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外国籍の子どもから居場所を奪う学校はグローバリズムから取り残される

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 ある父親がいった。「日本はダメになっていくかもしれませんね」。彼のことを、ここではAさんと呼ぶことにする。

 Aさんは来日してから20年以上になり、現在は一流と呼ばれる日本の企業で働き、流ちょうな日本語を話す。そして彼の息子は、「外国籍の子ども」として日本の公立小学校にかよっている。

 その息子が、学校で友だちとケンカをしたという。「友だちに『バカ』といわれて、うちの子が手をだしてしまったらしいのです」と、Aさんは説明する。「手をだした」といっても、相手にケガをさせたわけでもない。

 バカといわれて、つい手をだして応じてしまう、小学生の男の子なら、さほど珍しいことでもないはずだ。にもかかわらず、学校側の対応は違っていた。Aさんがいう。

「私も校長に呼ばれまして、『言葉で反論できずに、暴力で応じるというのは、日本語の能力に問題があるかもしれない。もしくは知能的な問題かもしれないので、検査を受けろ』というのです」

 校長の対応に、Aさんは呆れた。「言葉の問題は、たしかにあるとおもいます。それに対する学校側の対策を示すでもなく、いきなり知能の問題にされるのは納得いきません」と、Aさんは不満を述べた。

 Aさんの話を聞いていて思いだしたのが、ある新聞記事だった。2019年8月31日付の『毎日新聞』は、「外国籍は通常の2倍 特別支援学級在籍率 日本語できずに知的障害と判断か」という記事を載せている。

 記事は、文部科学省(文科省)への情報公開請求などで『毎日』が独自に調査したものである。それによれば、「外国人が多く住む25市町の公立小中学校に通う外国籍の子どもの5.37%が、知的障害がある子どもらが学ぶ『特別支援学級』に在籍していた」という。これは、全児童生徒のうち特別支援学級に在籍している比率(2.54%)の倍となっているのだ。

 その理由として『毎日』の記事は、「日本語が理解できないため知能指数(IQ)検査の結果が低く、知的障害などと判断された可能性がある」との専門家のコメントを引用している。さらに記事は、「入級の可否は、IQ検査を行うなどして決める。IQ検査は基本的に日本語で実施されるため、外国籍の子どものIQが正確に測れていない可能性もある」と続けられている。普通学級では対応できないので、特別支援学級に追いやっているにほかならない。

 この記事から、Aさんの息子の場合も、IQ検査の結果で特別支援学級に入れられることになる可能性が高いことが容易に想像できる。

「私の妻も同じく外国籍で、当然ながら家庭では母国語での会話になります。そのため、息子は日本で生まれて育っていても、日本家庭の子にくらべれば少し日本語の力が不足しているとはおもいます。しかし、IQの問題だとは考えにくい。にもかかわらず、学校はIQの問題として処理したいように感じました」

 と、Aさん。外国籍の子どもたちが日本人の子の倍も特別支援学級に入らなければならないほどIQ面で問題があるとは考えにくい。

 日常会話はできても実は授業まで理解できない外国籍の子どもたちが放置されている実態は、2019年9月4日付の「Yahoo!ニュース」でのわたしの記事、「『外国がルーツの子どもたちは日本語で日常会話はできても授業が理解できていない』に取り組む株式会社」でもレポートしている。https://news.yahoo.co.jp/byline/maeyatsuyoshi/20190904-00141226/

 そういう子どもたちは、日本の学校では「無視」されてしまっている。「無視」の先にあるのが、特別支援学級は外国籍の子どもたちのサポートするためのものではないから、ここでも外国籍の子どもたちが無視される存在であることには変わりがないだろう。

 もう少し日本語をふくめた外国籍の子どもたちをサポートする体制さえ整えれば、日本人の子どもたちといっしょにやっていけるはずである。しかし余力のない学校は、外国籍の子どもたちを「無視」し、「放置」し、IQの問題にして特別支援学級に追いやってしまうのだ。

「日本の政府は、これからも多くの外国人労働者を日本に呼ぶといっています。そうなると、うちの息子のような外国籍の子どもたちが日本に増えていくはずです。にもかかわらず、そういう子どもたちの居場所を日本の学校はつくろうとしていない。うちの息子のかよっている学校だけが悪い、といっているわけではありません。日本全体として、外国籍の子どもたちを受け入れる体制を整えようとしていないようにおもいます」

 Aさんは絞り出すような声でいった。そして、繰り返した。「外国人を受け入れて成長してくと日本政府はいっています。でも、外国籍の子どもを受け入れる体制づくりをやろうとはしていない。このままでは、日本はダメになります」

 この声に耳を傾けなければ、日本の教育も日本そのものも「最低」に落ち込むことになる。政府も学校もグローバリズムを口にするが、現実は、まるで逆になっていることに気づく必要がある。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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