レスリング、五輪除外の本当の理由
国際オリンピック委員会(IOC)よ、ふざけるな、である。2020年夏季五輪の実施競技から、日本の「お家芸」のレスリングが外れる公算が大きくなった。なぜ、こんな理不尽な決定が成されたのか。
13日。渋谷・岸記念体育会館で、日本レスリング協会の緊急会見が開かれた。前日のIOC理事会(スイス・ローザンヌ)で、昨夏のロンドン五輪で実施した26競技のうち、レスリングを「中核競技」から除外することが決まった。昨夜そのニュースを知って、国際レスリング連盟(FILA)副会長を務める日本レスリング協会の福田富昭会長は「非常に驚いた」と憔悴した顔で言う。「どういう事情、どういう経緯で決まったのかは、分からない。IOCからの明確な説明もない。どう手を打ったらいいのか、今のところ分からない」
おそらく、と前置きして、放映権料、五輪の観客数、人気度、競技人口、選手の男女比率ではないか、と言葉を足す。「しかし、(残った)25の競技団体の中には、レスリングより悪いところはたくさんある。IOCの考え方は、我々のそれと隔たりがある。何を考えているのか、非常に読めない」
はっきりしているのは、これまで特に五輪残留にむけたロビー活動をしてこなかったことである。レスリングは古代五輪から行われてきた競技。近代五輪として最初に開催された1896年アテネ大会(計8競技)から続く伝統競技でもある。「五輪の根幹のスポーツであるという安心感があった。我々の競技が外れれば、五輪が変わってしまうのではないかというくらいの気持ちもあった」と、福田会長は顔をゆがめた。
レスリングとは対象的に、除外有力候補といわれてきた近代五種、テコンドーなどは残留に向けて精力的なロビー活動をしてきた。しかも国際近代五種連合の副会長であるサマランチ・ジュニアIOC理事(スペイン)も、世界テコンドー連盟の倫理委員長を務めるカルシュミットIOC理事(グアテマラ)も、当然ながら、IOC理事会には出席していた。
除外競技を決定する会議メンバーの中に関係者がいるか、いないかの差はとてつもなく大きい。福田会長は「IOCは不可解。非常に分かりにくい組織」と本音を漏らす。IOC委員にはレスリング関係者が2人いるが、理事会メンバーにはゼロ。「確かにレスリングはIOCの中では非常に弱い位置にあると思います。(近代五種やテコンドーの)彼らは裏で必死になって動いていたと思う。我々は理事同士のコミュニケーションや食事には入れず、その活動や情報はつかめていなかった」。つまり、簡単にいえば、「危機感不足」と「国際政治力不足」が五輪除外の窮地を招いたことになる。
あえて他の除外される理由を探せば、階級の多さ(男子がフリー、グレコ各7、女子は4)と男女比のアンバランスさか。過去、グレコの存続が問題になったことはあったが、それもフリー、グレコの階級数を減らすことで解決されたとみられていた。またレスリング協会関係者によると、イランなどのイスラム圏では肌や体の線を露出できないため、女子の選手も観客もいないことが、マイナスイメージをIOCに与えていたという。
問題はこれから、五輪生き残りをかけて、どういった活動をしていくのか、である。週末にはFILAの理事会(タイ・プーケット)が予定されている。そこで今回の除外の分析、対策、ロビー戦略を検討することになる。
まだ五輪除外が決定したわけではなく、5月のIOC理事会でプラス1競技に戻る可能性もゼロではない。ただ現状では極めて厳しい。新規・復活採用候補の野球・ソフトボール、空手、武術などの7競技と1枠を争う格好となるが、既にその競技は激しいロビー活動をやっている。
「完全に出遅れている」と福田会長は危機感を募らせる。「(五輪残留は)半々よりきついのではないか。相当なエネルギーを使わないと巻き返しは大変だと思う」。
レスリングはオリンピックがすべての競技といっていい。選手は五輪を目標として厳しい鍛練を積み、レスリング協会は五輪でメダルを量産するから莫大な強化費を受け取ってきた。もし五輪競技から外れると、大幅な活動縮小を余儀なくされることになる。
【「スポーツ屋台村」(五輪&ラグビー)より】