「旧統一教会が批判され迷惑をかけ申し訳ない」の言葉に驚かれた方へ もっと被害の声をあげられる社会に
安倍元首相を自分で作った銃で撃ち、殺害した山上容疑者の母親が、検察の聞き取りに対して「事件で旧統一教会が批判され迷惑をかけ申し訳ない」と話していたとの報道がなされました。
山上容疑者の母「旧統一教会が批判され迷惑をかけ申し訳ない」 検察の聞き取りに話す (MBS)
この言葉は、多くの人にとって理解しがたいものに聞こえたかもしれません。もしかすると「教団の思想にはまると、こんな考え方になってしまうのか」と驚いた方もいらっしゃることでしょう。
本来、申し訳ないと思う先は「教団が批判された」ことではなく、凶弾の犠牲になった安倍元首相であり、その家族です。ここに違和感を抱き、思想に染まってしまうことの怖さを感じた人もいたに違いありません。
ただし、元信者の目線から言えば、母親が旧統一教会の教えに染まっている状況では、自然に出てくる言葉ともいえます。
深刻なのは、信者らが何げなく発するこうした言葉のひとつひとつが、家族たちの心を傷つけ、苦しめてしまっている現実です。なかには、教団第一の発言を度々受けて、怒りに震え匙を投げて、家族の断絶につながってしまうこともあるかもしれません。
今回、山上容疑者自身が子供の頃から、長年母親からこうした言葉を受け続けて、教団への恨みが深くなり、今回の凶行が引き起こされたとすれば、残念でなりません。本当なら、その思いを理解してあげ、恨みの矛先を変えてあげられる人が周りに一人でもいれば、防げたかもしれないからです。
頭ごなしに、信者本人を責めない姿勢も大切
信者を持つ家族の方に、理解して頂きたいことがあります。
今回のような教団の教えから発せられた言葉を耳にした時に、頭ごなしに本人を責めることは、しないでほしいのです。問題の根は深く、こうした発想にさせてしまうように仕向けている教団の教え込みこそに原因があります。
旧統一教会の人たちは神の側の人間と教えられています。それに対して、教団に反対するものはサタン(悪魔)の側の人間という位置づけになっています。当然、筆者もサタンの側の人間ということになります。そして、教団に反対する家族もサタンの側になります。
また、聖書を通じて「天使長・ルーシェル(サタン)の誘惑の言葉に、エバがそそのかされたことで罪を犯してしまった。それゆえに、サタンの言葉に耳を傾けてはならない」と教えられています。その結果、これが障壁となって、家族と心を通わせた会話ができなくなってしまっているのです。
信者を持つ家族のなかには、まともな会話ができない状況に苦悩している方も多くいます。
本来、そうした事態に直面した時、信者らに「どう向き合い」「彼らの発する教団第一の言葉をどのように受け止めるべきなのか」を事前に知っておく必要があります。そこで、すでにこの経験を乗り越えてきた別な家族などに相談しておきたいところですが、そのような相談先はあまりに少ない状況です。
しかしこれも仕方ない状況といえます。公に相談を受けようと声をあげれば、それこそサタン側の行動とみられてしまい、教団からの何かしらの組織的な攻撃や報復にさらされる恐れがあるからです。
どんなことを、教団側はしてくるのでしょうか?
