Yahoo!ニュース

『24時間テレビ』と『バリバラ』は、vs.じゃなくてwith!?

碓井広義メディア文化評論家

『24時間テレビ』は今年も、愛で地球を救っていた!?

先日、毎年恒例の『24時間テレビ 愛は地球を救う』(日本テレビ系)が放送されました。テーマは「告白~勇気を出して伝えよう~」。

いつものように、義足の少女が槍ヶ岳に登ったり、目の不自由な4歳の女の子が買い物に行ったり、知的障害の高校生が『欽ちゃんの仮装大賞』に出場したり、耳の不自由な子ども達がマリンバの合奏をしたりと、「感動のシーン」がてんこ盛りでした。

さらに、意味はよくわかりませんが(笑)、90キロの道のりを走ったり、歩いたりしたブルゾンちえみ嬢の「感動のゴール」もあって、番組終了時の募金総額は1億2900万円余り。いや、大したものです。愛は地球を救うそうですが、感動は『24時間テレビ』自体を救っています。おつかれさまでした!

『バリバラ』は、笑いで地球を救っていた!?

この巨大特番がフィナーレに向かってひた走る頃、その“裏”では、定時(レギュラー)番組であるEテレ『バリバラ』が生放送されていました。この回のテーマは「告白!あなたの夢はなんですか?」。って、こっちも「告白」だ。ケンカ売ってんのかい?(笑)

出演者たちは、胸に「笑いは地球を救う」の文字が躍る、おそろいの“黄色いTシャツ”姿。ケンカ上等!ではありますが、司会の山本シュウさんが「(24時間テレビとは)vs.じゃない、withです」と、笑いながらクギを刺していました。

VTRも傑作でしたね。タイトルが「障害者の夢を実現し、感動を分かち合う」という、一見“いかにも”な企画です。

たとえば、筋ジストロフィーの男性が「野球をしたい!」と言います。番組は球場を借り切って、車イスの男性を、夢のバッターボックスに。

筋ジスのバッターですから、バットを振ることはできません。ピッチャーはバットに当たるよう、狙って投げてくれたのですが、男性は「つまらない!」と不満顔。

そして本当は、野球は野球でも「野球ゲームを楽しみたかった!」と告白するのです。「野球ゲームを楽しむ障害者」では、「感動の番組として成立しない」というテレビの”常識”を、ユーモラスかつ鮮やかに斬ったわけですね。

また、「山に登りたい!」という夢をもつ、脳性マヒの男性も登場しました。小学校の遠足で鳥取の大山(だいせん)に行ったのですが、障害を理由に、登らせてもらえなかったそうです。

番組は、「チャレンジしてみたい」という男性を、大山登山のスタートである石段まで連れて行き、「さあ、どうぞ」と促します。ここから感動のチャレンジが始まる・・・と思いきや、石段の上に腹ばいになったものの、身動きができない男性。結局、リフトに乗って、スイスイと山頂に向かいました。

スタッフから「自分で登らなくて、よかったんですか?」と聞かれた男性は、眼下の風景を眺めながら「山頂からの景色が見られれば、それで十分」と笑います。最後は、「(テレビで)障害者が頑張ってるのを見て、そもそも面白いですかあ?」と問い返していました。

やってあげるではなく、一緒に・・・

VTRを見終わったスタジオでは、「本人に、したいことか、したくないことか、ちゃんと聞こうよ」「本人の気持ち次第だよね」「押しつけはダメ!」といった、障害者たちの本音が炸裂。大いに納得です。

障害のある人たちに対して、「やってあげる」ではなく、「一緒に」が大事なのだと、よくわかりました。これって、まさに『バリバラ』の精神ですから。

『バリバラ』には、ぜひ来年も熱い“裏番組”をお願いしたいものです。もちろん、vs.じゃなくwithで。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事