Yahoo!ニュース

「高望みはしません。年収500万円くらいの普通の男でいいです」という考えが、もう「普通じゃない」件

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

「普通の男」の定義が「普通じゃない」

定期的に話題になる「女性が思う結婚相手の条件」。過去にもいろいろなバリエ―ションがあったが、昨年末にテレビの某情報番組で紹介された「普通の男」の定義は、その時期大いに物議を醸した。

学歴は大卒(日大・東洋大・駒沢大・専修大)以上。ジム通いをしていて、都内在住の場合なら年収500万円以上。清潔感が大事で「鼻毛が出ていない」「ヒゲ・爪が整っている」「美容室は月1~2回」「化粧水をつけて就寝」など実に細かい。これが全部そろっているのが「普通の男」なのだそうだ。

いやいや、もはや「普通じゃない」とツッコミどころ満載なのだが、これに加えて「見た目は、星野源“で”いい」ときたものだから、「“で”いい、とは何様だ」と、星野源ファンの同性の女性からも非難の声があがった。

写真:アフロ

繰り返すが、これは「理想の男」の話ではない。あくまで自分達はある程度希望を落として妥協した「普通の男」と考えているところが、なんというか、滑稽でもあり悲劇の始まりでもある。

ところで、さらっと書いてある「普通の男の年収は500万円以上」という条件だが、果たしてこれは「普通」と呼べるのだろうか?

年収500万円は「普通じゃない」

女性のための転職サイト「女の転職type」による2021年6月実施の「第28回 教えて!今どきの結婚観」アンケート調査によれば、結婚相手に求める最低年収平均額は526万円。500万以上と回答した割合は6割弱にも達した。これを見る限り、彼女たちにとって500万円は普通なのだろう。

しかし、結論からいえば、「500万円以上の年収」は世の男性の普通でも平均でもない。少なくとも、初婚がもっとも多い25~34歳のアラサー年代において、年収500万円以上を稼ぐ未婚男性など少数派である。全国規模でいえば、当該年代の未婚男性のわずか11%。東京都に限定してもたったの22%しかいない。普通どころか上位2割に相当する。

つまり、都内の婚活女性が「年収500万円以上」という条件を提示しただけで、上位22%以下の男性は足切りされてしまうことになる。が、裏を返せば、6割の婚活女性が500万円以上の男性を希望したところで、マッチングされるのは東京で2割、全国では1割しかいないことになる。

50代まで拡大しても「普通じゃない」

アラサー年代だけではなく、拡大して20-50代でみてみても、分布的には大差はない。全体でみても15%。各年代別にみても、20代2%、30代5%、40代5%、50代3%しかいない。それよりなにより、300万未満の未婚男性が全体の半分を占めているのが現実なのだ。

これを「未婚男性は金がないから結婚できないのだ」と理屈付けしたところで、500万円以上の未婚男性の数が増えるわけではない。その相手になれるのは女性にとっても1割から2割しか枠のない狭き門であることに変わりはない。

結婚相手を「金で選ぶ女、年で選ぶ男」が嵌る、当たりのないガチャ地獄という記事で、上方婚志向の女性の婚活は「当たりのないガチャを延々と引き続けるようなものだ」と書いたのは、こういうファクトに基づいたものである。

既婚者にとっても「普通じゃない」

ちなみに、既婚者だからといって全員が年収500万円を稼いでいるわけではない。

未婚者と同様の結婚適齢期25-34歳で比較してみても、年収のボリューム層は300万円台である。500万円未満で結婚している割合は69%もある。既婚者で見ても、年収500万円は普通ではないことがわかる。

そもそも、未既婚問わず男性の収入が低すぎるのでは?とは思うだろうが、それはまた別の問題。

婚活女性は「適当な相手がいない」とよく言うのだが、それは相手の年収という色眼鏡をかけ続けているせいで、自ら見ようとしていないだけかもしれない。言い換えれば、男性の年収にこだわらない女性が結婚しているともいえる。

以前、年収400万円以上の女性の生涯未婚率が一律で高いという話をした。相手に500万円を求めるのは、少なくとも自身が400万以上稼ぐ女性であると仮定すると、数字として辻褄が合う→女性の生涯未婚率グラフはこちら

結婚相談所の仲人さんが断じる「普通じゃない」

とはいえ、「私だけは大丈夫。きっと見つかる」と自信満々で婚活を続ける方もいるだろう。可能性はゼロではないのでそれは「どうぞご自由に」とは思う。思うが、大きなお世話ついでにこんなエピソードもご紹介しておこう。

結婚相談所の婚活面談で、仲人さんたちが婚活女性からよく聞かされる言葉があるそうだ。

「高望みはしません。普通の人でいいです」

次に続く条件は今まで書いてきたようなものである。この言葉を受けた仲人さんは、口には出さずとも、こう思うだろう。

「ここに普通の人なんていません。あなたのいう普通の人はここに来るまでもなく結婚しています」と。

写真:PantherMedia/イメージマート

この言葉、厳しいと思うだろうか? 

いいえ、仮にこういうことを言ってくれる仲人さんがいたとしたら、むしろ真剣に、親身にあなたのことを考えてくれていると思う。本当に結婚したいと思う人にとっては大事な「現実への気づき」だからである。

結婚は、ドラマでもマンガでもなく、現実である。現実を受け入れられない人に結婚という現実はやってこない。

-

※記事内のグラフの無断転載は固くお断りします。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

荒川和久の最近の記事