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「ミサイル発射は安倍首相のせい」の文言確認できず 産経の見出し不正確

楊井人文弁護士
産経新聞が記事配信時に投稿したツイート(2017年9月16日)

【ファクトチェック】産経新聞は9月16日、ニュースサイトで「金子勝・慶応大教授が『ミサイル発射は安倍首相のせい』 ツイッターに投稿」と見出しをつけた記事配信した。しかし、金子氏のツイッターを確認したところ、「安倍首相のせい」という文言は見当たらなかった。産経の記事本文にも、金子氏が「ミサイル発射は安倍首相のせい」との文言でツイッターに投稿したとは書かれていなかった(追記あり)。

 金子氏も日本報道検証機構の取材に対し「もとより『ミサイル発射は安倍首相のせい』と書いた覚えはありません」とコメントした。

 産経の記事本文で引用されていたのは、金子氏が9月15日午前7時半すぎに投稿した「戦争屋」と題するツイート。この投稿の直前には、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことを政府がJアラートで速報していた。

 金子氏は、このときの投稿で「森友・加計の腐敗を隠そうと北朝鮮を煽り、疑惑だらけのトランプをけしかけ武器を買うアベ」「目指す改憲のために日本を北朝鮮のターゲットにし戦時体制にしたいのか」と安倍首相を強く批判した。弾道ミサイル発射実験を行った北朝鮮の脅威を煽り、憲法改正などに政治利用しようとしていると安倍首相を批判する趣旨とみられる。しかし、産経の見出しにあるように「ミサイル発射は安倍首相のせい」という表現は、金子氏の投稿にはなかった(なお、金子氏の投稿に「国営放送」との表現があるが、NHKは「公共放送」)。

【産経新聞が取り上げた金子勝氏のツイート】

 産経の記事をツイッターやフェイスブックでシェアすると、見出しだけが表示される。そのため、リンク先の記事本文を丁寧に読まない限り、金子氏が「ミサイル発射は安倍首相のせい」とツイッターに投稿したことが事実であるかのような誤解を与える可能性が極めて高い。問題の記事は16日夕方に配信された後、次々と拡散し、産経のニュースサイトでアクセス上位に入った(17日午前9時現在、24時間以内のアクセス2位)。

産経ニュースサイトのSNSアクセスランキング(9月17日午前9時頃)
産経ニュースサイトのSNSアクセスランキング(9月17日午前9時頃)

 日本のメディアでは、引用符(カギかっこ)で発言を報じる際に、実際の発言を大幅に編集してしまうケースが後を絶たない。たとえば、最近では、米国のトランプ大統領が「スウェーデンでテロ」とツイッターに投稿したかのように、産経新聞など複数のメディアが報じたことがあった(【関連記事】=トランプ「スウェーデン」発言騒動 不正確な引用はメディアの信頼揺るがす)。

【追記】産経のニュースサイトの見出しは、9月20日までに「金子勝・慶応大教授が『安倍首相が森友、加計の腐敗を隠そうと北朝鮮を煽り…』とツイッターに投稿」に書き換えられた。訂正は明記されなかった。一方、同一の記事は夕刊フジのサイトにも配信されていたが、こちらの見出しは従前のままとなっている。(2017/9/21 11:10)

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 なお、政府は、15日朝のミサイル発射直後に出したEm―Netの速報で、当初「ミサイルが午前7時4分頃、日本の領域に侵入し、午前7時6分頃、領域から出て…」と発表し、NHKなどがそのまま報道。ミサイルが日本の領空(大気圏内)を通過したとも受け取れる内容だったが、3時間近く後に訂正した。これを受け、石破茂元防衛相がブログで「せっかく警報を発するのであれば、同時に国民にどのような状況であるかも可能な限り正確に伝えなければ、避難すべきか否かの判断がつきません。このようなことを繰り返していると、やがて国民の政府に対する信頼が失われることになるのではないかと強く危惧します」と批判している。

(*) 金子勝氏よりコメントが得られたため、追記しました。(2017/9/17 21:00)

(**) 産経ニュースサイトの見出しが修正されたため、追記しました。(2017/9/21 11:10)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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