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恋人と旅行中に薬物で逮捕される役で主演の山﨑果倫 「一度や二度の過ちは人を決定づけるものでなくて」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)ノブ・ピクチャーズ

公開中の映画『夢の中』で幻想の中を虚ろに漂う主人公を演じた山﨑果倫。立て続けの主演作『輝け星くず』も公開された。こちらでは、恋人との旅行中に薬物使用で逮捕されるという生々しい役。父親との確執も抱えながら、失敗に容赦ない社会で底辺からの脱出に投げ掛けをする。まったく違う役柄を演じ切った中での想いを語ってもらった。

タバコを役のために1日1本吸いました

――去年、金髪にした写真がインスタに上がっていた時期に、『輝け星くず』を撮っていたんですか?

山﨑 2年前の11月と去年の5月に撮りました。初めてブリーチして、髪が想像以上に傷みました(笑)。今も毛先に残っているところがあります。

――他に、撮影前に準備でしたことはありますか?

山﨑 私が演じたかや乃はタバコを愛している役だったので、1日1本必ず吸って練習しました。

――それまで吸ったことは?

山﨑 一切なかったんですけど、2回の撮影期間の1ヵ月前から、吸い出しました。

――最初はゴホゴホしてしまったり?

山﨑 全然吸えなかったです。周りの喫煙者の方に教えてもらったり、映画のタバコを吸うシーンを観て参考にしようとしました。

――最近の映画は、喫煙シーンが少なくなっていませんか?

山﨑 そうなんですよね。意外となくて、結局は自己流になりました。

運動神経が悪いので自転車の2人乗りが怖くて

――前半のかや乃と恋人の光太郎(森優作)のシーンは楽しげでした。

山﨑 ニュートラルな感じで、2人がどういう関係性か、観てもらえるシーンが詰まっています。かや乃はとにかく自由で天真爛漫。ただただ光太郎のことしか見てない時間を、作るようにしていました。

――自転車で2人乗りをしたり。

山﨑 あれは結構怖かったです(笑)。もちろん、撮影では安全のためにいろいろ工夫されてましたけど、私は運動神経がすごく悪くて。自転車の後ろに乗ることさえ大変でした。

――でも、山﨑さんはバスケ部だったんですよね?

山﨑 バスケも本当にへたくそで、試合に出たこともほとんどありません。このお仕事を始めてからも、運動神経の悪さは付いて回るなと思っています(笑)。

――映画の中では、後ろから光太郎を目隠しして、笑っていました。

山﨑 安全かどうかも考えず、行動が先走ってしまうのが、かや乃らしいと思って演じていました。

リミッターが外れたことを意識しました

――お店で酔い潰れて、迎えに来た光太郎と帰るシーンもありました。

山﨑 実はあれはほとんどアドリブで、台詞はあまり付けられてなかったんです。光太郎役の森さんとも打ち合わせをせず、私はただベロンベロンになっているお芝居をしていました。

――実際、あんなふうになることが?

山﨑 私はなりませんけど、あんな感じになる友だちはいて、見たことはあるなと(笑)。かや乃だったらどうなるだろうと考えると、めちゃくちゃデレッとするところでもあって。お酒でリミッターが外れた部分は、すごく意識しています。

――ベッドで両足で光太郎を挟んで絡みつくのは、会話に出たラッコのイメージですか?

山﨑 そうです。監督から指示されたこともありましたし、私から「こうしたらラッコっぽい」と提案もさせていただきました。アクションみたいでしたね。

――実際のラッコの動きを動画とかで観たり?

山﨑 観ました。でも、ラッコは人間より手が短いので。そのままにはならないけど、何となく動物的な動きができればいいかなと。

好きだからこそ正気でいられない弱さ

――かや乃は光太郎に「かわいい」と言ってましたが、そういう目線もあったんですね。

山﨑 めちゃめちゃ愛おしくて、かわいい存在ですね。あと、かや乃は依存心が強いなと思っていて。お酒にもタバコにも、たぶん光太郎にもすごく依存している。その部分は大切にしていました。

――それで薬物もやめられなくなったと?

山﨑 光太郎のことが好きで大事であるほど、正気でいられない。自分の過去との兼ね合いもあって、薬物がないとごまかせない弱さは、映画では描いてもいいと思っています。

――いつ頃から薬をやっていたとか、イメージはありました?

