川崎踏切事故 美談で影の薄い老人の自殺
川崎市の踏切で15日朝、踏切内に立ち入った77歳の男性と、彼を助け出そうとした横浜銀行の人財部主任人事役の児玉征史さん(52)の2人が電車にはねられて死亡した。テレビの報道では、児玉さんの美談にばかり集中している。
たしかに、児玉さんの行為は美談である。とっさに人を助ける行動は誰もができることではないし、児玉さんの勇気は讃えられて当然だ。
ただ報道が美談にばかり偏りすぎている気がする。児玉さんが助けようとした77歳の男性は、警察の発表によれば、自殺するために踏切内に立ち入った可能性が高いと考えられている。
77歳といえば、一般的には仕事もとっくに定年を迎えて、悠々自適の生活を楽しんでいていい年齢である。その彼が、なぜ自殺など考えたのだろうか。
詳しいところはわからないが、77歳でも自殺するほどの悩みを抱えていたようだ。そうした悩みを抱えているのは、彼だけではない。
「平成27年中における自殺の状況」(警察庁)によれば、70歳台の自殺者は自殺者全体の14.4%にあたる3451人となっている。60歳代だと16.5%にあたる3973人である。つまり、60歳以上の自殺者は年間で7424人にも達し、全体の30.9%を占めるまでになっているのだ。
その一方で安倍政権は、高齢者の定義を70歳以上に引き上げることを目論んでいる。年金支給を遅らせるという狙いのほかに、不足する労働人口を高齢者で補おうとしているのだ。
老人を働かせて人手不足を解消しようとしているわけだが、多くの老人が自殺している現実には目を背けているとしかおもえない。働かせるために年金の支給を遅らせるような措置ばかり優先すれば、さらに老人の自殺を増やすことになる可能性も高い。
川崎市の踏切事故も美談がなければ、報道での扱いも小さく、ただ「老人の自殺」とだけですまされていたかもしれない。美談の一方にある「老人の自殺」にも、もっと注目すべきではないだろうか。