「まるで強制収容所」「施設の閉鎖を」米国境の移民問題に声を上げる人々
先月、ある1枚の衝撃的な写真が世界を揺らした。
メキシコからアメリカに不法入国しようとした父子が、国境のリオ・グランデ川で、うつ伏せで体を寄せ合った状態で溺死している写真がメキシコの地元紙に掲載され、6月25日付け『ニューヨークタイムズ』紙の一面でも報じられた。
亡くなった父親はオスカー・アルベルト・マルティネス・ラミネツ(Oscar Alberto Martinez Ramirez)さんと、1歳11ヵ月の娘バレリアちゃん。エルサルバドルからメキシコを経由してアメリカに渡ろうとし、川で溺れたという。
今月初め、アメリカとメキシコが身分証のない移民のアメリカ入国を食い止める措置で合意したことで、移民・難民申請ができない人々がラミネツさん父子のように、危険を冒してまでもむりやり国境越えをし、最悪のケースでは命を落としている。
国境の移民問題が日々深刻化するアメリカ、特にニューヨークでは民主党支持者を中心に、政権批判が広がっている。テキサス州に設置されている移民拘留センターについても、数々の問題が指摘されている。
まずこれは以前からの問題だが、逮捕された不法移民の親と子の引き離しについて。現在2000人を超える子どもが不法移民の親と引き離され、収容所に入れられている。
この問題について、トランプ大統領は「子どもを20日以上、強制執行施設に入れられないという民主党の作ったルールに基づいている」「民主党が不法移民の流入を阻止するための制度改正に応じなかったから」と、民主党への責任転嫁ととれる声明を出している。
米紙では、移民拘留センターはすし詰め状態で、医療もままならない劣悪な環境が報じられている。飲み水はもちろんのこと、寝具類やシャワー、せっけん、歯ブラシなどの不足といったずさんな衛生管理も指摘され、ここで死亡する人々(子どもを含む)は後を絶たない。
ニューヨーク州の史上最年少女性下院議員、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏は7月2日のツイートで、移民拘留センターを「強制収容所のようだ」と表現し、悲惨な現状を伝えた。
トランプ大統領は7月3日にツイッターを連投し、このように反論した。
- 「移民拘留センターは、少なくとも移民らが以前住んでいた所よりは安全でマシなはず。民主党はどんな状態でも問題視するだろう。そして急場を凌いで設置された移民拘留センターの環境に(移民が)不満をこぼすようなら、どうぞ来ないでいただきたい。それが一番の問題解決だ」
ニューヨークでの抗議活動
ニューヨークの政治運動団体「ライズ・アンド・リジスト」は、トランプ政権の移民政策を非難し、施設の閉鎖を訴えるために、頻繁に抗議集会を開いている。この日、7月8日も午後5時30分過ぎから、マンハッタンのグランド・セントラル駅で抗議活動を行った。
帰宅ラッシュ時で多くの人々が行き交う駅の中央で、移民拘留センターの閉鎖とICE(米国移民・関税執行局)の廃止を訴えた。
じっと立ってメッセージを読んでいると、警官に「(人の流れを作るために)立ち止まらないで」と注意を受けたくらいで、大きな混乱はなかった。
ある母親は傍にいる2人の子どもに、拘留センターの悲惨な写真を見せながら「悲しいわね。でも彼らの人権と自由のために戦っているのよ」と説明していた。
ビジネススーツに身を包んだ忙しそうな人々の中には、足早に過ぎ去りまったく関心のなさそうな人もいたが、多数の通行人は立ち止まり、メッセージや写真に見入ったり、写真を撮ってソーシャルメディアでシェアしたりしていた。中には「ありがとう」と感謝を伝える人、手を叩いて彼らの行動を讃える人も。
同様の抗議集会は今週木曜日(7月11日)、五番街のトランプタワー前でも行われる。
(Text and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止