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ウクライナ疑惑の真相「選挙のための軍事支援保留はクレイジーだ」渦中の人物が明かした高官たちの交信内容

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
弾劾調査のための下院の質問を受けたカート・ボルカー前ウクライナ担当特別代表(左)(写真:ロイター/アフロ)

 全米に衝撃を与えている「ウクライナ疑惑」が次なる進展を見せた。

 トランプ氏とゼレンスキー氏の電話記録、内部告発者の告発文書の公表に続き、10月3日(米国時間)には、カート・ボルカー前ウクライナ担当特別代表が外交官たちとやりとりしたテキスト・メッセージが公表されたのだ。ボルカー氏は告発文書の中に名前が登場し、文書が公表された直後、辞任したことで注目された渦中の人物だ。

 そのテキスト・メッセージは電話記録や内部告発書の内容を裏付けるような内容だ。米メディアの多くが、このテキスト・メッセージの交信内容から「トランプ氏が、ゼレンスキー氏と首脳会談する条件として、バイデン親子の調査を求めたことが明らかになった」と主張している。

明確なギブ&テイク

 ウクライナ側に、トランプ氏と首脳会談する交換条件として疑惑調査が求められたことは、ボルカー氏が、ゼレンスキー氏の補佐官であるアンドリー・イェルマーク氏に送った以下のメッセージが証明している。ちなみに、これは7月25日のトランプ氏とゼレンスキー氏の電話会談の直前に送られたメッセージだ。

「ゼレンスキー大統領が2016年に起きたことを調査し、真相を究明すると言って(首脳会談するよう)トランプ氏を説得すれば、(ゼレンスキー氏の)ワシントン訪問の日程を確定するとホワイトハウスは言っている」 

 ワシントン・ポスト(電子版)はこのメッセージには明確なギブ&テイクが現れていると分析している。

 そして、ゼレンスキー氏は、電話会談直前のこのメッセージに従うかのように、電話会談の際、「汚職疑惑を担当する次の検察総長を任命するので、その人物が調査する」とトランプ氏に伝えた。

ウクライナ側に声明文を求める

 トランプ氏に「汚職疑惑の調査をする」と伝えたイェルマーク氏は、これで首脳会談が可能になると思ったに違いない。しかし、そうは問屋が卸さなかった。トランプ氏との電話会談直後、イェルマーク氏はボルカー氏に、首脳会談は9月20日〜22日ではどうかと提案したものの、日程は確定されなかったのだ。

 そのため、イェルマーク氏はきいた。「どうしたらホワイトハウスは首脳会談の日程を確定してくれるのか」。この質問に対して、8月9日、ゴードン・ソンドランド氏(米国の駐欧州連合(EU)大使)は、ウクライナ側があるものを用意したら、すぐに会談の日程を確定するとイェルマーク氏に提案した。それは、ゼレンスキー氏がトランプ氏との首脳会談開催について記者会見する際に発表する声明文だ。その声明文には汚職捜査開始を伝える内容を入れることも求められていると推測される。ソンドランド氏はメッセージで「トランプ氏は声明文を欲していると思う」とイェルマーク氏に伝えている。

 ソンドランド氏からそう言われたからだろう、イェルマーク氏は、ルディ・ジュリアーニ氏(トランプ氏の個人弁護士)にコンタクトし、声明文にはどんな内容を入れたらいいのか相談している。

 そして、この翌日、イェルマーク氏がボルカー氏に以下のメッセージを送った。

「首脳会談の日程を確定してくれたら、記者会見を開いて、首脳会談のためのワシントン訪問と、ブリスマ社(バイデン氏の息子ハンター・バイデン氏が取締役をしていた企業)や選挙介入の調査を含め、米とウクライナの関係を再起動させるためのビジョンを発表します」

 つまり、このメッセージで、イェルマーク氏は、アメリカ側が会談の日程を確定してくれれば、ウクライナ側は声明文とともに汚職調査開始を発表すると約束したのだ。

アメリカ側がウクライナ側の声明文作りに加担

 その声明文作成については、アメリカ側も加担した。8月13日、ボルカー氏がソンドランド氏に、イェルマーク氏の声明文の草案を送っている。それには「ウクライナはブリスマ社や2016年の選挙を含む事実と出来事について、透明かつ公平な調査を開始し、完了する。それが将来の問題再発を防ぐことになる」という内容も含まれていた。この草案に対し、ソンドランド氏は「完璧だ」と返答。

