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パワーカップルとプアーカップルの夫婦間格差が拡大してしまうワケ

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

上方婚と下方婚

結婚については「女の上方婚、男の下方婚」といわれる。

これは、女性が自分より経済力・年齢・学歴が上の男性と結婚したがり、男性は逆で、自分より経済力・年齢・学歴が下の女性と結婚したがるというものである。

今でも婚活の現場では、女性が「年収いくら以上」と条件を出し、男性は「年齢が何歳以下」という条件を出している事例は多い。だからこそマッチング不全を起こしているわけだが、それはさておき、こういう話をすると「それは結果的に結婚できていない男女が言っている話であって、実際結婚している夫婦はそんなことを気にしたりしていない」という声を聞く。

果たしてそうだろうか?

実際に、結婚したカップルが結婚生活を始めた時点で、それぞれ夫と妻の年収の組み合わせがどうなっているかを調べれば実情が判明する。子が生まれてしまうとそのために離職する妻も一定数いることから、子の無い若い夫婦だけを抽出する必要がある。

実態はどうか?

就業構造基本調査(2017年)のデータより、妻の年齢30歳未満の場合の子の無い夫婦だけを抽出して(子が無いこと=まだ結婚して間もない夫婦であると仮定)、それぞれの年収別に夫婦の組み合わせがどうなっているかを示したものが以下のグラフである。

有業者だけではなく無業者も合算しているが、個別の年収が不明な家族従事者については除外している。ちなみに、妻の年齢30歳未満は、初婚年齢の中央値からみても、半数以上の有配偶女性が該当するものである。

これで見ると、夫の最頻値は300-400万円で、以前よりお伝えしている通り、「男の結婚300万円の壁」といわれるように、少なくとも年収300万円あれば結婚に踏み切れる男性が多いことがわかる。ちなみに、平均値は426万円である。婚活で女性が「年収400万円以上」というのはこの平均値を指しているわけである。

一方、妻の最頻値は150-300万円で、平均値は206万円である。しかし、無業~150万円の合計構成比だけで42%を占めている。

これは、結婚する前は、男性と同様300-400万円の層が多かったのだろうが(結婚は経済同類縁が多い)、いざ結婚した後は年収150万円未満に落として、夫の扶養控除対象になるようにしている妻が多いことを示唆する。

計算上は、確かに「年収300万円同士で結婚すれば、夫婦あわせて600万円になる」のはその通りだが、実際に結婚した20代の夫婦はその通りにはなっていない。

夫の年収別妻の年収構成

とはいえ、年収の組み合わせ別に詳細をみていくと、違う側面がみえてくる。

夫の年収別に妻の年収がどういう構成比になっているかを示したのが以下のグラフである。

夫の年収にかかわらず、大体20%程度の妻は無業である。

ここからは、特に「夫が高年収だから専業主婦になっている」わけではなく、夫の年収にかかわらず無業になる妻が一定数いるということになる。対して、無業や低年収の夫を高年収の妻が支えるという夫婦もほとんどいない。夫が無業なら妻も無業である。

そして、もうひとつ重要な点は、妻の年収300万円以上(グラフ内オレンジ赤枠)の位置の推移を見ると、夫の年収が高くなればなるほど、妻の300万円以上比率も高まっている。夫が年収1000万円以上の場合は、無業の妻比率も多いが、それ以上に、300万以上稼ぐ妻の比率も高いのである。

ここからわかるのは、独身時代互いに高年収同士が結婚すればするほど、結婚後も夫婦あわせての世帯年収は高くなる、いわゆる「パワーカップル」化が進み、これが、もともと年収が低い夫と結婚した場合の夫婦との間の世帯年収格差を広げてしまう結果となる。

提供:イメージマート

夫婦間格差が広がるワケ

実は、かつて専業主婦の多かった昭和時代であり、皆婚時代ではこの格差はそれほど大きくはならなかった。

わかりやすく説明すると、年収600万の夫と結婚した妻が無業になった場合、世帯収入は600万円である。同様に夫の年収が300万だった場合は世帯年収も300万円になるが、それは夫の年収差300万円の違いであり、結婚で広がるものではない。

しかし、夫が600万で妻も600万の夫婦がそのまま共稼ぎを継続した場合、世帯年収は1200万となるが、300万円同士の夫婦の場合は共稼ぎを継続した場合でも600万円でしかなく、両夫婦の世帯年収差は600万円に開く。

しかも、実際は夫婦まったくの同額という例は少ない。夫の年収が高ければ高いほど妻の年収も高く、反対に夫の年収が低ければ低いほど妻は低年収か無業になるという、パワーカップルとプアーカップルの二極化が起きているのである。

提供:イメージマート

以前、独身の男女が結婚や独身に求めるメリットが相反するという事実をご紹介した。

結婚は、もはや贅沢な消費である~独身男女が直面する「結婚の沙汰も金次第」の現実

具体的には、女は「結婚とは経済的裕福を獲得できるメリット」を感じている一方で、逆に、男は「結婚すると経済的自由度が奪われるデメリット」を感じている。

つまり、結婚とは「金をよこせという女」と「金はやらんという男」との攻防戦に陥っており、そんな状態では永遠にマッチングされないわけである。

このあたり定期的に話題になる「奢り・奢られ論争」に通じるものがある。あれも結局「誰からも奢ってもらえない女」と「金がなくて誰にも奢れない男」との間の論争でしかないのだ。

しかし、逆にいえば、現代は「金をよこせなどと強欲なことを言わない女」と「金はやらんなどとケチ臭いことを言わない男」という経済的に余裕があり、だからこそ心にも余裕のある男女だけが結婚できる時代になってしまったということである。

パワーカップルとプアーカップルの二極化というのは結果であり、そもそも中間層の婚姻が減ったということである。全体の婚姻数が減った原因もそこにこそある。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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