「イランは爆撃する米国の52の文化遺産を挙げるべき」発言の教授がクビに 「表現の自由」論争
あわや第3次世界大戦かという危機感を世界に与えたアメリカとイランの対立。その元凶となったのは、トランプ氏がした「イランが報復したら、文化遺産を含む52の施設を攻撃する」という警告だった。
そして、トランプ氏のこの警告はアメリカで、新たなる波紋を生み出している。
トランプ氏の警告を批判するかのように、マサチューセッツ州にあるバブソン大学の非常勤教授アシーン・ファンジー氏がFacebookにこんな投稿をしたのだ。
「報復として、ハメネイ師(イランの最高指導者)は爆撃する米国の52の文化遺産を挙げるべきだ。うーん、モール・オブ・アメリカ?、カーダシアン家の住まい?」
ちなみに、モール・オブ・アメリカはミネソタ州にある全米最大のショッピングモールで、カーダシアン家はアメリカの人気番組「カーダシアン家のお騒がせライフ」で著名になったセレブ一家だ。
ジョークのつもりだった
この投稿はSNSで瞬く間に拡散され、同氏をバッシングする声があがった。
「なぜ、バブソン大学は、アメリカを憎むテロリスト支援者に給料を払っているんだ」
投稿はバブソン大学の目にも止まり、大学側はすぐに同氏を休職処分にした。
ファンジー氏は、あくまでジョークやユーモアのつもりでこの投稿をしたという。イランと比べると、アメリカには文化遺産がないことを、モール・オブ・アメリカやカーダシアン家の住まいというアメリカにある建物を例にあげることで、からかいたかったというのだ。
同氏はボストン・ヘラルド紙に以下の声明文を掲載して謝罪。
「私は暴力には絶対的に反対しており、提唱もしていない。私がしたまずいユーモアが脅威ととられてしまったことを残念に思う。私は暴力行為はすべて糾弾している。私は特に、大学の同僚たちに迷惑をかけたことを謝りたい」
批判する権利がある
しかし、謝罪も虚しく、大学側は、1月9日、以下の声明を出して同氏を解雇処分にした。
「職員がFacebookにした投稿は当大学の価値観や文化を表すものではない。調査の結果に基づき、職員はもはやバブソン大学に雇用されないものとする。バブソン大学は、いかなる脅し文句も、暴力や憎悪も見逃すことなく糾弾する」
解雇されたファンジー氏は、大学側の決定に失望し、声明を出した。
「人々が私のジョークを意図的に誤解したというだけで、15年間関わって来た私を解雇するという大学側の決定に失望している。大学は私の言論の自由を弁護し、支持してくれると思っていた」
FIRE(教育機関における個人の権利を守る協会)も声明を出し、ファンジー氏を大学に復帰させるよう呼びかけた。
「ファンジー氏の投稿を、暴力を提唱していると解釈するとは、とても信じがたいことだ。教授は大統領や権力者たちを批判する権利がある」
過激発言で解雇に
ファンジー氏に限らず、アメリカではここ数年、過激な発言がSNSで拡散されて大バッシングを受けたり、休職や解雇に追い込まれたりする大学教授に関する報道が目につくようになった。
2018年4月には、カリフォルニア州立大学フレスノ校のランダ・ジャラール教授が、他界したバーバラ・ブッシュ元大統領夫人の死を喜ぶツイート(「あの鬼婆が死んで嬉しいわ、彼女の残りの家族が死ぬのが待ち遠しいわ」)をして大バッシングを受けた。
2018年1月には、フィラデルフィア州ドレクセル大学の教授が「2017年にラスベガスでおきた銃乱射事件は、トランピズム(トランプ氏の政策や発言の根底にある考え方や政治姿勢)のせいだ」とツイートして辞職に追い込まれた。
2017年8月には、フロリダ州タンパ大学の客員教授が「ハリケーン・ハーヴィーは、テキサス州が大統領選でトランプ氏を支持したために宿命的に起きた」とツイートし、解雇された。
同月、ニュージャージー州でも、「トランプはクソみたいな冗談野郎だ。誰か彼を撃ってくれたらな」とツイートしたモントクレア州立大の准教授が予定されていた授業の教鞭を取ることができなくなった。この教授は「自分は強い言葉を使っているだけであり、暴力を提唱しているのではない」と弁明、「どうして、誇大な表現をした私の1つのツイートが、大統領が毎日のようにしているツイートよりも悪いといえるのか」と反論した。
2017年6月には、デラウェア大学の非常勤教授が、北朝鮮を旅行中に拘束され、昏睡状態のままアメリカに戻り、死亡した大学生オットー・ワームビア氏について、Facebookに「自業自得だ」と投稿し、クビにされた。
スリー・ストライクス・ポリシー
“ヘイト・スピーチ”とも取られる過激な発言をして辞職に追い込まれるアメリカの大学の教授たち。しかし、大学はそもそも様々な人種が学び、多様な意見が交換されるべき場所である。ヘイトと取れる発言であったとしても、「表現の自由」という見地から、許容されるべきだとする声も強い。
そんな中、ウィスコンシン大学は2017年10月、「スリー・ストライクス・ポリシー」を採用して注目された。このポリシーでは、「表現の自由」を尊重するために、論議を呼ぶようなスピーチを、反対の見方で、2回妨害した学生は最低1学期間は停学処分を受け、3回妨害すると退学処分となる。
また、2019年11月には、インディアナ大学が、人種差別や性差別、同性愛者嫌いの発言をして批判を受けてきた教授を、「表現の自由」を理由にクビにしなかったことも話題になった。
「表現の自由」という権利と「ヘイト・スピーチ」という批判の狭間で揺れるアメリカの大学。両者はどうバランスを取るべきなのか、アメリカの大学の模索は続く。