どうしてもヒトラーを思い出してしまう国会審議の中身
フーテン老人世直し録(58)
如月某日
フーテンはこの通常国会を「民主主義」という視点で観察すると宣言した。その視点から見て予算委員会での安倍総理と籾井NHK会長の発言は、驚きと言うより恥ずかしさを感じさせるものだったが、メディアはそのことを全く問題視していない。
安倍総理は「自分は国民の代表である国会議員の多数によって選ばれたから、行政府のトップであると同時に立法府のトップでもある」と言い、秘密情報のチェックは総理が行えば事足れりとした。また安倍政権の意向でNHKに押し込まれた籾井会長は、放送法違反に当たると思われる記者会見での発言をすべて「私的な考え」と撤回し、陳謝すれば乗り切れるという姿勢をあからさまにした。民主主義にとって極めて重大な事態をメディアは何も感じていない。
何度も書くが、ヒトラーは選挙で国民の多数の支持を得て権力者に選ばれた。そして国民の支持を持続させるためメディアの情報操作に力を入れた。「プロパガンダの天才」と呼ばれた宣伝担当大臣のゲッベルスは、大衆の扇動を可能にする媒体としてラジオに目をつけ、国民の啓蒙と称して国民を洗脳した。
国民に熱烈に支持される方法は外に敵を作ることである。その敵を徹底して排撃することが国民の人気を高める。ゲッベルスによって反ユダヤ主義がドイツ国民に醸成された。また1936年のベルリン・オリンピックの演出を仕切ったゲッベルスは、オリンピックを感動の祭典に仕立ててナチスの宣伝に利用した。
ヒトラーを独裁者にするためゲッベルスが使った手段は国民投票である。洗脳された国民はヒトラーを国家元首の地位に押し上げ、多数の意思によって独裁政治は生まれた。民主的と思われる国民投票が民主主義を死滅させたのである。権力のメディア操縦と国民投票という直接民主主義がいかに恐ろしいかを欧米社会は身をもって知っている。
その感覚が日本人には希薄だとフーテンは感ずる。国民が選挙で選んだから民主主義なのではない。多数決で決めたから民主主義になる訳でもない。民主主義だと思わされる事で民主主義は死滅する。その認識がこの国の国民にもメディアにも欠落していると思うのである。
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