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80代親の「延命治療」を断ろうとしたら、妹から「餓死は嫌」と責められた

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 医学が進歩し、ある程度死期を延ばすことができる時代となっています。急に、老親がそのときを迎えてしまったら? 本来、本人の命のことなので、本人が決断するべきことだと思います。けれども、本人の意思確認が困難であれば、家族が決断を求められることになります。

そのとき7割は自分で決められない

 命の危険が迫った状態になると約70%の人が、これからの医療やケアなどについて自分で決めたり、人に伝えたりすることができなくなるといわれています。

 そのためでしょう。親を看取った人に後悔していることを問うと、「最期の治療方法への希望を聞いていなかったこと」と答える人がとても多いです。正解のないことだけに、本人の気持ちを知らないと、どうしてあげれば良いか分からないからでしょう。

 2人のケースを紹介します。

Aさん(50代)のケース

 母親(80代)は誤嚥性肺炎を繰り返し、口からものを食べることが難しくなりました。医師から、胃ろうを造設して、直接胃に栄養を入れる方法を提案されました。Aさんは判断に迷い、医師に「胃ろうにしなければ、どうなりますか」と聞きました。医師は「餓死のような感じですね」とひと言。Aさんは餓死という言葉に驚きましたが、母親なら、「胃に穴をあけてまで生きたいとは考えないだろう」と推測。けれども、Aさんの妹は「餓死なんてさせられない。かわいそう。生きてほしい」と泣いて訴えました。話し合いは平行線に。

「母の真意はわからないし、妹が生きてほしいと言っているのに、私一人の判断で母の命を奪うことはできませんでした」。結局、胃ろうの治療をしてもらい、1年後に母親は亡くなりました。今も、Aさんは「あの判断は正しかったのかわからない」と気持ちを引きずっています。

Bさん(50代)のケース

 父親(90代)が病院に運ばれ、もう長くないと言われました。延命のための治療を望むかと聞かれました。見殺しにするような気になり、「点滴だけはお願いします」と言いました。結果的に1週間ほど命は延びたのかもしれません。けれども、やせ細っているのに全身がむくんでしまい、「かわいそうなことをしました」とBさんは悔やんでいます。

餓死?平穏死?

 AさんBさん、どちらのケースも後悔を残しています。けれども、どちらも親のことを思ってのこと。間違った選択ではなく、その気持ちはきっと本人に伝わっているはずです。

「胃ろうをしないと餓死」と言う医師が一定数いるようです。しかし、必ずしも正しい表現ではなく、造設するメリットもあるようです。また、末期の患者が延命治療などを受けず、自然な衰弱にまかせて死亡することを「平穏死」と呼びます。

「餓死」と「平穏死」では、あまりにもイメージが異なります。本人の価値観や考え方にもよるので、やはり元気なうちに話し合いを持つことが重要だといえるでしょう。

医療・介護のプロは「望む」が少ない

 延命治療についてどう考えるかを聞いた調査があります。

 下グラフの通り、「口から十分な栄養をとれなくなった場合、首などから太い血管に栄養剤を点滴することを望むか、望まないか」については……。一般の人(医療職、介護職以外)で「望む」と答えているのは19.4%。2割弱です。医師・看護師・介護支援専門員にも聞いていますが、「望む」は一般の人より少数で、「鼻から管を入れて流動食を入れること」についても似た結果です。人工呼吸器の利用などに関しても同様の傾向が見られます。

令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査(厚生労働省)
令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査(厚生労働省)

「事前指示書」を書いてもらいたい

 悔いを残さずに、最善の判断をするためには、本人の意思を聞いておくことが重要です。

 終末期医療(ターミナルケア)をどうしてほしいのかを意思表示をするための書類を「事前指示書」と呼びます。インターネットで検索するとひな型がいくつも出てきます。決められたフォーマットも、法的強制力もありません。しかし、通常、医師をはじめとする医療従事者や介護従事者は、事前指示(本人の意思)を基本にしたうえで治療に関する方針を決定するようです。

 しかし、国の調査によると、事前指示書を支持する人は多いものの、実際に作成しているのは8.1%と少数。元気なうちは「そのうち書こう」と思ってしまうのでしょう。親に書いておいてもらえると、本人の意思を尊重でき、家族の気持ちの負担はかなり軽減すると思います。

「シニアの暮らし便利ブック」(太田差惠子著)
「シニアの暮らし便利ブック」(太田差惠子著)

「大切なことはどんなこと?」と聞くことからスタート

 人生の最終段階の医療・ケアについて話し合っておくことを「人生会議」と呼びます。

 下記は、「人生会議」(厚生労働省)のウェブサイトで紹介されている質問です。親に対し、「延命治療についての希望は?」と切り出すのはためらわれても、「少しでも長く生きることは大切?」「できる限りの医療が受けられることは大切?」なら聞きやすいのではないでしょうか。その答えでも、十分、そのときの参考となります。

「大切なことはどんなこと?」なら、正月帰省時に聞いても不快な気持ちにさせることはないのではないでしょうか。

ゼロからはじめる人生会議(厚生労働省)
ゼロからはじめる人生会議(厚生労働省)

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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