山﨑 考えました。台詞からもやり始めで、そんなに前からではないのかなと。だからガリガリに痩せる必要はなくて、若気の至りで、まだ歴は浅いイメージでした。

甘えたい気持ちから攻撃的になって

――子どもの頃の記憶がフラッシュバックするシーンも何度かあります。その辺のバックグラウンドも掘り下げました?

山﨑 本当にトラウマを抱えている人は、それを常に意識しているというより、心にベッタリ張り付いている感じだと思うんです。かや乃を演じるときも、バックグラウンドを常に抱えてはいなくて、過去からの衝動性が生まれていて。なぜそうなるのか、という中に、母親と父親への気持ちがある。経験した出来事より、人に対する感情のほうを考えたかもしれません。

――父親にはキツいもの言いをしていました。

山﨑 ああいう台詞では、お父さんに対して、めちゃめちゃ甘えているのを感じました。

――「死ねよ」とか、表面的な言葉とは裏腹に?

山﨑 お母さんに甘えられなかった分、お父さんに甘えたい気持ちが全面に出て、あんなに攻撃的になったんだと思います。

良いのか悪いのか周りがレッテルを貼る風潮

――この映画の紹介では「社会が失敗に容赦なく、再スタートを切ることが困難な今の世の中」と謳われています。それは山﨑さんも実感していることですか?

山﨑 今はちょっと何かしたら、すべてを知られてしまう。良くないことが正される世の中になるのは、いい部分があるとしても、良いのか悪いのかわからないグレーな部分を、「これは良い」「これは悪い」と周りがレッテルを貼る風潮を感じます。そうなると、一歩踏み出すのが怖くなってしまう。

――過去の失敗をいつまでも持ち出されて、叩かれたりもしますからね。

山﨑 誰でもいろいろな道を通ってきているのに、当人同士の問題を周りがどうこう言うことも含め、どうなのかと感じます。失敗してもリベンジしやすい世の中になれば、みんな絶対生きやすくなる。この映画ではそれを、ちょっと極端に描いていて。一度や二度の過ちは、その人を決定づけるものでは絶対ない。たとえば薬物をやった人は必ずこうだとか、決められることではない。それが描かれているのが、この映画のいいところだと思います。

誰よりも救われたいから愛情深くなって

――かや乃の心情は実感できましたか?

山﨑 危なっかしすぎて、自分と似ている部分があるとは思えません。でも、私も両親に対して「何で?」と思ったことを、掘り起こしたりはしました。かや乃にとってのお酒やタバコが、私には何だろうとも考えて。

――人に愛情深いところは、山﨑さんと重なりませんか?

山﨑 そうですね。でも、愛情深いほど欲深いとも思うんです。与える人はその分、欲しいとも思っている。私もそうで、与えることは大好きですけど、どこかで自分に返ってくるはずと、居場所を求めてやっている気もします。逆に言えば、救われたいと思っている人ほど、誰かを救いたいのかもしれない。かや乃は誰よりも救われたいからこそ、愛情深いようにも思いました。

――一方で、かや乃は「私はブレーキがぶっ壊れてる」とも言っていて。

山﨑 かや乃の中にブレーキというもの差しがあるから、そう思うのであって、誰でもブレーキが壊れている部分はありますよね。かや乃には過去の一連もあるから、お父さんに対しても自分に対しても、ブレーキが壊れているのを感じているだけで、あまり特別視はしないようにしていました。

人との距離感を間違えるのを役に入れました

――自分を止められないからと、光太郎に「このままきれいに別れよう」と告げるシーンもあります。

山﨑 思っていることと言っていることは、必ずしも一致してなくて。そのコントラストを一番感じたシーンです。離れたくなければないほど、ああいう言葉になってしまうから難しくて。でも、撮影では確か一発OKでした。監督が解釈を私に任せてくださって、最初から「それで行こう」となって。

――あの泣き顔も自然に出ましたか?

山﨑 そうだったと思います。自然と悲しくなりました。

――この撮影全体を通じて、演技で悩んだことはそれほどなかったですか?

山﨑 そうですね。ニュートラルなお芝居でキャラクターっぽくせず、監督からも「そのままで」と言ってもらうことが多かったので。

――軸は天真爛漫な役ということで。

山﨑 あえて天真爛漫に演じようとしなくても、脚本の台詞に引っ張ってもらえた感じがします。ただ、私も人との距離感を間違えてしまうことがあるんです。近すぎたり、明るすぎたり。それをかや乃に結構入れました。

明石海峡大橋を見て癒されてました

――ロケ地の明石について、印象的だったことはありますか?

