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右利きなのに食事は左手で NBA挑戦が決まった馬場雄大のスゴい努力

大島和人スポーツライター
17日には「海外挑戦」に関する記者会見が行われた:筆者撮影

Bリーグの2シーズンで成長

馬場雄大はアルバルク東京のB1連覇に貢献し、日本代表でも活躍している若手選手。そんな彼のアメリカ挑戦が、17日に発表された。契約が予定されているクラブはNBAのダラス・マーベリックス(マブス)だ。18日に渡米してトレーニングキャンプへ参加し、レギュラーシーズン出場と本契約を目指すことになる。

彼は富山県出身で、1995年11月生まれの23歳。198センチ・90キロのウイングプレイヤー(SG/SF)だ。筑波大では入学直後から主力となり、全国大会(インカレ)の3連覇に貢献した。日本代表には大学3年次から選出されており、当時からルカ・パヴィチェヴィッチコーチ(現A東京HC)の指導を受けている。そして4年の夏にはバスケ部を退部して半年早くプロ入りした。ただし大学は4年で卒業し、教員免許も取得している。

ワシントン・ウィザーズから全体9位の指名を受けてNBA入りする八村塁は、富山市立奥田中学校の2年後輩に当たる。二人は坂本譲治コーチの指導を受けていた。

彼はBリーグの2シーズン目を終えた今年6月、既にマブスのトレーニングキャンプに参加している。主に若手選手が出場するサマーリーグも経験し、評価を上げていた。

マブスとの契約は内定状態

馬場は大学時代にBリーグ入りと海外挑戦で迷い、「海外からのオファーがあった場合は、クラブもサポートする約束で入団してもらった」(林邦彦社長)という経緯もある。そういった布石があり、今回の渡米は実現した。

マブス側との交渉は最終段階に入っているものの「契約内容でまだ合意していないところがある」と林社長が述べる局面。即時の本契約は現実的でなく、渡邊雄太(ワシントン・ウィザーズ)のようなトップチームとGリーグを行き来する「2ウェイ契約」の枠もマブスは埋まっている。八村は新人からいきなり4億円以上の最低報酬を保証される立場だったが、それに比べるとかなり厳しいスタートだ。

ただし関係者の話を総合すると契約内容の最低線は当事者間で共有されており、プレーするカテゴリーは別にしてマブスとの契約は内定と言い得る状態だという。

トップチームに入れなくても米国で

NBAの下部リーグであるGリーグも、当然ながらレベルは高い。馬場はこう述べていた。

「Bリーグでやると、僕のポジションは日本人とのマッチアップになる。NBAのトップチームに入れなくても、世界レベルのフィジカルでやることは前向きに捉えられる。トップチームに入れなくてもアメリカに残って向こうのチームでやっていく」

日本代表はW杯を5連敗で終えた一方で、10ヶ月後には東京オリンピックを控えている。個のレベルアップや国際レベルへの「慣れ」は急務で、Gリーグでプレータイムを得られるならばそれも世界への近道に違いない。

彼は日本代表でプレーした父を持つ「サラブレッド」で、アスリート性も高い。高速ドライブで守備を切り裂く「スラッシャー」タイプで、ダンクシュートは強烈だ。ただし彼自身が強みとして口にするのは攻守のハッスルプレー。恵まれた才能を持ちつつなかなか殻を破れない選手もいる中で、馬場は「戦える」「出し切れる」ところに価値がある。23歳の今まで伸び悩みを感じさせない成長曲線を描いてきた持続力も素晴らしい。

9月5日に行われたW杯アメリカ戦では、チーム最多の18得点を記録している。筑波大のチームメイトだった杉浦佑成(サンロッカーズ渋谷)は馬場について「相手のレベルが高いほど持ち味が出る」と評していた。その強みは相手が強敵でもスポイルされず、高速ドライブはサマーリーグやアメリカ戦でもBリーグと同じように生きていた。

日常から重ねていた努力

筆者は馬場の取材を通して、彼は才能任せのタイプでなく、努力家タイプと評価するようになった。サマーリーグ参加時には英語のやり取りをこなしていたが、それは日本で準備をしていたからだ。

馬場はこう説明する。

「毎日の出来事を日記で書いたり、普段『ふと言いたいな』と思ったことを英語に転換して考えたり……。分からない言い回しや単語を調べていました。スピードラーニングを取り入れましたし、英語音声・英語字幕も耳を慣れさせるために使っていました」

筆者は取材後に、彼やチームスタッフと軽く食事をしたことがある。驚いたのは右利きの馬場が左手でスムーズに箸を使う姿だった。バスケ選手が逆手を上手く使えればプレーの幅は広がる。ただ左手を上手く使えるようになるために、日常生活からそういう努力を続けることは生半可でない。人当たりの良さ、シャイな笑顔に騙されやすいが、彼は芯の強さも持ち合わせている。

クラブも彼の挑戦を後押し

マブス傘下の「テキサス・レジェンズ」は日本と縁のあるチームで、2014-15シーズンには富樫勇樹(千葉ジェッツ)がプレーしていた。また現在は2016-17シーズンまでA東京のHCを務めた伊藤拓摩氏が、コーチ研修を行っている。伊藤コーチは英語も堪能で、馬場にとっては心強いサポート役になるだろう。

馬場はA東京の主力で、昨シーズンのファイナルでMVPを獲得している。林社長は彼の移籍について「一クラブとしては痛いどころの騒ぎではない」と述べる一方で、こう強調する。

「日本の男子バスケが世界レベルで戦っていくならば、国際レベルの戦いを各選手が体感していかないといけない」

23歳の海外進出を遅すぎると感じる人もいるだろう。逆に難しさを強調する人もいるだろう。しかし彼はここまで大学、Bリーグでしっかり積み上げてきたし、挑戦を成長の糧にできる人間でもある。馬場の明るい前途と、主力選手を快く送り出したクラブの姿勢を素直に祝福したい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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