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韓国「KBS」TVもウクライナ発の北朝鮮派兵情報を検証

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ウクライナのテレグラムチャンネルが放映した負傷した北朝鮮兵士(エクザイル・ノバ)

 数日前(6日)に筆者はこの欄で「ウクライナ戦争への北朝鮮派兵の『虚実』 何が本当で何がフェイクか? 10の情報を検証する!」との見出しを掲げ、北朝鮮派兵情報を検証する記事を掲載したが、韓国の公共放送である「KBSテレビ」が今朝、「裏北ニュース」というコーナーで「『北朝鮮の戦闘食糧は犬肉』を信じられるか?・・・SNSはもう一つの『戦場』」と題して北朝鮮派兵関連情報の真偽を検証していた。

(参考資料:ウクライナ戦争への北朝鮮派兵の「虚実」 何が本当で何がフェイクか? 10件の情報を検証する!)

 週1回放送される「裏北ニュース」はその週に最も話題になった北朝鮮関連ニュースの裏側を覗き、事実関係を掘り下げることで北朝鮮報道に隠された意図を探り、より深みのある情報を提供することを目的とした評価の高い番組である。

 「KBS」は筆者が取り上げた10個の未確認情報の内「負傷した北朝鮮兵士の映像」と「北朝鮮軍の戦闘食糧」の2件と別途に「北朝鮮軍人身分証」を取り上げ、検証していたが、以下はその概要である。

 ▲負傷した北朝鮮兵士の映像について

 「先月末、ロシアに配備された北朝鮮軍がすでにウクライナ軍と交戦したとされ、生存北朝鮮兵士1人の映像が親ウクライナのテレグラムチャンネル『ExileNova』を通じて公開された。北朝鮮兵士と推定される東洋系の男性は血まみれの頭に包帯を巻いて病院のベッドに横たわり、北朝鮮訛りで話しているかのように聞こえたが、苦しいそうだった。動画の中で男性は『私は仲間の死体の下に隠れて生き残った』『ロシアは私に武器をくれなかった』『プーチンはこの戦争に負けるだろう』等々ウクライナに有利な発言を連発していた。しかし、この動画の真偽は確認されておらず、段々と『フェイク』である可能性が高まっている。ゼレンスキー大統領が先月30日の『KBS』とのインタビューで『北朝鮮軍がウクライナ軍と交戦し、死者を出した』とされるいわゆる『交戦説』を否定したからである。当時、ゼレンスキー大統領は『これまで北朝鮮軍は戦闘に参加しておらず、ロシアのクルスクでの戦闘に参加する準備をしている』と述べ、『戦闘は今後数日の間に発生する可能性が高い』と述べていた。ウクライナ当局が『北朝鮮軍との初の交戦』を公式に認めたのは、5日後の11月4日になってからだった」

 ▲北朝鮮軍の戦闘食糧について

 「X(旧Twitter)を通じて北朝鮮軍がロシア兵の同僚に与えた戦闘食糧を紹介する動画が拡散されたが、缶の外側には『ヌロンイ ケゴリ』(黄色い雑種犬)の文字が鮮明に書かれてあった。ロシア軍が何であるかさえ知らず、欧米では禁じられている犬肉を北朝鮮の兵士から貰って食べたという事実を戯画化していた。専門家はこのビデオも偽物である可能性が高いと述べている。韓国統一研究院の趙漢凡(チョ・ハンボム)主任研究員は北朝鮮では『ヌロンイ ケゴリ』ではなく『タンゴリ』(甘肉)という表現が使われているとし、『北朝鮮に犬肉の缶詰があるのは事実だが、戦闘食用ではない』と指摘している。『缶詰の犬肉はアスリートや上流階級にとっての健康食品であり、高級食品であり、贈り物である』と語っている」

リトアニアのSNSで拡散された北朝鮮食用犬肉缶詰(「ブルーイエロー」から)
リトアニアのSNSで拡散された北朝鮮食用犬肉缶詰(「ブルーイエロー」から)

「北朝鮮軍人身分証」

 「SNS(ソーシャルメディア)で瞬く間に拡散された「北朝鮮軍人の身分証明書」の写真も操作された可能性があると考えられている。脱北者たちは一様に『このような身分証明書を見たことがない』『兵士には軍人身分証ではなく軍人証が支給される』と語っている。また、またこのIDカードに使われている字体(フォント)は北朝鮮では使われていないとの分析もある。

 「KBS」は食べ物との関連でこの他にも「ウクライナの戦場に到着した北朝鮮兵士が牛肉とラーメンを食べている映像も登場していたが、この兵士は中国語を話していた。映像に映っているこの兵士がウクライナやその周辺で最前線にいるのは本当かもしれないが、ロシアに派遣された北朝鮮兵士ではないようだ。ウクライナ日刊紙『キエフ・ポスト』によると、『ロシア軍に所属している中国出身の傭兵の一部は自分たちの経験を映像にアップロードすることが多い』と伝えられている」と報じていた。

SNSで拡散した朝鮮人民軍「軍人身分証」
SNSで拡散した朝鮮人民軍「軍人身分証」

 「KBS」は「このようにロシアに派遣された北朝鮮軍に関する情報の多くは虚偽であるとの分析がある。ベールに隠された北朝鮮から海外に派遣された兵士の存在が関心の対象になるほかないが、このような未確認情報の無差別な拡散が関心の高まりのせいというのは腑に落ちない。一部ではウクライナ軍による心理戦ではないかとの疑惑も提起されている」と伝えている。

 このことと関連して「KBS」は「ウクライナ政府が国際社会の関心と支持を得るために北朝鮮軍の派兵情報を広めることに力を入れているので今出てきている情報は非常に緻密に計画されているように思われる。ウクライナ軍の心理戦の一環か、ウクライナの心理戦部隊に関連していると推定される」との前出のチョ・ハンボム上級研究員のコメントを紹介していた。

 そして最後に「ロシア派兵北朝鮮軍関連『フェイクニュース』が広がる中、これがウクライナ側の意図であろうとなかろうと、『本当のニュース』ですら信用されなくなる状況が危惧されている。ロシア軍の活動を監視してきた国際的な市民社会組織『Informnapalm』も懸念を表明し、北朝鮮軍に関する偽情報が蔓延していることがウクライナに害を及ぼす可能性があると警告している」と伝えていた。

(参考資料:北朝鮮の対露派兵部隊が「暴風軍団」ならば投降せず、自害する!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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