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月30ドルで映画館行き放題の会員制サービスMoviePassは、劇場主に生き残りの道を与えるか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
アメリカでは近年、25歳から39歳の観客が減少している。(写真:アフロ)

ウィル・スミスが主演作の製作配給にメジャースタジオではなく劇場公開と同日にVOD配信するNetflixを選んだり(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160322-00055697/)、50ドル払えば最新作を自宅で見られる新しいサービスにスピルバーグやスコセッシが賛同したりする中(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160316-00055490/)、アメリカの映画館は、将来への不安をますます強めている。決まった週の決まった時間に家に帰ってテレビドラマを見るのではなく、小さなスクリーンであっても、Netflixやアマゾンで、見たい時に、何話でも、見たい場所で見ることに慣れた若い世代が、新作映画にも同じことを求めるのは、避けられない流れと思われるからだ。

そんな中、やはりNetflixなどから想を得て生まれた映画館向けの会員制サービスMoviePassに、あらためて関心が寄せられている。毎月30ドルから45ドル程度の会費(値段は住む街によって変わる)を払えば、提携している映画館で映画を見放題というものだ。

システムは、簡単。まずはウェブサイト上で入会登録をし、スマフォの専用アプリで劇場と上映時間を検索する。劇場に到着したらアプリ上でチェックインをし、メンバーシップカードを使って、劇場の券売機でチケットを入手する。3DやIMAXのシアターでは使えず、“見放題”とは言っても、24時間に1本までという制限がある。また、チケットは会員本人分しか取れない。つまり、会員ではない友達と一緒に見にいく場合、自分は券売機から無料チケットを取得しても、友達には普通にチケットを購入してもらわなければならないということだ。同じ映画を2回は見られないというルールもある。

デビューは5年前だが、当初は劇場主に完全にそっぽを向かれ、ほとんど話題にならなかった。しかし、2014年、北米で2番目の規模を誇る劇場チェーンAMCが提携したことで、はずみがつく。MoviePassは会員数を公表していないが、会員の75%は18歳から35歳で、平均年齢は26歳だという。アメリカ映画協会(MPAA)の最近の調査で、25歳から39歳の観客が劇場から遠のいているという結果が出ているだけに、注目に値する事実だ。さらに、MoviePassがリサーチ会社Mather Analyticsに依頼して行った調査で、MoviePassの会員は、劇場内の売店でポップコーンやドリンクなどに、普通の観客の123%増しのお金を使うという結果も出た。チケットにお金を払わなかったせいで、財布の紐が緩むのかもしれない。

映画館にとって、売店の売り上げは最も貴重な部分だ。チケットの収入は、スタジオと劇場が分かち合うが、公開直後は大部分がスタジオに行く形で、公開後、日がたつにつれて、劇場の取り分が増えていく仕組みになっている。映画のマーケティングにはお金がかかり、それをスタジオが請け負っているというのが大きな理由だが、40年代や50年代のように、ひとつの映画が半年やそれ以上同じ劇場でかかる時代ならともかく、3週間もしないうちにトップ10から消えてしまうのも当たり前な今の時代においては、劇場はスタジオと同じシェアをもらえないことがほとんどというのが実情だ。だが、話題作を回して、人がたくさんやって来れば、売店の売り上げが上がる。劇場は、収益の85%を、売店の売り上げから得ており、客足を増やすのは、非常に大事なことなのである。

スタート当時、劇場主が反対したのは、劇場が自分たちでチケットの価格を決める上で、影響を及ぼされることを危惧したせいだった。しかし、何度かの変更を経た今、MoviePassは、その劇場がその上映回に対してつけるチケットの価格を全額払い戻しているという。会員がみんな、月に10回も20回も映画を見に行ったらもちろん赤字になるが、その月は1、2回しか行けなかったという会員もいることで、MoviePassは儲けるわけだ。

月極めの会費を払うため、「使わないともったいないから映画館に行こう」という心理が働くのも、劇場にとってはプラスだろう。オンラインでの事前予約はできず、当日、劇場に行ってからしかチケットを取得できないので、たとえば最新の「スター・ウォーズ」を公開初週末に見るというような時には使えないが、逆に、15ドル払ってまでは見るつもりがなかった映画を見て、思わぬ秀作に出会えるということは、十分にありえる。

MoviePassは、現在、アメリカの映画館の93%で使えるようになったと述べているが、ロサンゼルスで見る限り、実際にはそれよりだいぶ少ない感じがする。映画は映画館で見ましょうと提唱し続けていきたいならば、劇場は、Netflixやスタジオに文句を言い続けるだけでなく、自分たちでも積極的に打開策を練っていくべきだろう。ところでAMCは、50ドル払えば公開日に自宅で最新映画を見られる新しいコンセプト“スクリーニング・ルーム”に賛同した、唯一の劇場チェーンでもある。2012年に、26億ドルで買収されたAMCは、現在、中国の大連万達グループの傘下にある。2014年、AMCは、19ドル99セントを払えば「インターステラー」を何度でも見られるという独自のプロモーションを行ったりもした。買収当時、大連万達は、AMCのテクニカル面での改良のために5億ドルを投資することを約束したが、外からの目の影響は、シートやスクリーンのクオリティ以外のところにも及んでいると言えるかもしれない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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