 この4日後、ソンドランド氏はボルカー氏に「ブリスマ社と2016年の件は必要か」とあらためてたずね、ボルカー氏は「今のところ、それは明確なメッセージになる」と答えている。

 しかし、結局のところ、この声明文は発表されることはなかった。アメリカ側が会談の日程を確定しなかったからだと推測される。

電話でのやりとりに切り替え

 8月末までに、ウクライナ側はアメリカ側が軍事支援を保留にしていることを知る。軍事支援は、7月25日の電話会談に先立ち、トランプ氏が保留にしていた。つまり、トランプ氏は、ホワイトハウスでの首脳会談だけではなく、軍事支援も、ウクライナに調査を開始させるための交換条件にして取引きしようとしていたと推測される。

 それを証明するかのように、ウクライナに駐在しているウィリアム・テイラー在ウクライナ米国臨時代理大使がソンドランド氏にこんなメッセージを送っている。

「我々は軍事支援とホワイトハウスでの首脳会談を調査の交換条件にしているのか?」

 ソンドランド氏はこのメッセージに対して、「電話をするように」と言った。この後、電話で2人がどんなやりとりを行ったかは不明だ。

 しかし、ここで、ソンドランド氏がテキスト・メッセージから電話のやりとりに切り替えたことについて、ワシントン・ポスト(電子版)が鋭い指摘をしている。

「メッセージを通じてではなく電話で話そうと提案したことは、その高官が、やりとりの証拠が残ることを懸念しているということだ。電話は足跡を残さないからだ」

選挙活動のための軍事支援保留はクレイジー

 9月8日、ボルカー氏、ソンドランド氏、テイラー氏の3人は電話会議を行うことになったが、ボルカー氏だけはそのやりとりが聞けなかったため、テイラー氏がボルカー氏にメッセージを送った。そのメッセージには、

「ウクライナ側がインタビューをしたにもかかわらず、アメリカの軍事支援を得られなかったら悪夢だ。ロシアは喜ぶだろう」

とある。このインタビューというのは、首脳会談と調査開始の声明文を発表する記者会見の際に行うインタビューだと推測されるという。つまり、テイラー氏は、ウクライナ側は調査を開始するものの、アメリカ側が軍事支援を保留にしたままにすることを懸念しているのだ。

 

 翌日、テイラー氏はソンドランド氏にもこの懸念を伝えている。

「ウクライナ側に送った、軍事支援の判断について入れたメッセージが鍵だよ。軍事支援を保留にすることで、アメリカはすでにウクライナ側の信用をぐらつかせてきた。だから、(アメリカが軍事支援を保留にしたままだったら)悪夢のシナリオになる」

 テイラー氏はまた「選挙活動の助け(つまり、ウクライナ政府による汚職調査のこと)を得るために、軍事支援を保留にするのはクレイジーだ」

と伝えている。

 ソンドランド氏はこれに対し、「君はトランプ氏の意図について誤解していると思う。トランプ氏はギブ&テイクはないとはっきり言ってきた。彼は、ウクライナが本当に、ゼレンスキー氏が選挙中に約束した透明性の下で改革を行うか評価しようとしているんだよ」とテイラー氏の考えを否定し、トランプ氏を擁護するような回答をしている。

 しかし、一連のテキスト・メッセージからすると、トランプ政権がゼレンスキー氏と首脳会談する条件として調査を求めたこと、さらには、首脳会談の日程を確定する条件として調査をするという口約束だけではなく、調査開始の表明を入れた声明文を用意するよう求めたこと、加えて、首脳会談だけではなく軍事支援も、調査の交換条件にしていた可能性があることがわかる。

 つまり、トランプ政権が、ウクライナ政府に確実に調査を開始させるべく、次々と外交圧力をかけた様子が窺えるのだ。

 今後も様々な証言や記録が浮上してくると思われる「ウクライナ疑惑」。今後の展開が注視されるところだ。

参考記事:Three deeply problematic aspects of newly released text messages centered on the Ukraine scandal

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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