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緊急事態宣言が日本全国に拡大、学童保育現場も心の重大局面

平岩国泰新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

 緊急事態宣言が全国に拡大されました。東京都など7都府県は先行して実施していました。様々な変化に対応し続ける学童保育の現場も今がまさに重大局面です。学童保育の現在の状況をレポートします。

〇学童保育の利用者数は自治体の案内の仕方により異なっている

 緊急事態宣言を受けて、学童保育の利用者数は自治体が保護者に出す案内によって異なる状況が起きました。実際には下記のような文言で案内が出ています。

A自治体

国の緊急事態宣言に伴い、学童保育を臨時閉室します。

臨時閉室中にお預かりする児童は

1.世帯全員が警察官、消防官、自衛隊員及び医療従事者のご家庭の 1~3 年生

2.上記1以外で、特別な事情がある児童

B自治体

緊急事態宣言以降も学童クラブを継続しますが、ご家族や勤務先と調整をいただき、利用の自粛をしていただけるよう、ご協力をお願いいたします。

いったん「閉室」とする厳しめのA自治体の案内と、「継続」と表現する緩やかなB自治体では明らかに利用者の数が変わってきます。

 また緊急事態宣言後の学童保育の利用にあたっては、多くの自治体が希望する場合は改めて保護者が申請書を再提出する運用をとっていますが、それをとっていない自治体もあります。

「閉室宣言」×「利用申請書の再提出」という運用をとって、ようやく通常の10分の1程度の利用者数になる感覚です。それをとっていないと未だに通常時の3分の1程度の人数が来ている学童保育もあります。

〇運営する学童保育をまとめたいがそうはいかない

 緊急事態宣言後は、来ている子どもの人数は5~10人程度の学童保育も多いです。そうなると、全ての学童保育を開室ではなく、できれば2つの学童保育を1つにまとめるなどすればスタッフの効率化がはかれますが、それは行われていないです。理由としては下記が考えられます。

・通いなれていない場所に通うのは親子ともに負担が大きい

・学童保育はスペースが狭いので3密を防ぐにはこれくらいでちょうど良い

・自治体の直営ではなく事業者への業務委託や公設民営が多いので運営主体が異なる

 このような理由もあり、少ない人数とはいえ開室を続ける学童保育が多く、スタッフの出勤が続いています。

〇学童保育スタッフの心の重大局面が来ている

 3月より全日の開室が2か月近く続き、当然体力的には厳しいものがあります。今はそれ以上に心の面で厳しさが出ています。そして心の課題の方が深刻です。スタッフの不安は以下のようなものです。

 まず、これだけ感染が拡大し続けている中でまさに自分自身の健康維持が不安です。命を張っている気持ちで現場に出ることになります。本音を言えば出勤に抵抗があるスタッフの方も多いと感じています。あるいは、万が一現場で感染が起きたらどうしよう?という不安は非常に大きいです。そのことで強く責められるような風潮も大きな不安となっています。「閉室は難しいのか」という声も少なからずあがっています。

 利用する子どもの数が減った分スタッフの出勤人数も減らすことになりますが、このことでスタッフ間での心の溝が出きてしまうこともあります。責任者や家が近いスタッフなどが優先して出勤することになりますが、「他の人が休めても、自分は出なくてはならない」ということに前向きになれない感情も生まれてしまうのは仕方ありません。スタッフにも子どもがいる方も多く、自分の家庭のことはないがしろになってしまいます。「“STAY HOME”というメッセージが羨ましい…」という声も聞きました。

 3月からずっと使命感で頑張ってきましたが、感染拡大が全国的に止まらないことで、恐怖心が使命感を飲み込み始めているのが現在の状況です。

〇今後想定しておきたいこと

 現在は気持ち的にはギリギリの重大局面で、出勤できるスタッフが確保できずに開けられない学童保育も今後出てくる可能性があります。GW明け以降も緊急事態宣言が延長された時には特にその懸念があります。そのために以下4つの方策を構えておきたいところです。

1.午前中は学校で受け入れる

 かねてから主張してきた学校の場所・人の活用ですが、あまり進んでおりません。多くの先生が出勤するのは本意ではありませんので、最少の人員で午前中だけでも見てくださると学童保育のスタッフは本当に助かります。

2.開室時間を短くする

 学童保育の時間は多くが8時~19時です。これだとスタッフは7:30~19:30の12時間を勤務で抑える必要があり、2交代制をとらざるを得ません、そのことで出勤の絶対数が増えます。9時~17時の開室など時短運営に切り替えれば、2交代制でなくて良いので、出勤の絶対数が抑えられます。このように動いてくれる自治体もありますが、まだまだ多くがそのままの時間での開室を続けております。

3.土曜日を休みにする

 学童保育の多くが土曜日も開室しています。可能であれば今は土曜日をお休みにするのが良いと思います。実際にそうなった自治体もあります。

 もしくは利用者がない場合は休むということも考えられます。というのも、学童保育によっては土曜日の利用者は1人だったり0人だったりします。0人だと当然閉めるかと思いきや、自治体によっては「仕様書どおりの出勤で」と出勤を求められてしまいます。この非常時でも、本当にこんなことが起きるのです。ルールも大事ですが、非常時ですので、何を最も優先するか(=学童保育の体制維持)については強く意識をしてほしいことです。

4.開室する学童保育を絞る

 2つの学童保育を1つにするなどの策が考えられます。簡単ではない点も書かせていただきましたが、そのようにしてスタッフの出勤を抑えておきたいところです。ただし上記1、2、3の施策が優先されるとは思います。

 最前線で頑張る医療従事者やエッセンシャルワーカーの皆様を支えるために準最前線として使命感で頑張ってきている学童保育ですが、医療現場だけでなく体制が崩れてしまう重大局面にいると感じています。ですが何とかここも体制維持をして最前線を支えたいところです。

 ご支援を申し出てくださる方もいらっしゃるのですが、なかなか具体的なご支援方法がないのも申し訳わけないところです。

 どうか学童保育スタッフの現場を応援してくださると嬉しいです。3月から現在までで今が最も厳しい局面です。スタッフの心の崩壊をなんとか防がねばなりません。

新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員、2023年~教育長職務代理。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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