絶対零度付近でのみ現れる「物質第5の状態」がヤバすぎる
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「物質の第5の状態、ボースアインシュタイン凝縮」というテーマで動画をお送りします。
私たちが普段目にする物質は、温度によって固体・液体・気体へと状態が変化していきます。
ですが、それで終わりではありません。
第4、そして第5の状態も存在します。
今回は「ボース=アインシュタイン凝縮」と呼ばれる物質の第5の状態について、そしてその観測に成功した実験を紹介していきます。
●様々な物質の状態
○物質の三態
私たちがよく知る固体・液体・気体の3つは、まとめて「三態」と呼びます。
例えば水は、温度が低いと固体の氷になり、温度が上がると水という液体、更に温度が上がると気体である水蒸気になります。
そもそも温度とは、物質を構成する原子や分子が持つ運動エネルギーの大きさを意味します。固体の状態では運動エネルギーが小さいので、動くのをやめて固まってしまっています。
固体の状態では、物質の原子や分子には多少の運動はあるものの、集まったそれらが位置を入れ替える事もないため、体積も一定のまま、形を保っています。
熱が加わり、融点に達すると、固体は解け始め液体に変わります。
この時の原子や分子はじっとしていることをやめ、近くの原子や分子と順番を入れ替え始めます。
水の場合は0度で液体となりますが、物質が固体から液体に変化する温度である「融点」は物質の原子配列によって定まるため、融点は物質毎に異なります。
最も融点の高い元素は、元素記号W、原子番号74のタングステンで、なんと3410度にならないと溶けることができません。
液体という状態には、隣と入れ替わるだけのエネルギーはありますが、単独で飛び立つほどのエネルギーは持っていないため、体積は固体の時とほとんど変わりません。
しかし原子や分子の配列を変えることが出来るので、固体と違って形が変わるのです。
更に温度を上げ、沸点に達すると、液体は気体に変わります。
原子や分子はこの時最も激しく暴れている状態となり、それぞればらばらになります。
気体の原子や分子はバラバラなので、固体や液体のように体積は定まりません。
これをぎゅっと小さく圧縮すると、激しく動く原子や分子を無理矢理閉じ込める状態になり、圧力が高まります。
○物質第4の状態「プラズマ」
さて、物質の三態について簡単に説明しましたが、4つ目の状態「プラズマ」についても軽くお話ししましょう。
気体をいっそう加熱し、更に運動エネルギーが高くなると、分子は原子に解離し、さらには原子を構成する電子が、原子核から離れていきます。
この現象を電離といいます。
電離により発生した高エネルギーの電子やイオンが、自由に動き回っているのが、プラズマという状態です。
このプラズマは、身近では雷や蛍光灯の内部、ろうそくの周囲などに見られます。
太陽のような恒星もプラズマですし、宇宙では最もありふれた物質とされ、なんと宇宙の物質の99%はプラズマの状態だそうです。
●物質第5の状態
○ボース・アインシュタイン凝縮
ここまで、第4の状態まで見てきました。
固体を熱すると液体へ、液体を熱すると気体へ、更に加熱するとプラズマへと物質は状態を変化させます。
では、加熱するのではなく反対に冷やしてみると、物質はそれ以外の状態を見せるのでしょうか。
それが、5番目の状態「ボース=アインシュタイン凝縮」、BECといわれる状態です。
粒子の運動が完全に停止した最も低い温度(約-273.15度)を絶対零度と呼びますが、このBECは絶対零度に近い超低温状態の原子に見られます。
○BECのメカニズム
ボース・アインシュタイン凝縮とは極低温状態で量子力学的効果によって発生する物質の状態のことです。
量子力学というと原子や素粒子などのミクロな世界を扱う物理学ですが、温度が非常に低い場合でもその効果が現れます。
量子力学ではスピン(粒子が持つ自転のようなパラメータ)の大きさに基づいて、粒子を「フェルミ粒子」と「ボース粒子」という2つの種類に分類します。
フェルミ粒子は電子や陽子、中性子、ニュートリノなどで1/2の奇数倍のスピンを持ちます。
これらの粒子は1つのエネルギー準位に1つの粒子しか存在できません。
エネルギー準位とは粒子が持つことができるエネルギーの値です。
エネルギー準位は連続ではなく飛び飛びの値になっています。
一方ボース粒子には光子などが含まれ、整数のスピンを持つ粒子です。
ボース粒子は同じエネルギー準位に複数の粒子が存在できます。
高温状態(常温を含む)では個々の粒子が様々なエネルギー準位をとっています。
しかし、低温状態では、ボース粒子の場合、大多数の粒子が最低エネルギー状態に落ち込みます。
これがボース・アインシュタイン凝縮と呼ばれる状態です。
「凝縮」というと1つの場所に集まっているというイメージがありますが、空間上の位置ではなく1つのエネルギー準位に多くの粒子が集まっているという意味です。
量子力学では原子は粒子でもあり波でもあるというとらえどころのない存在です。
ボースアインシュタイン凝縮の状態では、量子力学の法則に従って多くの原子が集団で1つの波としてふるまうようになります。
○BECが起こす奇妙な現象
・コップの水かき回す動画
BECが実現する絶対零度付近では、様々な不思議な現象が生じます。
その一つが「超流動」です。
コップに水を入れてかき混ぜるとやがて静止しますが、これは水に「粘性」が生じているためです。
しかし、絶対零度付近の温度になると、物質は粘性を失います。
例えば、液体ヘリウムはマイナス271度より低温でBECを起こし、粘性を失くします。
すると、一度回転させられた液体ヘリウムは止まることなく回り続けるのです。
これを、超流動現象と呼びます。
○BEC観測の歴史
BECは、1995年に実現されました。コロラド大学がルビジウム原子で、MITのグループがナトリウム原子で、それぞれBECを観測しています。
この実験には、レーザー冷却と蒸発冷却という方法が採用されました。
レーザーというと、物を温めるイメージがありますが、レーザー冷却とは、原子にレーザー光を当て、原子の動きを抑制し、温度を極限まで下げて絶対零度に近づける方法です。
蒸発冷却とは、高いエネルギーをもった原子を選んで蒸発させることにより、残った気体の温度を下げていくという方法です。
実際に、1997年、2001年、2005年のノーベル物理学賞に選ばれたのが、BECに関する研究でした。
これは、世界の科学者が注目している証拠でもあります。
しかしBECは非常に壊れやすく、維持するのが困難という課題もあります。
絶対零度という非常に低い温度が必要というのもありますが、観測に必要な磁場に地球の重力が干渉してしまうというのが大きな問題でした。
そのため、NASAは国際宇宙ステーションという重力干渉が無い空間で実験を行うことでこの問題を克服しました。2020年の出来事です。
なんとこの実験では、BECを1秒以上維持することに成功しました。
たったの1秒ですが、2017年にドイツの研究チームがBECを生成した時はわずか数百ミリ秒だったので、比べると非常に長時間なのがわかると思います。
○宇宙にも関連するBEC
また、BECは未知の物質「ダークマター」や超新星爆発と密接に関わっているとも考えられています。
何万個というルビジウム原子を急激に凝縮した実験では、外側の原子を吹き飛ばして爆発し、小さなBECだけが残るという現象が確認できました。
これはボースノヴァと呼ばれ、超新星爆発のアナロジーとして役立つのではないかと期待されています。
宇宙の謎を解明するカギをも握るBEC。
1995年に実験開始とかなり新しい分野で、まだまだ未知な部分も多いですが、これからどんどん宇宙の秘密を暴いていくかもしれません。