山﨑 明石焼きがめちゃめちゃおいしかったです(笑)。あと、とにかく空がきれいで、明石海峡大橋も初めて見たときは感動しました。海も穏やかで、何回見ても癒されていました。

――そう言えば、山﨑さんは東京ではレインボーブリッジの遊歩道でよく散歩をすると、インスタに載せていたことがありました。

山﨑 あそこは穴場で、歩いている人はほとんどいなくて。『夢の中』の撮影前に、ダイエットのために毎日10キロのウォーキングをしていた頃、よく行ってました。素敵な場所ですよね。

――芝浦からお台場まで30分くらいかかりますが、湾岸のいろいろな景色が見られます。

山﨑 風がめっちゃ強いんですけど、海を眺めながら歩くのは気持ち良くて。明石海峡大橋を見たときも、レインボーブリッジを思い出しました。夜の景色がちょっと似ています。

振り幅を観てもらえる機会はありがたくて

――『夢の中』に『輝け星くず』と主演映画が立て続けに公開されて、誇らしい感じはしますか?

山﨑 全然違う時期に撮ったので、偶然を感じます。役柄も全然違っていて、良いこととしては、両方をこのスパンで観ていただく方に「同じ人?」と思ってもらえるのではないかと。私の振り幅を観てもらえる、すごくありがたい機会だと思います。

――確かに、並べて観ると、山﨑さんの女優としての力量をより感じます。

山﨑 まだ未熟ですし、反省点が浮かぶ部分も正直あります。でも、それぞれの撮影で一生懸命、誠心誠意やりました。それを受け取ってもらえたら嬉しいです。

――以前、仕事メモをつけているとうかがいましたが、今も続けているんですか?

山﨑 心が決定的に動いたとき、感情日記みたいなものを書いています。ノートに喜、怒、哀、楽とか、愛とか、驚きとかページを分けて、「こういう気持ちになった」と綴っています。グーンとなったときは、殴り書きだったりもしますけど(笑)。役を演じるとき、こんな感情が必要だと思ったら、そのページを読んで思い出す。そういう使い方をしています。

――それで最近、自分について発見したこともありますか?

山﨑 今は映画公開に向けた緊張感が、自分の中で多くを占めています。まだ紐解けてない部分がいっぱいあって、まとまってないかもしれません。でも、新鮮なことがたくさんあるので、楽しいです。

(C)「夢の中」製作委員会
(C)「夢の中」製作委員会

別の人の人生を生きる境地まで行けるように

――これからもカメレオン的な女優を目指していくのですか?

山﨑 それを自分で決めていいのかどうか、わからなくなってきました。何もやってなかった頃は、ああなりたい、こうなりたいというのがありましたけど、実際やってみると、目指すものが逆にクリアでなくなって。『夢の中』と『輝け星くず』でも全然違いますし、世間の方や業界の方に決めてもらうものなのかな、という気持ちになってきています。

――その分、求められたことには、すべて応えていくと?

山﨑 必ずそうなりたいです。役を演じるというより、別の人の人生を生きているという境地まで行くのを、目標にしたいです。

――磨かないといけないこともありそうですか?

山﨑 いろいろな人と出会って、人間について知ることですかね。いつも何かに興味を持って、日々を過ごしていこうと思います。

レプロエンタテインメント提供
レプロエンタテインメント提供

Profile

山﨑果倫(やまざき・かりん)

1999年10月8日生まれ、愛知県出身。2015年にレプロエンタテインメントとソニーミュージックの合同オーディションに合格。2017年に舞台デビュー。主な出演作はドラマ『作りたい女と食べたい女』、『ひともんちゃくなら喜んで!』、『隣の男はよく食べる』、映画『赤い私と、青い君』など。映画『夢の中』、『輝け星くず』が公開中。

『輝け星くず』

監督/西尾孔志 脚本/いとう菜のは、西尾孔志

出演/山﨑果倫、森優作、岩谷健司、片岡礼子ほか

新宿K’s cinemaほか全国順次公開中

(C)ノブ・ピクチャーズ
(C)ノブ・ピクチャーズ

恋人のかや乃(山﨑果倫)が突然逮捕されて、光太郎(森優作)は呆然と日々を過ごしていたが、彼女の父・慎介(岩谷健司)から呼び出される。かや乃が拘留されている四国まで連れて行くことを引き受け、自称パニック障害の慎介とギクシャクしながら車で向かう旅の途中、彼がこの世にいないことになっている人物と発覚する。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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