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中国人富裕層に大人気「米出産ツアー」 妊婦の入国ビザはどこまで取り締まれるか

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

アメリカ国務省は、外国人の妊婦がアメリカで出産するためにビザを取得し、入国後に出産するケースが急増していることを受け、各国にあるアメリカ大使館でのビザ面接を強化すると発表した。

近年、アメリカへの渡航の理由として観光や家族との面会、医療を受けるためなどと虚偽の申告により非移民ビザを取得して入国、出産するケースが後を絶たない。

そもそもなぜこのようなケースが発生しているのかと言うと、アメリカは国内、領土内で生まれた子に自動的にアメリカ市民権を与える出生地主義を取っているからだ。

このようなケースで生まれた子は「アンカーベイビー」と呼ばれ、親は即「アメリカ人の親」になる。多くのケースで、出産を終えると親は子と共に帰国するが、子が21歳に達した時点で親のアメリカ永住権をサポートできるため、家族や一族でアメリカに移住したり、ヘルスケアや教育面で「アメリカ人特典」を利用するケースもあり、社会問題になっている。

特に近年は、アメリカ国内に存在する専門のエージェンシーが、国外から訪れる妊婦を一式サポートする「出産ツアー」が人気だ。これを利用すれば、ビザの取得から渡航、滞在、出産に至るまで、自国の言葉で手取り足取りサポートしてくれる。これが頻発しているとして問題視され、昨年6月にもカリフォルニア州で中国系エージェントから逮捕者が出た。記事

国務省が1月24日に発令する新たな規則により、各国にあるアメリカ大使館では、出産が近い妊婦は「歓迎されない移民リスト」に追加されるという。また出産のために渡航しようとする疑いのある妊婦に対し、ビザ面接が強化される。例えば、ビザ取得の理由が医療目的の場合、本国でその医療を受けられないことや、医療の支払いの充分な財政能力があることを証明する書類が必要となる。

今回の発表にビザ免除国への対応は含まれていないため、ビザ免除国である日本人の「観光客」や「ビザ申請者」とその家族らにどのくらい影響が出るのかは不明だ。(注:日本国籍者が観光でアメリカに渡航する際、一部の例外を除いてビザは免除され、そのかわりオンライン上でESTA (エスタ)に申し込めば簡単に渡航できる)

この新規則は大使館で発動するもので、アメリカ到着時に行われる入国審査と関連するものではない。

また非移民ビザの種類の中には、最長10年間にわたって何度もアメリカに再入国できるタイプもある。ビザ免除国の日本人は手軽にESTAで入国できる一方、ビザウェーバーでは最長90日間の滞在しか認められず、ESTAで頻繁に再渡米すると入国審査官に目をつけられやすい。一方、ビザ免除国でない場合、例えば筆者の知り合いの中に富裕層のブラジル人がいるが、10年間有効のビザで2国間を頻繁に行ったり来たりし、渡米の際はまるで在住者のように気の向くままに滞在したりもしている。

そのような長期滞在ができるケースでは、ビザの有効期限内に妊娠しアメリカで出産することも可能なため、新規則がどのくらいの効力があるのか、23日付けのニューヨークタイムズ紙などから疑問視する声も聞こえてくる。

日本人旅行者、妊娠検査を強いられる

疑問視する別の声として「どのように出産間近と判別するのか?」というものもあるが、もっともである。虚偽の理由でアメリカに入国した中国人妊婦の中には、「入国審査でゆったり目の衣類とスカーフでお腹周りを隠したので、妊娠していることがバレなかった」と匿名で証言している人も。

逆に、災いを被った日本人もいる。昨年11月、アメリカ領サイパン島に向かっていた25歳の日本人女性が香港の空港で妊娠検査をするよう航空会社に強要されたことが、ウォールストリート紙の取材で明らかになった。

この女性は妊娠していなかったのだが、香港国際空港で搭乗チェックインの際、航空会社の係員から、妊娠していないことが搭乗条件の一つだとし、トイレまで付き添われて妊娠検査をするよう指示されたという。

これは、近年急増している「サイパン出産旅行」対策の一環として、サイパン当局からの依頼で航空会社が行ったものだった。航空会社は女性に対し妊娠検査を強要した事実を認め、後日謝罪した。

中国富裕層に人気、サイパン出産旅行

アメリカ国勢調査と、北マリアナ保健・人口統計局の発表では、2018年にサイパン島民から誕生した子の数が492人だったのに対し、旅行などの一時滞在者から誕生した子の数は582人にも上ったという。しかも582人のうち575人が中国人旅行者だった。記事

その数は近年急増中だ。2008年にサイパンで中国人旅行者が出産したのは年間20人弱だったのが、10年後には575人だ。この理由として、09年に中国人へのビザポリシーが緩和し、アメリカ本土と異なりサイパンには中国人もビザ不要で渡航できるようになったことが主因のようだ。

「米出産ツアー」いくら?

CNNが報じたICE(アメリカ移民・関税執行局)の発表では、カリフォルニアの中国系出産ツーリズムエージェンシーが提供する「出産ツアー」は、滞在にかかる費用を含めて1万5,000ドル~5万ドル(150万円~500万円)だという。昨年摘発された南カリフォルニアの出産施設の経営者の1人は、この2年間で中国に住む富裕層500人以上に出産ツアーサービスを提供し、300万ドル(約3億3,000万円)を売り上げたという。

今回国務省が発令した新規則は、このような「受け入れがたい現実」への水際対策の一つなのだろう。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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