西野ジャパンというミステリー
親善試合に結果は必要ない
練習試合、親善試合は結果を出しても意味がない。特に「本番2,3週間前」はむしろ悪い出来でいい。それは自分がサッカーを見続けてきて得た教訓だ。
ジーコジャパンは2006年のドイツ大会の2週間前にドイツと親善試合を戦い、2-2で引き分けた。しかし本大会は1分け2敗で敗退している。
岡田ジャパンは4連敗で2010年の南アフリカ大会に乗り込んだ。国内最終戦となった日韓戦も0-2といいところなく敗れ、スタジアムが険悪なムードになったことを思い出す。しかし本大会はベスト16に進出した。
コンディションには波があり、大会2週間前、3週間前は「徐々に追い込む」時期だ。疲労から回復した「ちょうどいい状態」を迎えるのは試合日でいい。コンディションが整うことで、戦術の遂行力は上がる。戦術的にもまだ修正点を「探す」時期で、課題が生じること自体はネガティブでない。もちろん「手の内」も見せない方がいい。
つまり「壮行試合」と本番の結果が比例しないことは理解している。だから5月30日のガーナ戦の0-2という「結果」は気にしなくていい。本田圭佑や武藤嘉紀が決めるべき場面で決めていれば、結果も変わっていただろう。
ただし「それ以外」の問題が目についた。どれだけポジティブに解釈しても、本大会に向けた明るい予感は持てなかった。
「失点に直結するパスカット」が多発
[3-4-2-1]の布陣、コンセプトは悪くない。守備時に[5-4-1]のオーガナイズを作る設計も含めて理解できる。ガーナの遅い攻撃に助けられたが、人に寄る動きとスペースを埋める動きの見極めがおかしい場面はあった。布陣が崩れて「ごちゃごちゃ」になる傾向も見て取れた。しかしその問題に限れば、6月19日のコロンビア戦までに解消できると期待している。
[5-4-1]の布陣で深くブロックを作り、相手を引き込みつつ選択肢を奪う発想も分かる。そもそも今からハイプレスの連動を構築する時間はないだろう。外で数的優位を作り、そこから敵陣へ侵入していくという攻撃の設計も分かる。外にはスペースがあるし、中央で奪われるよりもカウンターを受けるリスクが小さいからだ。
ただし深いDFラインから攻撃がスタートする場合に「ボールを交換しながら全体で押し上げる」アタックは機能しないだろう。時間と手数を掛ける間に、相手の陣形も整ってしまうからだ。攻撃の連係、クオリティの構築は時間のかかる部分で、そもそも守備の課題が先決だ。
ガーナ戦の日本はサイドに人を掛けつつ、攻めが行きづまる場面が頻出した。サイドから中への横パスを狙われ、ガーナに踏み込んで奪われた。リスクを避けやすい攻撃なのに、なぜこうなるのかという謎が心中に広がった。0-2というスコア以上に、「失点に直結するパスカット」が1試合で4回5回と多発したことは衝撃的だった。
「ボールを持つことがピンチになる」という状況は論外だし、守備にも悪影響が生じる。「どう点を取るか」でなく、「危険な奪われ方をしない」「セットプレーを獲得する」という現実的な方向へシフトするしかないだろう。
不可解だったラスト10分
試合に話を戻すと、ガーナにリードされる展開を見ながら「これはチャンス」だと感じた。本大会に入れば、日本がリードされる展開が必ずある。「リードされている状況での攻撃的オプション」に実戦でトライできる状況は貴重だ。もちろん世界レベルの相手が守りを固める状況を必ず攻略できる戦術などないが、意思統一は必要だ。
しかしガーナ戦の西野ジャパンは[4-4-2]への布陣変更こそしたが最後まで攻撃のテンポを上げなかった。「上がらなかった」のかもしれない。足が止まったガーナを相手に何もできないラスト10分はどうにも不可解だった。
西野ジャパンは大会2か月前に指揮官を交代するという人事も含めて、普通の代表チームでは起こりえない現象を観察できるユニークなチームだ。1試合を軽く見ただけであれだけ「ミステリー」を感じられる代表チームは他にない。その謎を解くプロットは率直に言って思い浮かばないが……。本大会で想像外の大どんでん返しが起こることを願いたい。