そして、子どものおむつ皮膚炎の発症予防においても、タルクを原料としたベビーパウダーよりも亜鉛華軟膏(酸化亜鉛という成分がふくまれた、泥状の軟膏)のほうが予防効果に優れているという研究結果もあります[7]。
ですので、多くの小児科医は、おむつかぶれの発症予防には、亜鉛華軟膏やワセリンを使用しているのではないかと思われます。
さて今回は、タルクを原料としたベビーパウダーが販売中止になった背景に関して簡単にお話ししてみました。
もちろん、あえてタルクを原料としたベビーパウダーを使用する必要性はないでしょうけれども、これまで使用したことがあるからと過度に心配する必要性はないでしょう。
また、ベビーパウダーが使われる事が多かった子どものスキンケアに関しても別の方法が使用されるようになっているということですね。
報道を耳にして心配されている方もいらっしゃるかもしれませんが、この記事が、なにかのお役に立つことを願っています。
【参考文献・資料】
[1]ベビーパウダーの原料変更 発がん性訴訟受け食品由来に 米J&J
2022年8月13日アクセス
[2] 米J&Jに2200億円の賠償命令 ベビーパウダー発がん性問題
2022年8月13日アクセス
2022年8月13日アクセス
[4]Inhal Toxicol 2017;29:443-56.
[5]Jama 2020; 323:49-59.
[6]BMC Dermatol 2019; 19:7.
[7]J Med Assoc Thai 2016; 99 Suppl 8:S1-s6.