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対戦相手の凋落ぶりばかりが目立ったホームでの初戦(ワールドカップ・アジア最終予選 日本7-0中国)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
試合が行われた埼玉スタジアム2002には多くの中国人サポーターが詰めかけた。

 9月4日、2026FIFAワールドカップ・アジア最終予選がスタート。ホームで初戦を迎えた日本代表は、埼玉スタジアム2002に中国代表を迎えた。

 試合前のNHKのニュースは、中国を「格下」と表現をしていた。公共放送らしからぬ、いささかリスペクトに欠けた表現には違和感を覚えたものの、両国との間に明確な実力差があるのは事実である。

 最新のFIFAランキングは、日本18位で中国87位。過去の対戦成績は、日本の15勝8分け7敗。この試合のスターティングイレブンは、日本が全員欧州クラブに所属しているのに対し、中国はベンチも含めた全員が国内クラブの所属である。

 実際、7-0(前半2-0)という圧倒的なスコアで、日本が勝利した。さっそく試合の模様を写真で振り返ることにしたい。

選手入場前に披露された500機のドローンによる演出。ワールドカップ出場を懸けた戦いは来年6月まで続く。
選手入場前に披露された500機のドローンによる演出。ワールドカップ出場を懸けた戦いは来年6月まで続く。

初戦で対戦する中国は、2次予選を韓国に次いで2位通過。イングランドやブラジルからの帰化選手もいる。
初戦で対戦する中国は、2次予選を韓国に次いで2位通過。イングランドやブラジルからの帰化選手もいる。

スタメンは前列右から、堂安、南野、守田、三笘、久保。後列右から、遠藤、板倉、谷口、町田、鈴木、上田。
スタメンは前列右から、堂安、南野、守田、三笘、久保。後列右から、遠藤、板倉、谷口、町田、鈴木、上田。

審判の無線機器のトラブルでキックオフが6分遅れる。その間、両チームはボールを回して集中力を維持した。
審判の無線機器のトラブルでキックオフが6分遅れる。その間、両チームはボールを回して集中力を維持した。

試合が始まると、すぐさま日本が主導権を握る。35歳のベテランGK、ワン・ダーレイも奮闘を見せるが──。
試合が始まると、すぐさま日本が主導権を握る。35歳のベテランGK、ワン・ダーレイも奮闘を見せるが──。

12分、日本の先制点を決めたのは、キャプテンの遠藤航。久保建英からのCKに、高い打点から頭で合わせる。
12分、日本の先制点を決めたのは、キャプテンの遠藤航。久保建英からのCKに、高い打点から頭で合わせる。

前線で存在感を示していた上田綺世。しかし相手のタイトなマークに難儀し、シュートゼロで79分に退いた。
前線で存在感を示していた上田綺世。しかし相手のタイトなマークに難儀し、シュートゼロで79分に退いた。

11分に惜しいヘディングシュートを放った堂安律。その後もゴールを狙うも、相手のブロックに阻まれる。
11分に惜しいヘディングシュートを放った堂安律。その後もゴールを狙うも、相手のブロックに阻まれる。

45+2分、日本は右サイドで揺さぶりをかけて、堂安がクロスを供給。三笘薫が頭で決めて追加点を挙げる。
45+2分、日本は右サイドで揺さぶりをかけて、堂安がクロスを供給。三笘薫が頭で決めて追加点を挙げる。

前半は日本の2点リードで終了。初戦の難しさを感じさせない日本の躍動ぶりに、埼スタは拍手で包まれた。
前半は日本の2点リードで終了。初戦の難しさを感じさせない日本の躍動ぶりに、埼スタは拍手で包まれた。

前半はシュート1本に終わった中国。相手との実力差からか、後半は最終ラインを4枚から5枚に増やす。
前半はシュート1本に終わった中国。相手との実力差からか、後半は最終ラインを4枚から5枚に増やす。

しかし日本の勢いは止まらない。52分と58分には南野拓実が自ら持ち込んで連続ゴール。一気に引き離す。
しかし日本の勢いは止まらない。52分と58分には南野拓実が自ら持ち込んで連続ゴール。一気に引き離す。

63分、三笘と堂安を下げて伊東純也と前田大然を投入。77分、伊東が代表復帰を自ら祝うゴールを決める。
63分、三笘と堂安を下げて伊東純也と前田大然を投入。77分、伊東が代表復帰を自ら祝うゴールを決める。

さらに87分、伊東が右からクロスを放つと、ギアを上げた前田がヘディングで決める。中国は戦意喪失状態。
さらに87分、伊東が右からクロスを放つと、ギアを上げた前田がヘディングで決める。中国は戦意喪失状態。

最後は90+5分、久保が左足で叩き込んで7点目。VARチェックののちにゴールが確定し、終了のホイッスル。
最後は90+5分、久保が左足で叩き込んで7点目。VARチェックののちにゴールが確定し、終了のホイッスル。

試合後、チームメイトとハイタッチする鈴木彩艶。結局、中国のシュートは1本に終わり、見せ場はなかった。
試合後、チームメイトとハイタッチする鈴木彩艶。結局、中国のシュートは1本に終わり、見せ場はなかった。

サポーターに挨拶する中国の選手たち。絶望的な試合内容とスコアにもかかわらず、温かい拍手が送られた。
サポーターに挨拶する中国の選手たち。絶望的な試合内容とスコアにもかかわらず、温かい拍手が送られた。

 試合前の日本が懸念していたのは、相手の中国に対してではなく、アジア最終予選の初戦が「鬼門」となっていたことだ(2022年大会はオマーンに0-1、18年大会はシンガポールに0-0)。しかし今大会は、まったくの杞憂に終わった。

 3つのグループに、6カ国ずつが組み込まれたアジア最終予選。この日は9試合が行われたが、カタールvsUAE(1-3)を除き、いずれも1-0とか1-1とか0-0のロースコアに終わった。そんな中、7-0というスコアは、異様なまでに際立って映る。

 この日、FIFAランキング23位の韓国は、同96位のパレスチナにホームでスコアレスドローを喫した。「格上」や「格下」の理屈が通用しないのが、ワールドカップ予選の難しさであり、フットボールの奥深さ。とりわけ最終予選の初戦には、こうした番狂わせが起こりやすい。

 ところが今回の中国は、相手の出鼻を挫こうとする戦略もなければ、覇気さえも感じられず、ただただ絶望的なまでに弱かった。今年1月のアジアカップでは、1勝どころか1ゴールも挙げることもできず、グループステージで敗退しているが、状況はさらに悪くなっているように感じる。

 2004年のアジアカップ決勝では、日本を相手に記憶に残る死闘を演じた中国。あれから20年が経過し、一時は国内リーグでの「爆買い」や国策レベルでの代表強化が行われたものの、それらは果たして何を残したのだろうか。そんなことさえ考えてしまう、中国の凋落ぶりであった。

 いずれにせよ、この試合結果をもって日本を絶賛するのは、ほどほどにしておいたほうがよい。真価が問われるのは、次節の9月10日。オーストラリアを1-0で破った、バーレーンとのアウェイ戦である。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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