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ウクライナ戦争への北朝鮮派兵の「虚実」 何が本当で何がフェイクか? 10件の情報を検証する!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
クルスク州で撮られた北朝鮮兵士(アンドレーチャフリエン氏のSNSテレグラムから)

 北朝鮮のロシア派兵については様々な情報が溢れ、また、あらゆる憶測が飛び交っているが、その多くが未確認のままだ。

 情報の発信源はウクライナのメディアやウクライナを支援するリトアニアの非政府組織(NGO)「ブルー・イエロー」などテレグラムチャンネルや言論人のSNSなどだが、写真や映像まで添えられていることから実に興味深い。

 一部ではウクライナ当局が北朝鮮の派兵を米国やNATO(北大西洋条約機構)から長距離砲などを引き出すため、また北朝鮮と対峙している韓国を引き込むために意図して誇張しているのではとの疑念も指摘されている。

 また、露朝関係に楔を打ち込むための、あるいは国際社会の目をウクライナに向けさせるための情報戦、心理戦の一環ではないかとの見方もあるようだが、これもまた、裏付けに乏しく、邪推とみなされている。そこでこれまでの情報を列挙し、一つ一つ真偽を確認してみることにする

 その1.ウクライナの砲撃で北朝鮮将校6人の死亡(10月3日)

 ウクライナの英字紙「キウイポスト」(電子版)が情報筋の話として10月3日のウクライナ東部、ドネツク州近郊でのウクライナ軍の砲撃でロシア側に20人の犠牲者が出たが、そのうち「北朝鮮将校6人が死亡し、3人が怪我した」と伝えていた。

 韓国軍当局の発表(10月18日)では北朝鮮兵士がロシアに移送されたのは10月8日からである。従って、ドネツク近郊に北朝鮮兵士が配備されていなかった可能性が大である。一部ではミサイル関連兵士らが先遣隊としてドネツク州に入って、巻き込まれたとみる向きもあるが、「6人死亡、3人怪我」の根拠、詳細が示されていないことから信憑性が問われている。

 その2.ロシア軍事訓練施設での北朝鮮兵士の映像(10月19日)

 ウクライナの戦略コミュニケーション・情報セキュリティーセンターはロシアの訓練施設内でロシアの軍服を着た北朝鮮兵士らが装備を受け取っている映像をX(ツイッター)で公表。飛び交っていた言葉が北朝鮮訛りだったことから北朝鮮兵士の可能性が極めて高い。

 その3.北朝鮮兵士18人の脱走(10月21日)

 ウクライナのメディア「キーウ・インディペンデント」が10月21日(現地時間)、「北朝鮮兵士18人が数日間食糧を与えられなかったため14日に陣地を離れ、脱走したが、捕らわれ、現在、ロシア当局に拘禁されている」と報道。

 脱走した地点が「ロシアのクルスク州とブリャンスク州の間、ウクライナ国境から約7kmの地点」とのことだが、北朝鮮はこの時点でもまだ部隊をクルスク州に送っていなかった。ウクライナのキリーロ・ブタノフ国防部情報総局長が米国の軍事媒体「TWZ」に「先発隊2600人はウクライナがクルスク地域に投入されるだろう」と発言したのは現地時間17日である。

 その4.ポクロフスク戦線で北朝鮮の国旗が掲揚(10月21日)

 親ロシア派アカウント「Z作戦―ロシア春」の軍事特派員は通信アプリに東部ドネツク州ポクロフスク戦線にある鉱山の廃石の上に北朝鮮の国旗がロシアの国旗と共に掲げられた写真を投稿。派兵を否定している北朝鮮が自ら馬脚を露すことはしないのでこれは明らかに捏造、トリックである。なにしろ、北朝鮮の兵士はまだクルスクに到着していなかった。実際にウクライナ国防省情報総局トップのブダノウ氏は米軍事メディア「ウォーゾーン」(22日)のインタビューに「北朝鮮の部隊はウクライナと国境を接するクルスク州に23日に到着する」と述べていた。

 

北朝鮮の国旗がロシアの国旗と共に掲げられている写真(ロシアの「アトラス」から)
北朝鮮の国旗がロシアの国旗と共に掲げられている写真(ロシアの「アトラス」から)

