「虫酸・溜飲・おくび」の共通点は?日本語教師の雑学!実は「胃」に由来する慣用句
お読みくださってありがとうございます!日本語教師の高橋亜理香です。
ひとつのことがらに対して、多くの言葉や表現を持っている日本語。例えば、「務める・勤める・努める・勉める(すべて“つとめる”)」のように同じ音を持ちながら違った意味を持っている同音異義語や、「わたし・僕・俺・あたし・自分…」など、同じ意味を持ちながらまったく違った表現となり、受け取る印象やニュアンスも変わる同義語、類語といったものなど、多種多様です。
今回はそんな日本語から、ある共通項を持った言葉を使用した慣用句を3つ紹介。
◆虫酸(むしず)が走る
◆溜飲(りゅういん)が下がる/を下げる
◆おくびにも出さない
一度は聞いたことがあるであろう、この3つの慣用句に使われている言葉「虫酸」「溜飲」「おくび」には、実は共通点があります。
その共通点とは…
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実はすべてが「胃」に関係する現象の言葉なのです!
慣用句の意味とともに、言葉の意味を確認してみましょう!
不快感を表す「虫酸が走る」の「虫酸」とは胃酸のこと
まずは「虫酸(むしず)が走る」という表現。漢字では「虫酸」または「虫唾」と書きます。そんな「虫酸」とは、実は胃酸を意味する言葉。胃酸が口に向かって逆流していく様子を示していて、転じてそれがむかむかと吐き気がするほどの不快感を表す慣用句となっているのです。「虫という虫が大嫌いで、殺虫剤のイラストを見るだけでも虫酸が走る」などのように、生理的嫌悪感を表すときによく使います。
「溜飲が下がる」の「溜飲」も同じく胃液
「溜飲が下がる」とは「胸につかえていたものがすっきりして、憂うつな気分が晴れる」という意味の慣用句。
「溜飲」というのは、もともと消化不良で逆流してくる胃液を表す医療用語。それを胸につかえる「不満」や「憂うつさ」に例え、その胃液が下がってすっきりすることが、「すっきりと気分が晴れる」という意味に転じたものが「溜飲が下がる」という慣用句です。
「溜飲が下がる」の他に「溜飲を下げる」という表現もありますが、これは単純に自動詞・他動詞の役割で考えればOKです。「溜飲が下がる」は自動詞なので、何らかのできごとで自然に不満が消えていくこと。「部長のパワハラに先輩が物申してくれて、溜飲が下がった」のように使います。対して「溜飲を下げる」は他動詞。「夫にこれまでの不満をすべてぶちまけて、溜飲を下げた」のように、自分の自発的な行動で気分を晴らす、という使い方をします。
「おくびにも出さない」の「おくび」=げっぷ
「おくびにも出さない」という慣用句は「ものごとを隠して、決して口に出さず素振りすら見せない」という意味です。「おくび」とは、胃に溜まったガスが逆流して口から出る、いわゆる「げっぷ」のことを表す医療用語。漢字では「噯(おくび/あいき)」と書きます。「げっぷを出さない」=「口にしない、外に出さない」に転じて「彼は幼少期からとても苦労してきたが、そのことをおくびにも出さない」のように使用し、「話さないし、素振りも見せない」という意味を表しています。
たくさんの表現がある日本語
「虫酸」「溜飲」「おくび」…語感はまったく違うのに、どれも「胃」という共通点を持つ似た言葉。日本語は表現力の豊かな言語ですね。慣用句も言葉の由来がわかれば俄然覚えやすくなります!
過去から現在、未来へ何百年、何千年と続いていく日本語を、皆さんも楽しんでください!