筆者の経験からひとつお話をします。
1992年8月25日に韓国のオリンピックスタジアムで3万組の合同結婚式が行われました。
文鮮明氏が選んだ男女が結婚相手となり、結婚式を挙げます。筆者も信者として参加していましたが、それまで一度も会ったことない女性と韓国で初めて会いました。
そうしたカップルが3万組いるのですが、誰一人として、結びつけられた相手を拒否することなく、合同で結婚式をあげます。その異質な光景に、目を奪われた方もいると思います。
当時、こぞってテレビなどで取り上げられ、話題になりました。その一方で、先祖の悪因縁があるなどといって、壺などを売りつける霊感商法などの旧統一教会の資金集めの活動も報道されます。
「この団体が大嫌いです」
その頃、旧統一教会へ批判的な報道する一人に、テレビ番組のニュースキャスターをつとめていた筑紫哲也さんがいました。
「私はこの団体が大嫌いです」
当時信者として、番組で発言されたこの言葉を覚えています。
連日の旧統一教会の霊感商法問題などを報道をするこの局に対して、筆者の所属する部署の責任者から次のような指示がありました。
「テレビ局に、クレーム、文句の電話をかけろ!」です。
責任者が見守るなか、私たち信者らは一般人のフリをして「こんな偏向報道はやめろ」「個人的な感情をぶつけるな!」「嘘ばかりの報道で、真実を伝えていない」などと電話をかけ続けて、組織的な攻撃を仕掛けました。
今、振り返れば申し訳ないのですが、当時の責任者の言葉は、神様の言葉ですので、従わなければなりません。筑紫さんら批判するマスコミの発言を、サタンの側の人間とみて行動していたのです。
当時、報道各社には、かなりの数のクレームや文句の電話がかかってきたのではないでしょうか。
このように旧統一教会は、相手をサタン(悪魔)の側とみて敵対視すると、組織的な攻撃を仕掛けてくることがありました。元信者やその家族らは、こうした現実を知っていますので、教団への批判に対してどうしても及び腰になってしまうのです。
安倍氏が凶弾に倒れる2週間ほど前
縁とは不思議なものです。
安倍氏が凶弾に倒れる2週間ほど前に、特別解説委員をされている方に「番組が終わった後も、局内には、筑紫哲也さんが使っていた控室があるんだよ。知っている人は少ないけれど」と教えて頂きました。
その部屋を見せて頂き、筑紫さんの旧統一教会に対しての「大嫌い」という発言や、この局にクレーム電話をかけさせられていたことを走馬灯のように思い出しました。しかも、まさかそのことを、今回のような形で記事にする機会がくるとも思っていませんでした。
当時のマスコミは、教団の攻撃にも屈せずに、報道を続けてくれました。おかげで、その後に、筆者も目を覚ますことができました。
筑紫さんの「私はこの団体が大嫌いです」という歯に衣着せぬ言葉は、今でも心に残り、現在のジャーナリストの活動にもつながっています。
今でこそ、そこまで特定の宗教団体にものを言う方は少ないと思いますが、教団側の批判に屈せずに、毅然と報道を続けてくれた皆様のおかげで、現在の自分があります。
ネットによる情報発信が、元信者らの勇気を後押し
何より今は、当時とは違い、ネットという情報発信の世界が加わってきています。それにより、多くの人の声が公に出てくるようになりました。その力強い言葉によって、元信者らが勇気づけられて、自分も声をあげようとする原動力になっていると考えています。
全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、いまだに霊感商法などによる金銭的被害が出ているとの発表がなされています。
最近では、パーティ券購入や献金、そして関係団体のイベントに政治家が参加して発言していたなど、旧統一教会との関係性も次々に明らかになってきています。
そのなかには、「適正に処理した」「問題ない」と発言される方もいらっしゃいますが、本当にそうなのでしょうか?想像力を働かせて考えれば、これらに使われたお金の原資は、霊感商法や献金により集められた可能性が絶対にないとはいえないのではないでしょうか。
教団は先の会見で「2009年からコンプライアンスを徹底してきた」と話します。よもや過去のような、クレーム電話をかけさせるような組織的な攻撃行動はないと信じたいですが、過去の旧統一教会の行動を見てきて、不安になっている人たちはたくさんいると思います。どのように法令遵守をしているのか。ぜひとも、そうした人たちの不安を払しょくするような説明が求められます。
二度と、多額の献金による家庭崩壊の悲劇を生み出さないためにも、被害を受けている一人ひとりが、もっと声をあげられやすい社会にしなければならないことを、強く感じています。