ロシアが早くて1月5日に出国禁止令。二度目の徴兵への布石か。年始も続くウクライナへの大規模攻撃
ロシアで、早ければ1月5日に、55歳以下の男性が出国禁止となる。
ウクライナのレズニコフ国防相が、12月30日のビデオメッセージで伝えたものだ。『キエフ・インディペンデント』が報じた。
これは、事実上の戒厳令で、二度目の徴兵令につながるものだと言われる。
ウクライナ国防相はロシア語で、「私は、あなた方にまだ選択の余地があるのは、あと1週間ほどだという事実を知っています」と語った。 ロシア人に向けて、切迫した動員を警告する意図があったのだろう。
これに先立つ12月30日、ウクライナの情報局長ブダノフ氏はBBCとのインタビューで、ロシアは兵員不足のため、1月5日から新たな動員を計画していると述べていたという(注:現在この情報は、BBC公式のサイトでは確認できない。時事通信の記事を参照)。
モスクワやサンクトペテルブルクからも動員か
スケジュールとしては、理屈にあっているように見える。
ロシアのクリスマス(12月25日)は、欧州の旧暦で祝うので、新暦だと1月7日になる。つまり今ロシアは、一年で最も伝統的に大事なお祝いを迎える直前の状況である。
日本のお正月と同じで、クリスマスは伝統的に家族と過ごすものだ。クリスマスの数日前に「徴兵を予期」させておいて、家族と共にお祝いを過ごして休暇をとった後、徴兵令状が届いてお別れ・・・。
嫌な推測だが、おそらく正しい情報ではないかと思える。ただ、男性の出国禁止令が出てから、二度目の召集がどのくらい後になるのかは、まだ不明である。
(BBCでブダノフ氏が述べたはずの「1月5日から新たな動員を計画している」の所は削除されたのだとしたら、理由があるのだろうか)。
ウクライナ国防相は、この新たな徴兵は「ロシアの大都市の住民に関係するものである」と指摘した。
最初の9月21日の動員では、モスクワやサンクトペテルブルグといった大都市からは、ほとんど召集されなった。主に地方の少数民族が不当に徴兵された。
その上前回は、プーチン大統領は、35歳までの軍経験者または軍関係の経歴を持つ者だけを徴兵すると述べた。部分動員で、特定の予備役だけを召集することを意味していた。そして、30万人近い新兵をロシア軍に引き入れることを目指した。
しかし現実には、最初の動員の発表の後、軍隊経験のない年配の男性や学生、障がい者にも徴兵通知が届くようになった。70万人以上がロシアから脱出し、混乱が生じたのは、記憶に新しい。
今回はどうだろう。ウクライナ国防相は、出国禁止令が出るのは55歳以下で、大都市からも召集されると言っている。また、ロシアの国境だけではなく、ベラルーシの国境も閉鎖されるという。
ロシア人から戦争反対の声が上がってほしいが、実際はどうだろう・・・。
よほど失業率が上がるとか、生活に困窮するほどインフレになるとか、戦死者数があまりにも多くなるとかではない限り、ほとんどのロシア人は、国家の命令に従うのではないか。徴兵令状が届いたらウクライナに戦争に行くだろう。内心どんなに疑問を感じていても。
おそらくほとんどのロシア人は、自国の独裁的権力は、西側では非難轟々でありえないような、兵士を使い捨てるかのような戦い方を強いることを知らないのだろう。知っていても、民主主義、人権を知らず、「戦争だから」と、それが当たり前だと思っているのではないか。美徳になりうるはずの我慢強い国民性が「凶」と出てしまうに違いない。
年末から続く、露軍の大規模な攻撃
年末から、ウクライナへの大規模な攻撃は続いている。
首都キーウをはじめ、7つの地域が攻撃対象となった。
参考記事:年末に、露軍によるウクライナへの大規模攻撃が激しくなっている。
年が変わる夜には、ロシアの空爆により、4人が死亡、50人が負傷したことがウクライナ当局の発表で明らかになった。
西部の町フメリニツキー(Khmelnytsky)では、22歳の女性を含む3人が死亡したとされる。
キーウにいるAFPの記者は、大みそかの午後早くから十数回の爆発を聞き、新年が明けて数分後にはさらに数回の爆発を聞いた。首都の中心部では、ミサイルがホテルの前を切り裂いたという。
同じく1月1日(日)未明、ロシアの占領軍は、秋にウクライナ軍に奪還されて以来、定期的に砲撃を続けているヘルソンに、複数のロケットランチャーで16回発射、特に小児病院も攻撃されたという(冒頭の写真参照)。
元旦には、ロシアはウクライナに35回の空爆を行った。使われたのは、シャヘド136ドローンなど。
ウクライナ軍本部は、ロシアが発射した装置は、全て破壊されたと発表した。
厳戒態勢にあるキーウで、2日(月)の未明に空爆が行われたと、地方軍政局がテレグラムで発表した。
「避難所にいてください」と、キーウ市の軍事行政の責任者であるセルゲイ・ポプコ氏は言った。クリチコ・キーウ市長は、市内のある地区で爆発があったと報告し、「すべての救急隊が向かっている」と発信した。『ル・モンド』が伝えた。
ロシアのミサイルが足りない?
