SNSから生まれた「#愛知Twitter会を巡る旅」。新しい着地型観光となるか?
企業・団体のSNS交流がきっかけの全国初のイベント
去る11月14日、名古屋市内で「#愛知Twitter会を巡る旅」なるイベントが開催されました。ビルの会議室を利用した会場に集まったのは愛知県内の6企業、そして一般参加者約50名(午前・午後の2部制。参加者数はのべ)。おそらく全国でも初めてというこの試み、一体どんなイベントなのでしょうか?
「愛知県内のTwitterアカウントを持つ企業や団体の集まりが#愛知Twitter会。現在(2021年11月14日現在)106アカウントが参加し、毎月1~2アカウントのペースで増え続けています。日ごろはお互いにリツイートしたり、実際に訪問してその様子を投稿するなど、交流を通した相互PRや、一緒に愛知県を盛り上げるための投稿を図っています。普段はネット上でつながっているこれらの企業・団体、そしてフォロワーさんとリアルの場で交流を持ちたい、推しアイドルならぬ推し企業に会いに行く、と考えて企画した催しです。また、愛知県は観光に魅力がないと言われがちですが、それに優る魅力的な企業がたくさんあり、“企業=観光の目的地”にもなると考えたのです」とはイベントの発起人である名鉄観光サービスの菊池翔真さん。
旅先は出展する企業。クイズあり、おみやげあり、プレゼントあり
筆者が参加した第2弾・午後の部は6つの企業・団体が出展。和菓子店、タクシー会社、縁日玩具卸、地域のPR情報サイト、カフェ、業務用パンメーカーと業種はバラバラ。各社・団体の“中の人”が15分ずつプレゼンテーションを行います。自社の商品やサービスをからめたクイズあり、非公開の工場内の動画あり、製品づくりの実演やプチワークショップありと内容も盛りだくさん。つばめ自動車のクイズでは1万3000円相当のタクシー貸し切り券が当たったり、パンメーカー・永楽堂では食パン1本の重さ当てクイズでパンが進呈されたりと、参加型の演出も各社が工夫をこらし、会場をわかせました。
参加費は3900円。ノベルティグッズの詰め合わせセットやおみやげ、プラスαでクイズによるプレゼントも盛り込まれるので、十分にモトが取れる内容となっています。
つながっている企業ともつながっていなかったフォロワーとも交流できる
出展した企業・団体はユーザーと交流できることが大きな魅力だったといいます。
「当社はゴム風船などを中心とした縁日玩具の卸問屋。売り上げ数、在庫数とも日本一なのですがあまり知られていない。一般の方と直接交流しながら知っていただくいい機会になります」(キッシーズの中の人)「Twitterでプレゼント付きクイズを毎週やっていて、今日はそのリアル版。リアルイベントをやりたいと思っていた矢先にコロナ禍でできなくなってしまっていたので、ようやく実現できました」(つばめ自動車の中の人)
一般参加者も、フォローしている企業とのリアルな交流に価値を見出しているようでした。
「知っている企業もあれば初めて名前を聞く企業もあってどちらもワクワク感がある。それぞれの企業の特徴をより深く知ることができて面白かった!」とは名古屋市内の40代女性。「私も普段は“中の人”なんですが、今日は旅気分を味わいたくて4歳の息子と一緒に参加しました。SNSでのつながりをリアルで体験できる機会はなかなかないので、フォローしている会社のことがよく分かってよかったです」と20代女性。「“中の人”と実際に会えると親近感がわいて応援したいという気持ちになれる。いろんなトリビアを知れて、おみやげもおトク。初回、2回目と参加していて、次回も参加したい!」とは市内の女性イラストレーター、はるさわちゅんぴさん。彼女は第1回に参加した際の様子をマンガに描き、Twitterに投稿したところ大きな反響にもつながりました。
「初めての催しなので、第1回の募集を始めた際には“何それ?”という反応も少なくありませんでした。しかし、1回目の参加者の方がイラストを描いてくれたり、多くの方が写真を投稿してくれたりして、イメージをつかんでいただきやすくなりました。さらに様々なメディアにも取り上げていただきました。おかげで、2回目、3回目と募集を重ねるごとに反応はよくなっています」(名鉄観光サービス・菊池さん)。
コラボ開催がマイクロツーリズムのコンテンツ開発のヒントに
12月4日には「#愛知Twitter会を巡る旅」第3弾を開催予定(名鉄観光サービスHPで募集中)。出展企業は毎回ほとんどが入れ替わるためリピートする参加希望者も回を重ねるごとに増えているようです。愛知での開催は次回でいったん一区切りとなる予定ですが、「〇〇Twitter会を巡る旅」は全国へ広がる可能性もありそうです。
「都道府県単位の『〇〇Twitter会』の発祥は新潟県で、こちらでも『新潟Twitter会を巡る旅』が近く開催される予定です。今後、全国にこの動きが広まれば、と思っています」と名鉄観光サービス・菊池さん。
イベントでは、登壇者が慣れないプレゼンに緊張して進行がぎこちなかったり、内容がやや一方通行になったりする場面もあり、“中の人”の経験値によって各企業・団体のエンタメ的満足度に差があったことも確か。今後、出展者のスキルを引き上げて参加者の満足度を高める仕組みは必要となりそう。初出展者は過去の様子を「#愛知Twitter会を巡る旅」で検索して会場写真やコメントを見ることで、場を盛り上げるアイデアも生まれやすくなるのではないでしょうか。
また、このような合同イベントは、小規模のツアーコンテンツを開発する際のヒントにもなりそうです。町歩きや工場見学、モノづくり体験などのマイクロツーリズム、着地型観光への期待が高まっていますが、一方で一社では参加者を満足させられる自信がない、何をやったらいいのか分からない、という企業もまた多いはず。しかし、複数の企業や店舗が協力し合えば、一社ごとの負担は軽減されます。さらにお互いに他社のやり方や参加者の反応にふれられれば、相乗効果によるコンテンツのブラッシュアップにもつながります。そして当然、お互いのSNSを活かして情報発信の面でも大きな相乗効果は生まれるでしょう。マニアックな情報、体験の価値が高まっているSNS時代ならではのユーザーの嗜好も、多様な企業がコラボする着地型観光にマッチしているとも感じます。
「#愛知Twitter会を巡る旅」によって生まれた小さくも新しい旅、観光のスタイル。“何もない”なんて思われがちな(あるいは自ら思ってしまいがちな)地域こそ、大いに参考にできる点があるのではないでしょうか。
(写真撮影/すべて筆者)