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NY物価高騰でひとり親や子育て世帯からも悲鳴!困窮家庭に食料届けるフードバンクを訪ねた

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ドネーションされた食料を子ども用に詰めるスタッフ。(c) Kasumi Abe

クリスマスを前に、生活に困窮する子育て世帯を対象に、都内でケーキの無料配布が行われたことが日本でニュースになっていた。

日本でも物価上昇に伴いフードバンク*の利用者が増えているという。

いくつかの情報ソースによると、物価上昇による家計への圧迫などで都内のフードバンクを利用する世帯数は年々増えており、2018年と23年の利用者数を比べると20倍も増加しているという。

  • 提携企業などから提供された食料を無償で必要な人に配布する団体やそのサービスを指す。

生活費高騰!NY市で約6.5人に1人が日々の食べ物に困っている

海を越え、アメリカでも実は同様のことが起こっている。

ホリデームード一色のニューヨークではどこもクリスマスギフトの買い物客で賑わいを見せている。

クリスマスは家族、親族が一堂に集まりディナーを食べたりギフトを交換し合ったりしてゆっくり過ごすのがアメリカのクリスマスの習わし。そのクリスマス前の土曜は「スーパーサタデー」と呼ばれ、クリスマスに向けた最後の買い物のチャンスとあり、商業施設はどこも大混雑していた。

しかし腹一杯のご馳走とたくさんのプレゼントに囲まれた楽しいクリスマスを過ごす人だけではない。近年のインフレや家賃高騰に伴い、市内にはひとり親や子育て世帯、ホームレスなど日々の生活に困窮する人が増えている。

市内にあるフードバンク・フォー・ニューヨークシティ(以下フードバンク)は1983年の創設から40年以上、この地で貧困層のフードインセキュリティ(食料不足問題)に取り組んでいる。現在、そこからの食料は市内のスープキッチン、フードパントリー施設、デイケアや老人ホームなど800の提携団体を通して、必要な人々に届けられている。

市内の食料配布場所に列を成す人々。食料は誰でももらえる。もらうのに書類やIDは一切不要(写真は以前撮影)。(c) Kasumi Abe
市内の食料配布場所に列を成す人々。食料は誰でももらえる。もらうのに書類やIDは一切不要(写真は以前撮影)。(c) Kasumi Abe

NY市の公式サイト「Food Help NYC」に記された無料の食料配布場所(筆者がスクリーンショットを作成)。
NY市の公式サイト「Food Help NYC」に記された無料の食料配布場所(筆者がスクリーンショットを作成)。

同フードバンクによると、物価高やコロナ禍によ失業などで生活に困りフードバンクを利用する人の数は、2019年と比べてこの5年で94%も上昇しているという。

そしてこのホリデーシーズン中も、充分な量と質の食事を摂ることが困難な人の数は、同団体の見積もりで130万人以上と見られている。

市の人口は約825万人(2023年)だから、先進国アメリカにおいてもニューヨーカーの約6.5人に1人が日々の食べ物に困っているということになる。

「市内のフードバンクの利用者と言えばホームレスの人々を想像するかもしれませんが、実はそうではありません。一般の家庭の利用者も多く、そして4分の1が18歳未満の子どもなんです」とスタッフのザニタ・ティスデールさんは言う。

「あらゆる物の価格が高騰し、3、4年前の1ドルは今の1ドルと(価値が)異なります。市内で高騰しているのは食品だけでなく、住居費もそうです。マンハッタンでは1ベッドルームの平均賃料が月3000ドル(約47万円)以上*にもなっています。つまり食品のみならず生活費全般が高くなっています。そして賃金の引き上げはインフレにまったく追いついていません」

  • 12月現在でマンハッタンの1ベッドルームの平均家賃は前年比から39%もアップし月額4800ドル(約76万円)以上という情報もある。

市内北部のブロンクス区にあるフードバンクの巨大倉庫を訪れると、年末年始のホリデーシーズンに配布される食料が山積みされていた。「倉庫ではありますが備蓄が目的ではないので、ここには一時保管されるだけで、数日以内に人々に届けられんですよ」とスタッフ。

先月の感謝祭前には人々の元へターキーも届けられたそうだ。

9万平方フィート(約8400平方メートル)の巨大倉庫。天井まで積み上げられ箱の中はすべて食料。(c) Kasumi Abe
9万平方フィート(約8400平方メートル)の巨大倉庫。天井まで積み上げられ箱の中はすべて食料。(c) Kasumi Abe

無料の食品だからといって栄養の偏ったジャンクフード類ばかりではない。確かに以前は栄養バランスは二の次で缶詰やレトルト食品が主流だったというが、「今は健康的な食材にシフトしています。できるだけ栄養のある食材をお届けすることを心がけてます」と、スタッフのザック・ホールさん。

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

「80、90%が新鮮な食べ物です」とティスデールさん。ホームレスシェルターにはキッチンがないため調理済みの食品も用意されているが、一般家庭用の人々が調理に使ってもらえるよう、生の野菜や果物などの食材が主流なのだという。

提携農家や企業から届いたばかりのポテトを見せてくれるスタッフ。(c) Kasumi Abe
提携農家や企業から届いたばかりのポテトを見せてくれるスタッフ。(c) Kasumi Abe

これだけ多くの食材が関連団体からフードバンクに一時的に届けられ、ここを通して必要とされる人や団体に再配布される。その活動はコミュニティの一助になっているのはもちろんのこと、食品関連の企業や団体とタイアップすることで農家や生産者などアグリカルチャーエコノミーを円滑にする助けにもなっているそうだ。加えて「食品ロスの解消に繋がってもいます」。つまり一石三鳥というわけだ。

巨大倉庫は大型スーパーの倉庫と見紛うほどの広さで、肉類を一時保管する巨大冷凍室もあった。各スペースではスタッフがクリスマス直前の今、配達に向け最後の追い込みをかけ忙しなく発送作業をしていた。11月1日から大晦日までの2ヵ月間に4000万食が、必要とされる人々に届けられる予定だ。

(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、著名ミュージシャンのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をニューヨークに移す。出版社のシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材し、日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。

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