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米朝首脳会談、成功か失敗かは直感で決まる? 金氏の非核化の本気度は「感じでわかる」とトランプ氏 

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
シンガポールのパヤレバ空軍基地に降り立ったトランプ大統領。(写真:ロイター/アフロ)

 いよいよ明日に迫った米朝会談。

 しかし、トランプ氏がその準備ができているかは、甚だ疑問だ。昨日、G7の会合後に行われた記者会見でのやりとりがそれを物語っている。

記者:金氏が非核化に真剣に取り組む姿勢があるかはどう判断するんですか?

トランプ氏:いい質問だ。判断するのにどれだけ時間がかかるかな? 最初の1分でわかるだろう。

記者:どうやって判断するんですか?

トランプ氏:感じでわかるよ。私は感じで判断している。誰かを気にいるかどうかは、最初の5秒でわかると言われているだろう? そう聞いたことない? 良いことが起きるかどうかもあっという間にわかると思うよ。良いことが早期に起きるかどうかもわかると思う。わからないけどね。しかし、とても早い段階で、ポジティブなことが起きるかどうかはわかると思う。ポジティブなことが起きないと思ったら、私は時間を無駄にしようと思わないし、金氏の時間も無駄にさせないよ。

 判断には直感を重視している、いかにもトランプ氏らしい回答だが、裏を返せば、準備不足を直感でごまかそうとしているようにも聞こえる。

 準備不足というよりは、“準備は不要”とトランプ氏は考えて来た節もある。安倍首相との会談後に行われた記者会見で、トランプ氏はこう話していたからだ。

「あまり準備する必要はないと思う。姿勢の問題だからだ。(金氏に)非核化する意思があるかどうかの問題だからだ」

 結局、米朝会談は、具体的に何を決めるかということより、金氏の非核化に対する本気度を確かめる会談になると思われる。非核化のための具体策を考えるのは、その後でいいとトランプ氏は考えているのだろう。

直感で金氏の本気度を確かめる

 金氏の本気度を自身の“直感”で確かめるというトランプ氏。彼の自負する直感があてになるのかどうかはわからないが、トランプ氏が常々“信奉”しているポジティブ・シンキングを考えると、金氏は“完全な非核化”に真剣だとポジティブに判断し、非核化と引き換えに、金氏が出してくる要求をポジティブに呑むことは考えられる。金氏の方はすでに3人のアメリカ市民を解放し、核実験場を爆破するというポジティブな姿勢を見せたからだ。

 金氏は“完全な非核化”と引き換えに、北朝鮮の国家としての承認、体制の維持、平和条約、制裁の解除、経済支援、米韓合同軍事演習の中止、米軍の規模の縮小など多くの要求を突きつけて来るかもしれない。

 “完全な非核化”を制裁解除の前提としているトランプ氏だが、そもそも、北朝鮮がどこにどれだけ核兵器を持っているのか把握できていない状況下では、“完全な非核化”ということ自体、信頼できるものではない。北朝鮮の「これが全ての核兵器です、非核化しました」という言葉を信じて、査察団を送り込むことはできるだろう。それにより、隠されていた核兵器が見つかれば明け渡させるだろうし、あるいは、何も見つからない可能性もある。しかし、最初にどこに、どれだけの核兵器があるのかわかっていない以上、非核化が段階的であれそうでなかれ、“完全な非核化”自体、雲を掴むような話なのだ。

 トランプ氏もそのことはわかっているはずだから、結局、金氏のことを信じて賭けるしかない。そのためには、まず、“敵”を信じられるかどうかを判断するしかない。その意味では、トランプ氏が頼りにしている“直感”は、荒唐無稽に思えるものの、重要なのかもしれない。

世紀のパフォーマンスが始まる

 また、金氏を馬鹿正直に信じて、金氏の要求を呑んだところで、トランプ氏は何を失うだろうか? むしろ、得るものの方が多いだろう。何より“大きな勲章”は、“史上初の米朝会談と非核化の合意”によるノーベル平和賞の獲得かもしれない。また、もし、金氏が、核兵器だけではなく、弾道ミサイルや生物化学兵器、通常兵器の削減と開発の中止などまで約束したら、トランプ氏にとっては大きな勝利になるだろう。

 “敵”が心の底では信じられなくても、信じてみせる。たとえ、北朝鮮が核兵器を隠し持っていたことが後になって発覚したとしても、また、再び、密かに核兵器開発を始めたとしても、米朝会談の時点では、トランプ氏自慢の直感とポジティブ・シンキングで金氏を信じてみせて、合意に至らせることは、トランプ氏にとっては世界に向けての最大のプロパガンダとなるはずだ。

 とは言え、敢えて、金氏に騙されてみせるトランプ氏の世紀のパフォーマンスが、長期的に見て、吉と出るか凶と出るかは知るよしもない。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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