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ジャパニーズ・オンリー!(Japanese only!)繰り返さないために。

にしゃんた社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)
ジャパニーズ オンリー!Japanese Only!

2014年。浦和レッズの試合会場の'''差別、排除主義を助長する「ジャパニーズ・オンリー(Japanese Only)」垂れ幕が話題になった。より正確な表現をすれば、珍しく話題になった。

このニュースを聞いた瞬間、筆者としてある一種の懐かしさを覚えた。以前にも日本で話題になった「Japanese Only」について鮮明に記憶されていることがいくつかある。

私の25年におよぶ日本滞在で、最も鮮明に記憶しているのは、小樽温泉の外国人入浴拒否問題である。小樽港に停泊するロシア人船員が、日本の公衆浴場での慣習が解らず、ロシアと同じように日本の銭湯に入ったことが問題の発端であった。それがきっかけとなり、店先で登場した張り紙に書かれていた言葉は、まさに「Japanese Only」、日本語で「外国人お断り」のニュアンスの内容を併記されていた。

他の文化圏出身者に対して、風呂の入り方を多言語化して伝える、日本のおもてなしの心が少なくともそこにはない。店側の受け入れ態勢の未整備も指摘できるが、最大の問題点は、ある特定の人間の言動を受けて、一切合切の外国人を温泉から締め出したことであった。少し身近な例えに置き換えると、京都の銭湯にマナーの悪い東京出身者が入ったことを受けて、「関東人全員お断り!京都人だけ!」と入り口に看板を掛けられるようなものである。

残念ながら、日本人の利用者からも外国人に対する入浴拒否は「差別である」と小樽温泉側に指摘もなかった。それどころか、彼らは、外国人のマナーの問題だけではなく「外国人は体臭がきつい」や「外国人は、病気をもっている」などの理由を挙げて、大衆浴場の判断を肯定する側に回った。

小樽の件に限らず、明らかに理不尽な扱いをされても、労力、時間や金も掛かるため、被害者はただただ泣き寝入りする人が多い中、この時は「Japanese Only」看板を最後まで下げなかった、小樽の湯の花を相手取って訴訟を起こし、結果、訴えが認められ勝訴に至ったのだった。

小樽の入浴拒否問題が表になったのは1999年9月で、そのおよそ1年前の1998年6月に浜松でも同質の問題が起き、訴訟問題に発展した。浜松市内の宝石店のショーケースを眺めていた女性がブラジル出身者だと解かった店主が、外国人立ち入り禁止であると告げ、店の掛かっていた(浜松警察作成の)「出店荒らしにご用心!」を外し女性に見せ退店を求めた。こうした一連の行為がブラジル出身の原告に対する人種差別行為で、名誉毀損であると原告側の訴えが認められる判決が出た。

最後にあと一つだけ紹介しましょう。2004年9月に起きた出来事である。友人と2人で大阪府内の眼鏡店に行き、店の前で1~2分、ショーウウィンドーの中を見ていて、視力検査の値段を尋ねようと店の中に目を向けた時、店主が出てきて、「黒人は嫌いだ。ドアやショーウィンドーに触るな」などと怒鳴り、入店を拒否された。差別を受けた米国出身の男性は、店の経営者を相手取り、慰謝料などの損害賠償を求める訴訟を起こした。私も裁判を傍聴したが、高裁で、眼鏡店主に対し賠償命令が出された。

日本で実際に起きた外国人差別・排除する、つまり「Japanese Only」関連の事例を三件紹介した。

冒頭でも伝えたとおり、いくら理不尽があっても裁判を起こすのはたいへんなエネルギーが必要とされるため、実際に法の場に持ち込まれていることこそ少ないが、日本の社会で常にどこかで「Japanese Only」が突きつけられている。 もちろん、私も例外ではない。

私が日本で相手に「Japanese Only」と言われ、拒否された回数は、軽く三桁にのぼる。数年ほど前にも経験した。大学の先輩と入った店での出来事である。席に通され、出されたおしぼりで手を拭いている最中に、店の奥から来られた店主に「新人の子が解らず入店させたが、実は店はJapanese Only」だと言われ退店させられ、精神的に深く傷ついたが、裁判を起こすほどのパワーもなく結局は堪えた。

日本には、「Japanese Only」を掲げる言動は問題であるという認識は社会全体として浸透しておらず、共有できていない。訴えがあった場合において裁判で処理されているが、社会全体に対する啓発に至らず、ただただその場しのぎの印象は強く、日本社会全体の認識として蓄積され、成長につながっている気配はない。浦和レッズの応援のため現場にいたほとんどの日本人は「Japanese Only」の幕に対し違和感を覚えず、無頓着だったことは、この社会の現状を表す何よりのバロメータである。

外国人の個人又は、全般に向けて今後とも「Japanese Only」を用いられることは十分ありえる。起こりえる背景を支えている最大の原因は、この国の法整備の至らなさにある。日本には、男女共同参画社会基本法、障害者基本法、高齢社会基本法などさまざまな基本法(弱者を保護する法や差別を無くす法)あるが、外国人に関する基本法だけが未だに存在しない。1965年の第20回国連総会で採択され日本は1995年に批准した、人種・皮膚の色・血統・民族・部族などの違いによる差別をなくすために、必要な政策・措置を遅滞なく行うことを義務付ける国際条約、通称「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」ですが、それに伴う国内法整備をいまだに行っていない。

第1次世界大戦の講和会議であるパリ講和会議では、人種平等を強く訴え、「人種的差別撤廃提案」を行なったのは他ならぬ日本であった(牧野伸顕元外相)歴史をまずは、日本の全国民が知る必要があろう。国際会議において人種差別撤廃を明確に主張した国は日本が世界で最初であった誇りを失ってはならない。

憎悪と争い、そして深い悲しみを誘う「Japanese Only」は繰り返さないために、この際、あらゆる手段を講じる必要があろう。「Japanese Only」は、今回でおしまいにしたい。

※ 参考資料として筆者が書いた下記の記事も合わせて読んでいただきたい。

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社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、経営者、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「ミスターダイバーシティ」と言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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