 その5.ロシアのテレグラムに北朝鮮兵士らの映像が公開(10月22日)

 ロシアの独立言論機関と主張する「アストラ」がテレグラムチャンネルに北朝鮮軍人とおぼしき兵士らがウラジオストクのセルギエフスキーに位置する基地の建物の外にいる映像を公開。「アストラ」は「内部基地の関係者からの提供された」と説明しているが、北朝鮮兵士数人が「きつい」とか「遅れた」と朝鮮語で話していたことからこの映像は本物とみられる。

 その6.北朝鮮兵士40人のうち1人以外は全員死亡(10月25日)

 ウクライナ戦線を支援するリトアニアの非政府組織(NGO)「ブルー・イエロー」のジョナス・オーマン代表は現地メディアとのインタビュー(10月28日)で「25日にすでにクルクス州でウクライナ部隊と北朝鮮兵が含まれたロシア部隊との間で初の交戦が行われ、1人を除いて北朝鮮人を含む全員が死亡した」と発言。生き残った1人は「ブリヤート人(モンゴル系ロシア人)の身分証を所持していた」とのことだが、死亡したのが北朝鮮兵士か、ブリヤート人かは定かではなかった。

 その7.負傷した北朝鮮兵士の映像(10月31日)

 親ウクライナテレグラムチャンネル「エクザイル・ノバ」は「クルスクでの警告」という見出しを付けて負傷した北朝鮮兵士の映像を約2分間公開。頭と顔を包帯で追われた負傷兵士が「40人いたが、全員死んで、自分ひとりが取り残された。ロシアの奴らは攻撃の前に事前に偵察もせずに偵察武器もくれず、我々の無作戦の攻撃に駆り出したため私以外、全員が死んだ」と、言葉を絞り出し、朝鮮語で話していたが、10月25日の「ブルー・イエロー」のオーマン代表の情報から約1週間後に出てきただけに「やらせではないか」と懐疑的に見る向きもある。捕虜ならば、真っ先に名前や出身地、所属部隊について公開すべきなのに何一つ明らかにされておらず、ウクライナ当局が言いたいことを代弁させていたことからフェイクではないかと囁かれている。

 その8.北朝鮮軍の戦闘食糧(11月1日)

 「ブルー・イエロー」に北朝鮮軍の戦闘食糧であるとし、缶詰などの写真が掲載された。缶詰に「ヌロンイ ケゴリ」(黄色い雑種犬)とか「ユクチュブ」(肉汁)と書かれてあったが、北朝鮮には「ケゴリ」という語彙はなく、「タンゴリ」(甘肉)と呼ばれていることや「ユクチュブ」も北朝鮮式表記ではなく、頭音法則を適用している韓国式であることから信憑性が問われている。印字そのものも北朝鮮では見られず、韓国国内でよく使われるゴジック体であった。

 その9.ウクライナ軍が北朝鮮の国旗を発見した写真(11月3日)

 「ブルー・イエロー」のジョナス・オーマン代表は大衆に公開しないことを条件にドローンで撮影された写真1枚を米CIAが運営する「自由アジア放送」(RFA)に提供。「RFA」は「北朝鮮の国旗がついた軍帽をかぶった死亡者の遺体を確認したが、顔は識別できなかった」と伝えていた。「ブルー・イエロー」はこの写真をリトニアの公営放送「LRT」を通じてウクライナ兵が北朝鮮国旗を手にしている「証拠写真」として流していた。

 その10.ロシア語を学ぶ北朝鮮兵士映像(11月5日)

 ウクライナの言論人、アンドレーチャフリエン氏が11月5日、自身のSNSテレグラムに「クルスク地域の北朝鮮兵士の初の動画像」と題して3件の映像を公開。「ロシア軍服を着た北朝鮮兵士らはロシア兵との意志疎通を図るためロシア語を学んでいる」と説明されていた。動画では小銃を持った北朝鮮兵士らがロシアの教官に従い「弱い」という意味のロシア語を口にしていた模様が映し出されていた。兵士らの容姿はいかにも北朝鮮兵らしい。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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