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3万本以上の記事が消える? 「cakes」運営会社に聞いてみた

山口健太ITジャーナリスト
「cakes」がサービス終了を発表(Webサイトより、筆者撮影)

コンテンツ配信サイト「cakes」がサービス終了を発表したことで、多くの記事が失われる恐れがあることが注目を集めています。これまでの記事はどうなるのか、運営会社であるnoteに確認しつつ、問題点を整理しました。

記事データの問い合わせには順次対応

2012年に始まったcakesは、3万本以上の記事を配信しているとのこと。しかしサービス終了のお知らせによれば、8月31日を最後にこれらの記事は閲覧できなくなるといいます。

その後、記事はどうなってしまうのでしょうか。運営会社であるnoteの広報によれば、記事データは社内に当面保持し、書き手(クリエイター)からの問い合わせに応じて渡していくなど、順次対応するとのことです。

同様の問い合わせが他にもあったとのことから、noteは発表後にお知らせページを更新し、これらの情報が追記されています。

直近の事例では、「Engadget」と「TechCrunch」の日本版が終了した際、原稿の権利が会社側に属する契約となっていたために、ライターはたとえ自分が書いた記事であってもブログなどで再公開できないという問題がありました。

これに対してcakesでは、原稿の権利はクリエイターが持っているようです。クリエイター側で移行の作業をすれば、同社が運営する「note」や自分のブログなどで再公開することができそうです。

今後、cakesのクリエイターはnoteを通じて支援していくとの方針です。同社は2020年4月、社名を株式会社ピースオブケイクからnote株式会社に変えており、すでに事業の主体はnoteに移っているようです。

cakesには有料会員の仕組みがあり、記事を収益化することができました。noteでは有料記事の年間販売数が5年で30倍に増えており、noteで収入を得ている人は10万人を突破。2021年のトップ1000人の年間平均売上は667万円としています。

noteで収入を得ている人は10万人を突破したという(発表会動画より)
noteで収入を得ている人は10万人を突破したという(発表会動画より)

サブスクとしては、月額制で記事を販売できる「定期購読マガジン」のほかに、7月から「メンバーシップ」も始まります。こちらは動画やセミナーなど、「文章」以外の方法でファンコミュニティを作れるサービスを目指しているようです。

記事の「リンク切れ」はどうなる?

cakesの記事をnoteやブログで再公開することはできそうです。しかし記事のURLが変わることによる「リンク切れ」は避けられないでしょう。

Webサイトの記事はリンクによってつながっています。そのためcakesが終了すると、cakesの記事が読めなくなるだけでなく、cakesにリンクしていたすべてのサイトに影響が及ぶことになります。

URLが変わること自体は、転送(リダイレクト)によって解決できます。ただし、リダイレクトを設定できるのはcakes側であり、クリエイターが勝手に転送することはできません。

移行のコストなどを無視すれば、技術的にはcakes側ですべての記事をnoteにコピーし、URLをリダイレクトしてもらえれば、大きな摩擦を起こすことなく移行できそうにみえます(あくまでコストや契約上の問題を無視できればの話です)。

クリエイター側では、再公開した記事のHTMLでcakesのURLを転載元として示すことはできます(rel=canonical)。ただしリダイレクトではないので、リンクが切れることに変わりはありません。またサービス終了後はリンク先がなくなることが問題になりそうです。

再公開した記事のタイトルをcakesの記事と同じものにするとか、記事の本文にcakesから転載したことを書いておけば、検索エンジンなどから読みに来てくれた人に事情を伝えることはできそうです。

「エクスポート」を求める声は高まるか

cakesの終了が発表されたことで、こうしたサービスからデータを一括で出力する「エクスポート」機能についても話題になっています。

noteは2022年4月の発表会では、エクスポート機能について「開発が遅れている」と説明していました。あらためて現状を確認したものの、「クリエイターの方に必要な機能を随時開発していく予定」(note広報)との回答にとどまっています。

その背景として、noteでは多くの人が必要としている機能の開発を優先しているため、エクスポートのように少数の人しか使わない機能は優先順位が低くなることが、発表会の中で語られていました。

しかしcakesが終了したことで、「noteもいつかは終わる」と連想した人もいるのではないでしょうか。実際にエクスポート機能を使う人は少ないとしても、「できるかできないか気にする人」は増えた可能性があります。

エクスポート機能があれば、noteをやめたいときに他のサービスに引っ越しやすくなります。その場合でも、前述した「リンク切れ」の問題が起こることは避けられません。

noteの記事は「note.com」のドメイン下で公開されているため、他のサービスに引っ越すとURLが変わってしまいます。エクスポート機能を求める人が本当に必要としているのは、「noteを独自ドメインで運用できる機能」なのかもしれません。

(独自ドメイン機能は、法人向けのnote proではすでに提供されています)

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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