ウクライナ軍の情報局長であるキリーロ・ブダノフ主席情報局長は、ロシアはウクライナを大規模に攻撃するためのミサイルを2回分しか持っていないと、SNSで述べた。
そして1回の大規模ミサイル攻撃のためには、1ヵ月半から2ヵ月の準備期間が必要だという。
さらに、3月中旬には、モスクワの軍備は危機的状況に陥るだろうとも、氏は述べている。ベラルーシの産業界は、(枯渇のために)不足している機器を供給することはできない。さらに、 ロシア連邦の産業は、ソビエト連邦の産業に匹敵するものではないとも主張している。
同じことを、英国国防省も12月24日に「ロシアは大規模な攻撃作戦に必要な弾薬を十分に持っていない」と述べている。「ウクライナの長い前線に沿って防衛作戦を維持するには、ロシア軍が毎日相当数の砲弾とロケット弾を消費する必要がある」という。
アメリカのシンクタンク・戦争研究所(ISW)は1月1日、「ロシア軍がバフムート地域で作戦をハイペースで維持することは、近い将来、弾薬の制約により、部分的に妨げられる可能性が高い」と評価している。
(しかし、西側、正確に言えば、英米(特に英)の国家の軍情報だけをうのみにするのはどうだろうかという不安と疑いが、筆者には常にあるのだが・・・。EU加盟国の国家機関から必要最低限以上の情報が出てこないように見えるのが、不安の原因だ。何かEU内で合意があるのだろうか)。
バフムートで消耗しきる兵士たち
ロシア軍は、現在戦闘が集中しているウクライナ東部のドネツク州での攻勢を継続すると発表していた。ウクライナ軍のあるスタッフは、1月1日の夜、敵は「バフムートで攻撃を試み続けている」と述べたという。
バフムートは、ロシア軍が半年以上にわたって奪取しようとしている、ドネツク地域の都市だ。ロシアにとって、この都市を占領することは、ウクライナの供給ラインを寸断し、クラマトルスクやスロビアンスクなど、東部の他のウクライナの拠点へ、進撃の道を開くことになると、BBCは伝える。
そのため、「第一次世界大戦にも匹敵する塹壕戦(ざんごうせん)で、残忍な戦闘を続けて」おり、双方に大きな損失と想像を絶する破壊がもたらされてしまった。
『ル・モンド』の報道によると、この戦いに従事する兵士たちは、精神的にも肉体的にも「信じられないほどの疲労」にさらされているという。そして、この消耗戦の中で、自らを「肉のように、死に追いやられるだけしかなく」終わる存在だと思ってしまう者もいるそうである。
毎日前線に通うウクライナ軍の若い従軍司祭、マーク・コウプチェネンコ氏は現地で、AFP記者にそう説明した。
交代制はない、あるいはほとんどない。彼らは常に戦闘状態にあり、大きなプレッシャーにさらされ、時には理解できないような命令を受けることもある、と司祭は言う。
戦線の決着をつけるのは、核爆弾を含む大量破壊兵器をのぞけば、最終的には人間と人間の戦闘だ。
ロシア兵士が135万人とされるのに対し、ウクライナ兵士は50万人。現役兵士は、ロシアが80万人で、ウクライナが20万人という統計がある。
ウクライナ側は、一人でも兵士を「無駄」にできない。ロシア側は、新たな徴兵が行われたら、人間一人の命を軽く見ているやり方で兵士をぶつけてくる可能性がある。ロシア兵の無駄死には累積されてしまうのだろうか。
ウクライナを応援しているし、勝利してほしい。でも、ウクライナ兵はもちこたえることができるのだろうか。
そして、人間としてこんなことがあっていいのだろうかと、強く思う。