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カブトムシ団地の謎。カブトムシの蛹はなぜか狭小集合住宅状態に。

天野和利時事通信社・昆虫記者
カブトムシのオスは、蛹の時から既に王者の風格。

 カブトムシの幼虫が一斉に蛹化(蛹になること)する季節がやってきた。複数の幼虫を飼っていると、なぜか最終的に、まるで狭小スペースの団地のような密集状態で蛹になることがよくある。カブトムシはもしかして「寂しがり屋」なのか。

 調べてみると、カブトムシの幼虫にも、広い餌場(堆肥、腐葉土のたまり場、朽木の下など)の中で、狭い場所に集中する傾向があるようだ。カブトムシの卵型の蛹室(蛹になるための部屋)が密集するのも、そのせいかもしれない。

 しかし、昆虫記者は、もう一つの仮説を立ててみた。

カブトムシの蛹室が並んだ様子は、まるで狭小集合住宅。身を寄せ合うのには何か理由があるはず。
カブトムシの蛹室が並んだ様子は、まるで狭小集合住宅。身を寄せ合うのには何か理由があるはず。

飼育ケースの壁面を利用して蛹室を作ったカブトムシのオス。こういう所で蛹になってくれると観察に便利。
飼育ケースの壁面を利用して蛹室を作ったカブトムシのオス。こういう所で蛹になってくれると観察に便利。

 今年蛹化したカブトムシの幼虫は、わりと広いケースの中で飼っていたのだが、結果的に蛹室は一方の側(仮に右半分とする)に集中し、左半分には全くなかった。しかも、それぞれの蛹室は、極めて狭い間隔で作られていた。

 そして蛹室が集中した右半分の土は、掘るのが大変なほど固く、左半分の土はかなり柔らかかった。

 そこから導かれた仮説は次のようなものだ。カブトムシの幼虫は、蛹化直前になると強固な蛹室を作るために密集するのではないか。

 カブトムシの幼虫は、糞と土と粘液で周囲を固めて、卵型の蛹室を作るという。既に建築中ないし完成間近の蛹室の厚く強固な壁の隣に、新たに蛹室を作る幼虫は、自分の部屋を強固にする手間が幾分はぶける。こうして、次から次へと、隣り合った蛹室が作られ、周囲の地盤全体が強固になっていくのではないか。

 だが部屋同士があまりにも近づくと、隣の部屋の壁を壊してしまう恐れがある。しかしそうならない工夫もあるようだ。蛹化した幼虫は、近くで別の幼虫などの動きがあると、体を壁にぶつけて振動を起こし「これ以上近づくな」という信号を出すと言われている。つまり、ご近所同士、トラブルにならないよう連絡を取り合っているらしいのだ。

蛹がしっかりしてきたら、取り出して観察用容器(100均で調達)に移してもたいてい問題なく羽化してくれる。
蛹がしっかりしてきたら、取り出して観察用容器(100均で調達)に移してもたいてい問題なく羽化してくれる。

真夏になれば、こんな雄姿がまた見られる。
真夏になれば、こんな雄姿がまた見られる。

 こうしてカブトムシの蛹の団地が出来上がる。これは、カブトムシの蛹を観察したい昆虫記者にとっては非常に好都合だ。しかし、団地の中で静かに羽化の時を待っていたカブトムシたちにとっては、昆虫記者の乱入は許しがたい暴挙と言えるだろう。

(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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